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理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう


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 「筋トレは朝やるべきでしょうか、夕方やるべきでしょうか?」

 

 よく聞かれるこの質問に、これまでスポーツ科学は明確な答えを示せていませんでした。それは、筋トレの効果が高まる「トレーニングの時間帯」についての研究報告の数が十分でなかったからです。

 

 しかし、徐々に報告が増える中、2019年1月、世界で初めての筋トレの効果が高まる「トレーニングの時間帯」を検証した解析結果が報告されました。

 

 今回は、筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題の答えとなる、最新のエビデンスをご紹介しましょう。

 

 

Table of contents

 

 

◆ 筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

 

 私たちが夜眠りにつき、朝目覚めるように、地球上の多くの生物が24時間周期のリズムをもっています。こうしたリズムは「概日リズム(サーカディアンリズム)」と呼ばれ、一般的には「体内時計」と言われています。

 

 それでは、ヒトのサーカディアンリズムを見てみましょう。

 

 朝起きて、10時ごろになると集中力がもっとも高くなります。午前中に仕事がはかどるのはこのためです。また、お昼をすぎると体温が上昇していきます。14時ごろには反応速度がもっとも速くなり、16時以降には筋力がもっとも高まります。

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 フランス・ブルゴーニュ大学のGuetteらは、6時、10時、14時、18時、22時に大腿四頭筋の筋力を計測した結果、6時と22時がもっとも筋力が低く、18時がもっとも高まることを報告しています(Guette M, 2005)。

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Fig.1:Guette M, 2005より筆者作成

 

 このようなサーカディアンリズムの中でもっとも能力が高まる時間帯のことを「アクロフェーズ(Acrophase)」といいます。そのため、筋トレをするなら、筋力のアクロフェーズである「夕方」が効果的であると考えられてきたのです。

 

 しかし、現代のスポーツ科学は、この常識とは異なる研究結果を報告しています。

 

 「長期間、朝のトレーニングを続ければ、夕方と同じ効果が得られる」

 

 フィンランド・ユヴァスキュラ大学のSedliakらは、10週間の異なる時間帯に行われたトレーニング結果を報告しています。

 

 トレーニング経験のない被験者(平均年齢30歳前後)が集められ、予備トレーニングとして筋力のアクロフェーズである夕方17〜19時に行うトレーニングを10週間続けました。これにより、トレーニング経験を得るとともに、夕方のトレーニングを習慣づけました。

 

 その後、被験者は朝7〜9時にトレーニングを行うグループ(朝トレ)と夕方17〜19時に行うグループ(夕方トレ)、トレーニングを行わないグループ(対照群)の3つに分け、さらに10週間(週2回)のトレーニングが行われました。

 

 その結果、10週間のトレーニングによって朝トレ、夕方トレは対照群よりも筋力が増強し、筋肉量も増加しました。しかし、朝トレと夕方トレの効果に有意な差は認められなかったのです。

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Fig.2:Sedliak M, 2009より筆者作成

 

 この結果は、夕方にトレーニングを行う習慣があったとしても、10週間、朝のトレーニングを行うことによって、夕方のトレーニングと同等の効果を得られることを示唆しています(Sedliak M, 2009)。また、チュニジア・スポーツ医科学センターのChtourouらもSedliakらと同様の結果を報告しています(Chtourou H, 2012)。

 

 これらの報告により、筋トレはアクロフェーズである夕方にやるべきか、あるいは朝にやるべきかの議論が行われるようになりました。

筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

 

 そして2019年1月、この議論のひとつの答えを示すシステマティックレビューおよびメタアナリシスが報告されたのです。

*システマティックレビューとメタアナリシスは、これまでの研究結果をレビューするとともに統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 

◆ 筋トレは朝やっても夕方やっても効果は同じ

 

 オーストラリア・ビクトリア大学のGrgicらは、これまでに朝あるいは夕方に行うトレーニングの効果について報告された11の研究結果をまとめて解析したシステマティックレビューおよびメタアナリシスを世界で初めて報告しました。

 

 被験者は男女221名(若年者10件、高齢者1件)で、トレーニングの実施期間は平均11週間(6週〜24週)であり、長期間のトレーニングが行われています。被験者は、朝にトレーニングを行ったグループ(朝トレ)と夕方に筋トレを行ったグループ(夕方トレ)に分けられ、トレーニング期間の前後で筋力増強と筋肥大の効果が計測されました。また、被験者の大多数が極端なクロノタイプ(朝型or夜型)に当てはまらないことも確認されています。

 

 では、解析の結果を見ていきましょう。

 

 全被験者のトレーニング前の筋力を朝と夕方に計測してみると、やはり「夕方の筋力が朝よりも高い」ことがわかりました。この結果は、これまでの報告の通り、サーカディアンリズムの筋力のアクロフェーズによるものとされています。

 

 次に、トレーニング後の筋力増強の効果では、朝トレと夕方トレともに筋力増強の効果を示しましたが、グループ間の有意な差は認められませんでした。また、サブグループ解析により、朝と夕方の2つの時間帯でそれぞれ比較した結果、双方の時間帯においても、朝トレ、夕方トレによる筋力増強の効果に有意差は認められませんでした。

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Fig.3a:Grgic J, 2019より筆者作成

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Fig.3b:Grgic J, 2019より筆者作成

 

 この結果は、長期間の朝のトレーニングを行えば、夕方のトレーニングと同等の筋力増強の効果が得られることを示唆しています。

 

 さいごに、トレーニング後の筋肥大の効果では、朝トレと夕方トレともに筋肥大の効果を示しましたが、グループ間に有意な差は認められませんでした。

 

 この結果は、筋力増強の効果と同じように、長期間の朝のトレーニングを行えば、夕方のトレーニングと同等の筋肥大の効果が得られることを示唆しています。

 

 これらの結果から、Grgicらは「朝と夕方のトレーニングによる筋力増強、筋肥大の効果に明らかな差はない」と結論づけています。

 

 このシステマティックレビューとメタアナリシスは、研究数が少ない(筋肥大の対象研究は5つ)ため、今後のさらなる検証が必要になりますが、対象研究の品質は中程度以上のものであり、筋力増強、筋肥大の効果の異質性(研究間のバラツキ)も低いため、エビデンスレベルの高い結果として捉えられます。

 

 Grgicらの報告は「長期間の朝のトレーニングは、夕方のトレーニングと同等の効果が得られる」という現在のところのエビデンスを示しているのです。

 

 それでは、なぜ長期間の朝のトレーニングは、サーカディアンリズムを影響を超えて、夕方のトレーニングと同等の効果が得られるのでしょうか?

 

 その理由が「サーカディアンリズムのしくみ」にあります。



◆ 筋肉にある「もうひとつの時計」を変えよう

 

 僕たちは、朝日をあびると目が覚め、身体を起こして活動します。

 

 朝日の光が目の網膜を通じて脳にある視交叉上核を刺激すると、その刺激は体温中枢や摂食中枢、自律神経に伝わり、身体活動が喚起されることによって、目を覚まし、活動的に動けるのです。そして筋肉にも視交叉上核からの指令が伝わり、筋力などがコントロールされています。

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 このようなメカニズムから、視交叉上核はサーカディアンリズムの中心的な時計の役割を担っており、「マスタークロック」と呼ばれています。

 

 これに対して、近年では、もうひとつの時計である「末梢時計」が筋肉にもあることがわかってきました。

 

 ケンタッキー大学のWolffらは、動物実験により、ある時間帯で筋活動を習慣的に行うことによってサーカディアンリズムの影響を超えて、筋肉の分子リズムを変化させることを報告しました。これにより、筋肉にも末梢時計があることが示唆されたのです(Wolff G, 2012)。

 

 現在では、筋肉をはじめ、身体のあらゆる器官に時計細胞が存在し、各器官の末梢時計がマスタークロックである視交叉上核と相互に影響しあっていることが示唆されています(Aoyama S, 2017)。

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 このようなサーカディアンリズムのしくみから、長期的な朝のトレーニングは、筋肉にある末梢時計を変化させることによって、夕方のトレーニングと同じ効果が得られると推察されているのです(Grgic J, 2019)。




 「筋トレは朝やるべきでしょうか、夕方やるべきでしょうか?」

 

 この問に現代のスポーツ科学は、現在のところのエビデンスとして、こう答えています。

 

・短期的なトレーニングでは、サーカディアンリズムの筋力のアクロフェーズである夕方が効果的である。

 

・長期的なトレーニングでは、筋肉の末梢時計を変化させることによって、朝でも夕方と同じ効果が得られる。

 

 

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◆ 参考論文

Guette M, et al. Time-of-day effect on the torque and neuromuscular properties of dominant and non-dominant quadriceps femoris. Chronobiol Int. 2005;22(3):541-58.

Sedliak M, et al. Effect of time-of-day-specific strength training on muscular hypertrophy in men. J Strength Cond Res. 2009 Dec;23(9):2451-7.

Chtourou H, et al. The effect of training at the same time of day and tapering period on the diurnal variation of short exercise performances. J Strength Cond Res. 2012 Mar;26(3):697-708.

Grgic J, et al. The effects of time of day-specific resistance training on adaptations in skeletal muscle hypertrophy and muscle strength: A systematic review and meta-analysis. Chronobiol Int. 2019 Jan 31:1-12.

Wolff G, et al. Scheduled exercise phase shifts the circadian clock in skeletal muscle. Med Sci Sports Exerc. 2012 Sep;44(9):1663-70. 

Aoyama S, et al. The Role of Circadian Rhythms in Muscular and Osseous Physiology and Their Regulation by Nutrition and Exercise. Front Neurosci. 2017 Feb 14;11:63.