リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレとシトルリンの最新エビデンス


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 現代のスポーツ科学は、筋トレによって筋肥大の効果を最大化させるための方法論を明らかにしつつあります。

 

 筋肥大の効果は「トレーニングの総負荷量」がひとつのキーワードになります。トレーニングの強度や回数、セット数をかけ合わせた総負荷量を高めることが筋肥大の効果を高めるポイントになります。

筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

 

 しかし、トレーニングによって総負荷量を高めただけでは筋肥大は生じません。トレーニング後から24時間で効率的にタンパク質を摂取することによって、はじめて効果的な筋肥大が生じるのです。

筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

 

 本ブログでは、これまでにトレーニングやタンパク質摂取の方法論についての最新の研究報告をご紹介してきました。これらの知見を実際に試しながら、自分に合ったトレーニング、タンパク質摂取の方法をデザインすることがトレーニング効果の最大化につながるのです。

 

 そして、このようなトレーニング効果をさらに高めるのがエルゴジェニックエイドといわれるサプリメントです。

 

 ポパイはほうれん草を食べるとパワーアップします。マリオはきのこを食べるとパワーアップします。これと同じように、ぼくたちのパフォーマンスをアップさせる栄養素があるのです。このような栄養素をエルゴジェニックエイドといいます。

 

 前回は、エルゴジェニックエイドのひとつである「アルギニン」の最新エビデンスをご紹介しました。アルギニンには血流量を増加させ、成長ホルモンの分泌を促す作用が報告されていますが、トレーニング効果に対する現在のところのエビデンスは低いレベルとなっています。

筋トレとアルギニンの最新エビデンス

 

 今回は、アルギニンと同じような作用をもつ「シトルリン」の最新エビデンスについて近年の報告をご紹介しましょう。



Table of contents




◆ なぜ、シトルリンが筋トレに効果的なのか?

 

 1998年、ノーベル医学・生理学賞を受賞したルイス・イグナロ氏らは、血管が拡がるメカニズムである「一酸化窒素(NO)サイクル」を解明しました。

 

 血管の壁は3層構造になっており、内側に内皮細胞があります。内皮細胞は血管を拡げる役割を担っており、そのスイッチになるのが一酸化窒素(NO)です。一酸化窒素は、アミノ酸であるアルギニンから生成され、これにより内皮細胞が血管を拡げます。

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 そして、アルギニンは一酸化窒素だけでなく、もうひとつ別のアミノ酸を生成します。それが「シトルリン」です。生成されたシトルリンは再び、アルギニンとなって一酸化窒素の生成に役立てられます。

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 このような仕組みを「一酸化窒素(NO)サイクル」といい、この解明に尽力したルイス・イグナロ氏らにノーベル医学・生理学賞が贈られたのです。

 

 つまりシトルリンはアルギニンの前駆体であり、そのためアルギニンと同じように一酸化窒素の生成に寄与し「血管の拡張による血流量の増加作用」があるとされているのです。

 

 このように書くと、シトルリンよりもアルギニンを摂取したほうが効果が高いのではないか?と思われるかもしれません。しかし、興味深いことにシトルリンはアルギニンよりも血管の拡張作用が高いことが示唆されています(Schwedhelm E, 2008)。

 

 アルギニンを摂取すると、腸や肝臓でアルギナーゼ酵素の活性によって利用可能率が低下しますが、シトルリンはこのような影響を受けずに代謝されます。そのため、アルギニンを摂取するよりも、シトルリンを摂取してアルギニンに変換したほうが結果的にアルギニンの利用能を高めることができるのです 。

 

 そして、シトルリンによる血管の拡張作用にともなう血流量の増加がトレーニング時の疲労物質の排除などに寄与し、トレーニングのパフォーマンスを高めるとされているのです。

 

 では、本当にシトルリンはトレーニング効果を高めることができるのでしょうか?



シトルリンによるパフォーマンス向上の効果のエビデンス

 

 2015年、ミシシッピ州立大学のWaxらは、シトルリンの摂取が脚のトレーニングパフォーマンスに与える影響について検証しました。

 

 被験者として集められたトレーニング経験者は、シトルリンリンゴ酸(8g)を摂取するグループと、同量のプラセボ粉末を摂取するグループに分けられました。両グループはトレーニングの60分前にシトルリンリンゴ酸およびプラセボを摂取し、レッグプレス、レッグエクステンションなどのトレーニングを行いました。トレーニング強度は最大筋力の60%で疲労困憊まで行い、これを5セット施行し、それぞれのセットにおける運動回数(レップ数)が計測されました。また、トレーニング前後で乳酸の血中濃度が計測されています。

 

 その結果、シトルリンリンゴ酸を摂取したグループは、プラセボを摂取したグループと比べてレッグプレス、レッグエクステンションともに運動回数が上回ることが示されました。また、トレーニング前後の乳酸の血中濃度に有意な差は認められませんでした(Wax B, 2015)。

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Fig.1:Wax B, 2015より筆者作成

 

 つぎに、Waxらは、シトルリン摂取による腕のトレーニングパフォーマンスへの影響について検証しました。

 

 被験者であるトレーニング経験者は、シトルリンリンゴ酸(8g)を摂取するグループとプラセボ粉末を摂取するグループに分けられました。これらを摂取した後、懸垂を3セット行い、それぞれのセットにおける運動回数と3セットの総回数を計測しました。また、トレーニング前後で乳酸の血中濃度を計測しています。

 

 その結果、シトルリンリンゴ酸を摂取したグループは、プラセボを摂取したグループよりも懸垂の総回数で有意な増加を示しました。トレーニング前後の乳酸の血中濃度に有意な差はありませんでした(Wax B, 2016)。

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Fig.2:Wax B, 2016より筆者作成

 

 さらに2017年、アーカンソー大学のGlennらは、これまでの検証が男性のみを対象に行われていたため、女性を対象にしたシトルリン摂取によるトレーニングパフォーマンスへの影響について検証を行いました。

 

 その結果、シトルリンリンゴ酸を摂取することにより、ベンチプレス、レッグプレスの総回数が有意に増加することが示されました。この結果により、男性だけでなく女性においてもシトルリンがトレーニングのパフォーマンスを向上させることが示唆されました(Glenn JM, 2017)。

 

 これらの結果から、シトルリンリンゴ酸は性別や腕、脚といった部位に関係なくトレーニングの耐久性を向上させ、運動回数(レップ数)を増加させる効果が示唆されているのです。

 

 しかし、シトルリンの効果のメカニズムである「血管の拡張による血流量の増加にともなう乳酸の排除」については示されませんでした。そのため、なぜシトルリンがトレーニングのパフォーマンスを高めたのか?というメカニズムは明らかになっていないのです。

 

 ここで指摘されているのが、これらの検証がシトルリン単独の摂取ではなく、リンゴ酸を付加していることです。リンゴ酸はトレーニングのエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を再合成するクレアチンリン酸の増加に寄与することが報告されています(Bendahan D, 2001)。そのため、シトルリンとともにリンゴ酸を摂取したことによるATPの再合成作用がトレーニングのパフォーマンス向上に寄与した可能性が指摘されています。

 

 このような背景から、2018年に国際スポーツ栄養学会(ISSN)が報告したサプリメントエビデンスをまとめたレビューでは、シトルリンは「限定された効果のあるエビデンスを示すもの」であるエビデンスBに分類されているのです(Kerksick CM, 2018)。

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Fig.3:Kerksick CM, 2018より筆者作成

 

 シトルリンリンゴ酸の摂取によるトレーニングパフォーマンスの向上効果は示されていますが、パフォーマンスが向上しなかったという否定的な報告(Chappell AJ, 2018)もあり、明確なエビデンスを示すためにはメタアナリシスの実施が必要と思われます。また、シトルリン単独でもトレーニングのパフォーマンスを高めることができるのか?それはどのようなメカニズムにもとづいているのか?といった検証を行う必要性があるでしょう。

 

 ポパイがほうれん草を食べてパワーアップするように、ぼくたちがシトルリンを摂取してパフォーマンスが向上するか否かについては、現時点では「限定された効果がある」ということになります。

 

 

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◆ 読んでおきたい記事

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シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

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シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

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シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

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シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由

シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

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◆ 参考論文

Schwedhelm E, et al. Pharmacokinetic and pharmacodynamic properties of oral L-citrulline and L-arginine: impact on nitric oxide metabolism. Br J Clin Pharmacol. 2008 Jan;65(1):51-9.

Wax B, et al. Effects of supplemental citrulline malate ingestion during repeated bouts of lower-body exercise in advanced weightlifters. J Strength Cond Res. 2015 Mar;29(3):786-92.

Wax B, et al. Effects of Supplemental Citrulline-Malate Ingestion on Blood Lactate, Cardiovascular Dynamics, and Resistance Exercise Performance in Trained Males. J Diet Suppl. 2016;13(3):269-82.

Glenn JM, et al. Acute citrulline malate supplementation improves upper- and lower-body submaximal weightlifting exercise performance in resistance-trained females. Eur J Nutr. 2017 Mar;56(2):775-784.

Bendahan D, et al. Citrulline/malate promotes aerobic energy production in human exercising muscle. Br J Sports Med. 2002 Aug;36(4):282-9.

Chappell AJ, et al. Citrulline malate supplementation does not improve German Volume Training performance or reduce muscle soreness in moderately trained males and females. J Int Soc Sports Nutr. 2018 Aug 10;15(1):42.

Kerksick CM, et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. J Int Soc Sports Nutr. 2018 Aug 1;15(1):38.