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筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論


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 2016年、オランダ・マーストリヒト大学のTrommelenらは、雑誌Nutrientsで就寝前のタンパク質摂取がトレーニング効果を高める根拠や、その方法論について体系化させたレビュー(まとめ)を報告しています(Trommelen J, 2016)。現代のスポーツ栄養学では、就寝前にタンパク質を摂取することによって、トレーニング後の筋タンパク質の合成作用を最大化させることが明らかになっているのです。

 

 2008年から始まった就寝前のタンパク質摂取の研究により、就寝時の筋タンパク質の合成作用を高めるためには、より多くのタンパク質の摂取量(30-40g)が必要であることがわかりました。これは概日リズム(サーカディアンリズム)によって、就寝時の腸の吸収機能が低下するためです。

 

 これらの基礎研究をもとに、実際に就寝前に高用量のタンパク質を摂取すると、就寝後7-9時間の筋タンパク質の合成率が増加することが明らかになりました。また12週間、就寝前のタンパク質摂取を継続することにより、筋肉のボリュームや筋力の増強が示されています。

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

 

 そして2016年になると、就寝前のタンパク質摂取の効果をさらに高める方法論についての研究結果が報告されるようになりました。

 

 今回は、就寝前のタンパク質摂取の方法論について考察していきましょう。

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Table of contents

 

 

◆ 就寝前のタンパク質を摂取する場合、トレーニングは夕方に行うと効果的

 

 トレーニング後、少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が増大し、筋肉が増えやすくなります。ここでトレーニング効果を最大化するために必要なのが3食のバランスの良いタンパク質の摂取です。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 例えば、早朝にトレーニングを行った場合、その後の朝食、昼食、夕食時に必要量のタンパク質を摂取することが推奨されています。

 

 では、この場合でも就寝前のタンパク質摂取は効果的なのでしょうか?

 

 答えは「No」となります。スポーツ栄養学では早朝のトレーニングにおける就寝前のタンパク質摂取の効果は高くないことが示されています。就寝前のタンパク質摂取による効果を最大にしたいときは、早朝ではなく「夕方」にトレーニングを行うべきなのです。

 

 2016年、Trommelenらは24名の被検者(平均年齢23歳、体重75kg)を対象にして、異なる時間帯にトレーニングを行い、就寝前のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、夕方にトレーニングを行ったグループは他の時間帯に行ったグループよりも30%以上の筋タンパク質の合成率の増加を認めました(Trommelen J, 2016)。

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Fig.1:Trommelen J, 2016より引用改変

 

 また、オランダ食品栄養学先端研究所のHolwerdaらは、23名の高齢者(平均年齢71歳、体重79kg)を対象に、異なるトレーニング時間帯による就寝前のタンパク質摂取の影響について検証しました。その結果は、やはり夕方に行ったグループの筋タンパク質の合成率が30%増加しました(Holwerda AM, 2016)。

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Fig.2:Holwerda AM, 2016より引用改変

 

 これらの報告から、就寝前のタンパク質摂取を考慮した場合、夕方にトレーニングを行うことがトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を最大化させると示唆されているのです。

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 しかし、この論考に対して「就寝前のタンパク質摂取が、翌日の朝食時のタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用を低下させるのではないか?」という疑義が生じていました。

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 この疑義に対して、マーストリヒト大学のWallらは、就寝前にタンパク質摂取を行ったときの翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率の変化を検証しました。

 

 16名の被検者(平均年齢24歳、体重74kg)をトレーニング後の就寝前にタンパク質を摂取したグループ、摂取しないグループのふたつに分け、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、ふたつのグループの筋タンパク質の合成率に差がないことがわかったのです。

 

 この結果は、就寝前にタンパク質を摂取しても、翌日の朝食後の筋タンパク質の合成作用を阻害しないことを示しています。

 

 これらの知見から、スポーツ栄養学はトレーニング後24時間の効率的なタンパク質摂取について、こう結論づけています。

 

 「夕方にトレーニングを行い、その後の夕食、就寝前、翌日の朝食、昼食に適切なタンパク質の摂取量を摂取することがトレーニング効果を最大化させる」



◆ 就寝前のプロテイン摂取は「カゼイン」一択

 

 トレーニング後の適切なタンパク質の摂取量は、年齢や体重によって異なります。では就寝前のタンパク質の摂取量はどの程度が適切なのでしょうか?

 

 これまでの知見から「30g〜40gの高容量」が適切であるとされています。睡眠時は腸のタンパク質の吸収能が低下します。そのため、年齢や体重から推奨される摂取量では不十分なのです。今まで紹介してきた臨床研究の全てで30g以上のタンパク質が使用されており、その効果が確認されています。

 

 では、どのようなプロテインの種類を選択すれば効果的なのでしょうか?

 

 スポーツ栄養学では、この問いについて「カゼイン」のプロテインが最適であるとしています。

 

 タンパク質には乳タンパク質や大豆タンパク質などがあり、乳タンパク質にはホエイとカゼインがあります。ホエイは胃からの排出速度が早いため、速やかに吸収されますが、カゼインは胃酸により凝固、沈殿するため、胃からの排出が遅くなります。その結果として、ホエイとカゼインを比較した研究では、6時間の筋タンパク質の合成作用において、ホエイが速く、カゼインが遅いことが示されています(Pennings B, 2011)。

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Fig.3:Pennings B, 2011より引用改変

 

 典型的な食後の時間(4-5時間)に比べて長い就寝時間では、ゆっくり消化され、血中アミノ酸濃度が中等度で長時間において維持できるカゼインが適していると考えられているのです。実際、これまで紹介した臨床研究はすべてカゼインプロテインが使用されています。

 

 また、カゼインはホエイに比べて血中ロイシン濃度も低くなります。そのため、Trommelenらはカゼインに2gのロイシンを加えたプロテインを就寝前に摂取させましたが、カゼインのみのプロテインと筋タンパク質の合成率に差はなかったことを示しています(Trommelen J, 2016)。

 

 これらの知見から、就寝前のタンパク質摂取にカゼインが最適であるとしているのです。

 

 参考ですが、Trommelenらのレビューでは、カゼインのみでなく、カゼイン加水分解物50%とカゼイン50%の組み合わせが血中アミノ酸濃度をすばやく増加させ、長時間にわたって筋タンパク質の合成作用を高めるとして薦めています。試してみても良いかもしれません。

 

 就寝前のタンパク質摂取は明らかにトレーニング後24時間の筋タンパク質の合成作用を高めます。夕方にトレーニングを行えるときは、就寝前のタンパク質摂取を考慮することでトレーニング効果に差をつけることができるでしょう。

 

 

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◆ 参考論文 

References

Trommelen J, et al. Pre-Sleep Protein Ingestion to Improve the Skeletal Muscle Adaptive Response to Exercise Training. Nutrients. 2016 Nov 28;8(12).

Trommelen J, et al. Resistance Exercise Augments Postprandial Overnight Muscle Protein Synthesis Rates. Med Sci Sports Exerc. 2016 Dec;48(12):2517-2525.

Holwerda AM, et al. Physical Activity Performed in the Evening Increases the Overnight Muscle Protein Synthetic Response to Presleep Protein Ingestion in Older Men. J Nutr. 2016 Jul;146(7):1307-14.

Wall BT, et al. Presleep protein ingestion does not compromise the muscle protein synthetic response to protein ingested the following morning. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Dec 1;311(6):E964-E973.

Pennings B, et al. Whey protein stimulates postprandial muscle protein accretion more effectively than do casein and casein hydrolysate in older men. Am J Clin Nutr. 2011 May;93(5):997-1005.