リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

ランニングエコノミーがランニングパフォーマンスを高める理由を知っておこう

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 フルマラソンの世界記録10傑を見てみると、10人ともにアフリカの選手であることがわかります。なぜアフリカの選手はこれほどまでにランニングパフォーマンスが高いのでしょうか?

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 この問に対して、ランニングに関する多くの変数をもとに分析したラフバラー大学のShawらはひとつの結論を報告しました。それは、

 

 アフリカの選手との差は「ランニングエコノミーの差」である。

 

 というものでした(Shaw AJ, 2014)。

 

 今回は、ランニングエコノミーがランニングパフォーマンスを高める理由について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 最大酸素摂取量と嫌気性代謝閾値だけでは勝てない

 

 これまでランニングのパフォーマンスには最大酸素摂取量(VO2max)や嫌気性代謝閾値(AT)が大きく影響を及ぼすと考えられきました。最大酸素摂取量は酸素を取り込む能力のことであり、嫌気性代謝閾値有酸素運動から無酸素運動に切り替わるポイントのことを言います。ランニングでは、酸素を多く取り込み、有酸素運動を高いレベルで維持することによって、長く、速く走ることができるのです。

ランニングのメカニズムとランニングエコノミーについて知っておこう

 

 実際に最大酸素摂取量は、フルマラソンのパフォーマンスとの高い関係性(r=0.78)が示されいます(Sjödin B, 1985)。これによりランニングのトレーニングでは、最大酸素摂取量を高めるエクササイズが多く考案されてきました。

 

 しかし、どれだけ最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値を高めても世界記録やアフリカ選手の記録には到底、及ばなかったのです。そこで、酸素を取り込む能力である最大酸素摂取量だけでなく、酸素を使う能力も注目されるようになったのです。

 

 

◆ ランニングエコノミーがパフォーマンスを向上させる理由

 

 最大酸素摂取量はFickの法則で細分化することができます。

 

 最大酸素摂取量 = 心拍出量 ×(動脈酸素含有量 - 静脈酸素含有量)

 

 動脈酸素含有量-静脈酸素含有量は主に筋肉の酸素消費量によって決まります。同じランニングスピードでも筋肉が使う酸素の量が少なければ最大酸素摂取量は少なく済むのです。

 

 例えば、あるランニングスピードで走っているとします。そのときの動脈に取り込まれた酸素の量(動脈酸素含有量)を10として、筋肉で使う酸素の量を6とします。静脈酸素含有量は筋肉が酸素を使った残りなので10-6で4になります。このときの最大酸素摂取量は心拍出量を一定として無視すると10-4で6となります。

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 では、同じランニングスピードでも筋肉の酸素消費の効率性が良い場合、最大酸素摂取量はどうなるのでしょうか?

 

 動脈酸素含有量は同じ10で、筋肉で使う酸素の量を4とします。そうすると静脈酸素含有量は6になります。結果、最大酸素摂取量は10-6で4になり、先ほどと比べて-2少なくなるのです。

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 最大酸素摂取量が少なくなるということは、酸素の予備能が高まるため、同じ距離をより速く走れることを意味します。つまり、最大酸素摂取量を高めなくても、筋肉による酸素消費量を減らせばランニングパフォーマンスを高めることができるのです。

 

 このような酸素消費の効率性を「ランニングエコノミー」と言います。

 

 ランニングエコノミーと最大酸素摂取量を換算したV・VO2maxという変数とフルマラソンのパフォーマンスとの関係性は、最大酸素摂取量のみに比べて高い値(r=0.89〜0.94)が示されています。また、ランニングエコノミーによるランニングパフォーマンスへの影響度は20〜30%もあると算出されています(Noakes TD, 1990)。

 

 このような背景から、現在では、ランニングパフォーマンスの向上には最大酸素摂取量と嫌気性代謝閾値を高めるとともに、ランニングエコノミーを改善させるトレーニングがトピックスになっているのです。

 

 では、どのようにランニングエコノミーを向上させていけば良いのでしょうか?

 

 2015年、雑誌Sports Medicineにランニングエコノミーについてのレビューが掲載されました。そこにはランニングエコノミーを向上させる5つの要素(レジスタンストレーニング、耐久性トレーニング、栄養、ストレッチング、環境)が明らかにされています。

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 次回は、レジスタンストレーニングがランニングパフォーマンスを向上させるメカニズムについてレビューや最新の知見をもとに考察していきましょう。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

①:ランニングのメカニズムとランニングエコノミーについて知っておこう

②:ランニングエコノミーがランニングパフォーマンスを高める理由を知っておこう

 

References

Shaw AJ, et al. The valid measurement of running economy in runners. Med Sci Sports Exerc. 2014 Oct;46(10):1968-73.

Sjödin B, et al. Applied physiology of marathon running. Sports Med. 1985 Mar-Apr;2(2):83-99.

Noakes TD, et al. Peak treadmill running velocity during the VO2 max test predicts running performance. J Sports Sci. 1990 Spring;8(1):35-45.

Barnes KR, et al. Strategies to improve running economy. Sports Med. 2015 Jan;45(1):37-56.