リハビリmemo

大学病院勤務・大学院所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう


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 筋トレは多くのリターンを与えてくれます。

 

 筋トレは筋肉を肥大させ、筋力を高めるだけでなく、男性には男らしい肉体を、女性には美しいスタイルを与えてくれます。それだけでなく、筋トレは睡眠の質を高め、心臓を強くし、不安を和らげ、病気による死亡率を減少させてくれます。

筋トレが睡眠の質を高める

筋トレが不安を解消するエビデンス

筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

 

 しかし、リターンの裏には、リスクが存在するものです。リターンを得続けるためには、わずかなリスクでも回避しなければなりません。そのためにはリスクの正体を知り、適切にマネージメントすることが大切です。

 

 では、筋トレによるリスクとは何なのでしょうか?

 

 今回は筋トレのリスクについて、近年の報告をご紹介しましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 大動脈の硬化が脳卒中のリスク因子になる

 

 心臓からは1分間に60~70回ほど血液が勢いよく拍出されます。拍出された血液は波打つように血管内を流れていきます(拍動性血流)。この血流の波を最初に受け止めるのが頸動脈という大動脈です。大動脈は柔軟性に富んだ組織であり、この柔軟性によって血流の波を吸収します(O'Rourke MF, 2005)。このような緩衝作用が、その先にある脳などの細い血管へのストレスを減らしてくれるのです。

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 しかし、大動脈の柔軟性が失われると話は逆転します。

 

 老化などによって大動脈が硬化し、柔軟性が失われると心臓から拍出された血液の波を吸収することができなくなります。すると、血流の波は脳などの細い血管まで届いてしまい、継続的な波のストレスにより脳の血管が破れたり、詰まったりします。つまり、脳卒中の発症リスクが高くなるのです(Wohlfahrt P, 2014)。

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 脳卒中とは脳の血管が破れたり(脳出血)、詰まる(脳梗塞)ことにより発症する病気です。脳には運動を司る部位や言語を司る部位があり、脳卒中によってそれらの部位が損傷されると運動麻痺や言語の障害が生じてしまいます。

 

 このような背景の中、2000年以降から筋トレが大動脈の柔軟性を失わせるという研究結果が報告され始めているのです。

 

◆ 高強度の筋トレが脳の血管に与える影響とは?

 

 2004年、国立健康栄養研究所のMiyachiらは、トレーニング経験のない20〜38歳の男性を集め、被験者はトレーニングを受けるグループとトレーニングを受けないグループに分けられました。トレーニングを受けるグループは週3回、最大筋力の80%の重量でスクワットやベンチプレス、レッグエクステンションなどのトレーニングを8〜12回、3セット行い、これを4ヶ月間、継続しました。

 

 大動脈の硬さは、トレーニング前、トレーニング後2ヶ月ごとに測定され、4ヶ月間のトレーニング終了後もさらに4ヶ月間(合計8ヶ月間)計測されました。

 

 その結果、大動脈の硬さはトレーニングを実施したグループで有意な増加を示し、トレーニング終了後から4ヶ月間で通常のレベルまで戻ることが示されました。

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Fig.1:Miyachi M, 2004より筆者作成

 

 Miyachiらは、4ヶ月の高強度トレーニングによって大動脈の硬さが増加し、その後の4ヶ月で硬さがもどることから、大動脈の硬化は高強度トレーニングが起因していると推測しています(Miyachi M, 2004)。

 

 また、Miyachiらの報告を支持するように、カルフォルニア州立大学のSmithらは、習慣的な有酸素運動と筋トレによる大動脈の硬化度への影響を検証した結果、筋トレは有酸素運動よりも大動脈の硬化度が高くなることを報告しています(Smith MM, 2015)。

 

 これらの結果から、高強度の筋トレが大動脈を硬化させることが示唆されているのです。では、筋トレが大動脈を硬化させるのであれば、脳の血管にも影響を与えるのでしょうか?

 

 この問の答えを示したのが早稲田大学のNakamuraらです。

 

 2018年、Nakamuraらは、高強度の筋トレを習慣的(週5回、2年以上継続)に行っている被験者のグループと筋トレを行っていない被験者のグループを対象に、大動脈の硬さと脳の動脈の拍動を程度を比較しました。

 

 その結果、習慣的に高強度トレーニングを行っているグループでは、有意に大動脈の硬さが増加しており、脳の動脈の拍動が高いことが示されたのです。また、大動脈の硬さと脳の動脈の拍動には中等度の相関関係が認められました。

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Fig.2:Nakamura N, 2018より筆者作成

 

 この結果から、高強度の筋トレは大動脈の硬さを増加させるとともに、脳の動脈の拍動を高めることが示唆されたのです。

 

 高強度の筋トレによって大動脈が硬化するメカニズムについてNakamuaらは、自律神経の交感神経の影響と筋トレ時の過度な血圧上昇を挙げています。

 

 高強度の筋トレによって交感神経の活性化を示すノルエピネフリン濃度が上昇することが報告されています(Seals DR, 1991)。交感神経の活性化は動脈を収縮させる作用があります。また、高強度の筋トレ時の血圧は最大で330mmHgまで上昇することが報告されており(MacDougall J, 1986)、上昇した血圧は血管へのストレスになります。この交感神経の活性化と過度な血圧上昇が大動脈の硬化に寄与していると推測されています。

 

 大動脈の硬化によって血流の波の緩衝作用が低下し、脳の血管に増加した拍動が生じる可能性が示唆されました。また、以前より脳の血管の拍動変化は脳卒中のリスクに関与していることが報告されています(Wohlfahrt P, 2014)。このことから、Nakamuraらは最後にこう推察しています。

 

 「高強度の筋トレは脳卒中の発症リスクを高める可能性がある」

 

 しかし、これはあくまで推察であり、Nakamuraらの横断的研究から示唆されることは、ある時点では高強度の筋トレが脳の血管の拍動を高める可能性があるということです。高強度の筋トレが脳卒中の発症リスクを高めるというエビデンスを示すためには、大規模な縦断的調査(前向きコホート研究など)による検証が必要になるでしょう。

 

 しかしながら、これまでの研究によって示唆されているように、高強度の筋トレが大動脈を硬化させ、脳の血管に拍動ストレスを与える可能性は無視できません。安心して筋トレをするためにも、これをリスクと捉えてマネージメントする必要があります。

 

 動脈硬化を発症または増悪させる病気は、主に高血圧と糖尿病です。これらの病気がある場合はしっかりと治療を行い、定期的な健康診断を受けるべきでしょう。また喫煙も動脈硬化の危険因子になります。継続的に高強度の筋トレを行っている場合は、ときに低強度トレーニングを取り入れ、血管への負担を減らしてあげるのも良いと思われます。低強度でも疲労困憊まで高回数を行い総負荷量を高めることによって、高強度と同様の筋肥大の効果が期待できます。

筋トレの効果を最大にする運動強度について知っておこう

 

 筋トレは多くのリターンを与えてくれますが、その裏には少なからずリスクがあります。リスクを怖がるのではなく、リスクに関する情報を把握し、上手にマネージメントすることが大切です。

 

 安心してトレーニングに励むためにも、身体の健康管理をしっかりやっていきましょう。

 

 

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◆ 参考論文

Kamada M, et al. Strength Training and All-Cause, Cardiovascular Disease, and Cancer Mortality in Older Women: A Cohort Study. J Am Heart Assoc. 2017 Oct 31;6(11).

O'Rourke MF, et al. Relationship between aortic stiffening and microvascular disease in brain and kidney: cause and logic of therapy. Hypertension. 2005 Jul;46(1):200-4.

Wohlfahrt P, et al. Large artery stiffness and carotid flow pulsatility in stroke survivors. J Hypertens. 2014 May;32(5):1097-103; discussion 1103.

Miyachi M, et al. Unfavorable effects of resistance training on central arterial compliance: a randomized intervention study. Circulation. 2004 Nov 2;110(18):2858-63.

Smith MM, et al. Relationship between muscle sympathetic nerve activity and aortic wave reflection characteristics in aerobic- and resistance-trained subjects. Eur J Appl Physiol. 2015 Dec;115(12):2609-19.

Nakamura N, et al. Resistance Training Augments Cerebral Blood Flow Pulsatility: Cross-Sectional Study. Am J Hypertens. 2018 Feb 28.

Seals DR, et al. Regulation of muscle sympathetic nerve activity during exercise in humans. Exerc Sport Sci Rev. 1991;19:313-49.

MacDougall J. Morphological changes in human skeletal muscle following strength training and immobilization. In Jones NLMN, McComas AJ (ed), Human Muscle Power. Human Kinetics: Champaign, IL, 1986, pp. 269–285.