リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

時間がないときにやるべき筋トレメニューとは?〜その科学的根拠が明らかに

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 筋トレしたい。

 

 でも忙しくて筋トレする時間がなかなかとれない。

 

 短時間でも効果的な筋トレメニューはあるのだろうか?

 

 筋トレのメニューは目的(筋力のアップや筋肥大、パフォーマンス)に応じて異なります。そのため、このメニューをやれば万能な効果を得られるというものはありません。しかし、全身的な筋力や筋肉量を増大させることを目的とする筋トレメニューであれば最近に報告された研究結果が参考になるかもしれません。

 

 今回は、短時間で効果的な筋トレメニューについて考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 多関節トレーニングと単関節トレーニングはどちらが効果的?

 

 筋トレはニーエクステンションのような膝関節だけを動かす単関節トレーニングと、スクワットのような膝関節だけでなく股関節や足関節も動かす多関節トレーニングに分けられます。

 

 アメリカスポーツ医学会が2009年に発表した公式声明では、効果的な筋トレメニューは多関節トレーニングと単関節トレーニングを組み合わせたものであるとしています(ACSM, 2009)。

 

 ニューヨーク州立大学のSchoenfeldらも同じように、筋肥大を最大化させるためには多関節トレーニングに単関節トレーニングを組み合わせることが有用であると述べています。とくに三角筋上腕三頭筋大腿四頭筋といったサイズが大きい筋肉の筋肥大を目的とする場合は、両方のトレーニングを組み合わせて負荷量を増やすことを推奨しています。

筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

 

 しかし、単関節トレーニングと多関節トレーニングを組み合わせて行うためには、ある程度のまとまった時間が必要になります。では、忙しくて時間があまりなく、全身の筋力や筋肉量を増大させることを目的とした場合、単関節トレーニングと多関節トレーニングのどちらを行ったほうが効果的なのでしょうか?

 

 この問いについて検証したのがゴイアス連邦大学のGentilらです。

 

 2015年、Gentilらは単関節トレーニングと多関節トレーニングによる筋力、筋肥大の効果について検証しました。

 

 トレーニング経験のない被験者を単関節トレーニング(アームカール)を行うグループと多関節トレーニング(ラットプルダウン)を行うグループに分け、週2回、10週間のトレーニングを実施しました。トレーニング後、肘屈筋の筋力と超音波による筋厚が計測されました。

 

 その結果、単関節トレーニング、多関節トレーニングともに筋力、筋厚の増加を示しましたが、グループ間の増加率に有意な差は認められませんでした(Gentil P, 2015)。

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Fig.1:Gentil P, 2015より筆者作成

 

 さらにGentilらは、この結果を実証するために2017年、単関節トレーニングと多関節トレーニングの効果についての23の研究をまとめたレビューを報告しました。

 

 その結果、やはり単関節トレーニングと多関節トレーニングによる筋力、筋肥大の効果に有意な差は認められなかったのです。

 

 これらの結果から、Gentilらは単関節トレーニングと多関節トレーニングの効果に差がないのであれば、筋トレのメニューはジムのトレーニング機器、筋トレの時間、動作の特異性(パフォーマンス)に応じて選択するべきであると述べています(Gentil P, 2017)。

 

 しかし、Gentilらの研究結果には重大な欠点があり、これを指摘したのがパドヴァ大学のPaoliらです。



◆ 短時間で効果的な多関節トレーニング

 

 Gentilらの研究の欠点は、単関節トレーニングと多関節トレーニングのそれぞれの総負荷量が異なっていることでした。

 

 総負荷量はトレーニングの負荷、回数、セット数をかけ合わせた総量のことをいいます(総負荷量=負荷×回数×セット数)。近年では、総負荷量がトレーニングによる筋肥大の決定因子であることが明らかになっています。

エビデンスにもとづく筋肥大を最大化させるための筋トレ・ガイドライン

 

 通常、多関節トレーニングは単関節トレーニングよりも扱う負荷量が大きくなります。そのため、両トレーニングの総負荷量を同等にするためには、単関節トレーニングの回数やセット数を増やさなければなりません。Gentilらの研究ではこのような総負荷量の統制がなされていなかったのです。

 

 そして2017年12月、Paoliらは単関節トレーニングと多関節トレーニングの総負荷量を統制し、改めて両トレーニングの効果を検証しました。

 

 36名の被験者を単関節トレーニングと多関節トレーニングの2つのグループに分け、週3回、8週間のトレーニングを実施しました。

 

 多関節トレーニングは6〜8RMで行われ、総負荷量を同等にするために単関節トレーニングは12〜18RMで行われました。トレーニング前後で筋力(スクワット、ベンチプレス、膝伸展の1RM)、脂肪量、筋肉量(除脂肪量)、最大酸素摂取量が計測されました。

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Fig.2:Paoli A, 2017より筆者作成

 

 トレーニング後、両グループともに筋肉量、筋力、最大酸素摂取量の増大、脂肪量の減少を認めました。また両グループ間における筋肉量の増大と脂肪量の減少の効果に差はありませんでした。しかし、多関節トレーニングでは筋力と最大酸素摂取量の有意な増加が示されました。

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Fig.3:Paoli A, 2017より筆者作成

 

 多関節トレーニングは単関節トレーニングと総負荷量が同じ場合、筋肥大の効果に差はありませんが、筋力と最大酸素摂取量は有意に増加することがわかったのです(Paoli A, 2017)。

 

 最大酸素摂取量の増加は、体力(全身性持久力)の向上を意味します。これまで最大酸素摂取量の増加には有酸素運動が最適であるとされてきましたが、近年の公衆衛生学では、筋トレによっても最大酸素摂取量が増加することが示されており、トピックスになっています(Steele J, 2017)。

 

 実際、多関節トレーニングで示された最大酸素摂取量の12.5%の増大は通常の有酸素トレーニングによって得られた効果と同じか、それ以上であるとPaoliらは言います。多関節トレーニングは単関節トレーニングよりもトレーニングに参加する筋肉数が多いことが最大酸素摂取量の増加に寄与したと推測されています。

 

 Paoliらの報告は、多関節トレーニングは単関節トレーニングと比べて筋肥大の効果は同じですが、筋力、体力を向上させる効果があるという新たな事実を明らかにしています。多関節トレーニングは単関節トレーニングよりも大きな負荷量で行えるため、短時間で効果を得ることができることも利点でしょう。



 時間があり、特定な筋肉をさらに肥大させたい場合は、ASCMやSchoenfeldらが推奨するように多関節トレーニングに単関節トレーニングを組み合わせて行うことがスタンダードな筋トレメニューになります。

 

 しかし、時間がないときに全身的な筋力や筋肥大、体力の増強が目的であれば、単関節トレーニングよりも多関節トレーニングを中心としたメニューを組むことによって、その効果が期待できることを現代のスポーツ医学は示唆しているのです。

 


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References

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Gentil P, et al. Single vs. Multi-Joint Resistance Exercises: Effects on Muscle Strength and Hypertrophy. Asian J Sports Med. 2015 Jun;6(2):e24057.

Gentil P, et al. A Review of the Acute Effects and Long-Term Adaptations of Single- and Multi-Joint Exercises during Resistance Training. Sports Med. 2017 May;47(5):843-855.

Paoli A, et al. Resistance Training with Single vs. Multi-joint Exercises at Equal Total Load Volume: Effects on Body Composition, Cardiorespiratory Fitness, and Muscle Strength. Front Physiol. 2017 Dec 22;8:1105.

Steele J, et al. A higher effort-based paradigm in physical activity and exercise for public health: making the case for a greater emphasis on resistance training. BMC Public Health. 2017 Apr 5;17(1):300.