リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

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 私たちの筋肉が増えたり、減ったりするのは、筋肉のもとである筋タンパク質の合成作用と分解作用のバランスによって決まります。筋肉を増やすためには、筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。

筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 マクマスター大学のPhillipsらは、筋タンパク質の合成作用に対するトレーニングとタンパク質摂取の重要性について報告しています。お腹が空いた状態では分解作用が大きくなりバランスはマイナスになります。ここで食事(タンパク質)をとると合成作用が分解作用を上回り、バランスはややプラスに戻ります。また、お腹が空いた状態でトレーニングをしてもバランスはマイナスになります。トレーニングをして、食事をすることで筋タンパク質が大きくプラスになります(Phillips SM, 2004)。

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Fig.1:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 このように筋タンパク質の合成作用を大きくし、筋肉を増大させるためには「トレーニングと食事(タンパク質)」の組み合わせが必須になるのです。

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 ここでトレーニングの量が一定だとすると、筋タンパク質の合成作用を最大化させるためには「タンパク質の効果的な摂取」がKey factorになります。

 

 タンパク質の摂取は、タンパク質の量、摂取タイミング、摂取パターンなどによって規定されます。効果的にタンパク質を摂取するためには、これらの要素を根拠ある方法によって実践しなければなりません。そのため本ブログでは、これらの要素についてスポーツ栄養学の知見にもとづいて考察してきました。

 

 筋タンパク質の合成感度がもっとも高まるのは、トレーニング後1時間以内であり、この時間帯はタンパク質摂取のゴールデンタイムと言われています。この時間に最適なタンパク質の量を摂取することがトレーニング効果の最大化に寄与することが明らかになっています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

 

 また、トレーニング後24時間は筋タンパク質の合成感度が高い状態が続きます。トレーニング効果を最大化させるためには、この24時間に最適なタンパク質の摂取パターンを考慮しなければなりません。現在では、タンパク質の必要量を3時間おきに摂取するパターンが推奨されています(Areta JL, 2013)。しかし、3時間おきの摂取が難しい場合は、3食の食事においてタンパク質をバランス良く摂取することが薦められています(Mamerow MM, 2014)。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

 

 そして2016年、新たなタンパク質の摂取方法を体系化させた報告が雑誌Nutrientsに掲載されました。それが「就寝前のタンパク質摂取(Pre-sleep protein ingection)」です。

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Table of contents

 

 

◆ 就寝時はタンパク質の吸収能力が低下する

 

 仕事終わりの夕方にトレーニングを行った場合、その後の夕食、翌日の朝食と昼食までの3食のバランスの良いタンパク質摂取が筋タンパク質の合成作用を高め、トレーニング効果を最大化させます。

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 しかし、この考えには大事な時間帯が抜けています。それは就寝時間が考慮されていないことです。就寝後は筋タンパク質の合成作用が刺激されないため、筋タンパク質のバランスは分解作用に大きく傾いてしまうのです。

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 そのため、就寝前にプロテインを摂取し、就寝時の筋タンパク質の合成作用を高めることによってさらにトレーニング効果を最大化できないか?と考え、スポーツ栄養学の界隈で研究が始まりました。

 

 2008年、マーストリヒト大学のBeelenはトレーニングを行った日の就寝前にプロテインによりタンパク質20-25gを摂取し、就寝9時間後の筋タンパク質の合成率を検証しました。Beelenらは就寝前のタンパク質摂取が筋タンパク質の合成率を高めると仮説を立てていましたが、結果は水を飲んだ被検者と差がないというものだったのです。

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Fig.2:Beelen M, 2008より引用改変

 

 この結果から、就寝前のタンパク質摂取は、筋タンパク質の合成作用を促進しない可能性が示唆されました(Beelen M, 2008)。

 

 この報告に疑問をもったのが同じ研究グループのGroenです。Groenは腸内運動が概日リズム(サーカディアン・リズム)にもとづくことから、夜間はタンパク質の吸収機能が低下すると仮定し、より多くのタンパク質を摂取することによって筋タンパク質の合成作用を刺激できるのではないか?と考えました。

 

 Groenはこの仮説を実証するため、被検者の就寝中に経鼻胃管(鼻から胃まで入れられたチューブ)を通じてタンパク質を直接、摂取させて筋タンパク質の合成反応を調べました。その結果、タンパク質を40gまで増量することによって、筋タンパク質の合成率が高まることがわかったのです。

 

 この結果から、就寝中のタンパク質の吸収能力は低下しますが、タンパク質の摂取量を増やすことで筋タンパク質の合成が可能であることが明らかになりました(Groen BB, 2012)。

 

 これらの知見から、就寝前に一般的な摂取量よりも多めのタンパク質を摂取することによって、就寝中の筋タンパク質の合成作用を増大できることが推測されました。ここから就寝前のタンパク質摂取の研究は次のステップに移っていきます。

 

 

◆ 就寝前のタンパク質摂取は筋タンパク質の合成作用を高める

 

 Groenらの研究報告を受けて、Resらは新たに就寝前のタンパク質摂取による効果について調査しました。レジスタンストレーニングを行った被検者に対して、就寝前に40gのタンパク質を摂取させました。就寝後7.5時間が経過したところで筋タンパク質の合成率を計測すると、水を飲んだ被検者に比べて、約22%の筋タンパク質の合成率の増加を認めたのです(Res PT, 2012)。

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Fig.3:Res PT, 2012より引用改変

 

 これらの報告から、就寝前のタンパク質の摂取では、一般的な20-25gでは筋タンパク質の合成作用を刺激するためには不十分であること、40g程度の高用量のタンパク質を摂取することで効果的に筋タンパク質の合成を高められることが明らかになりました。

 

 では、このような就寝前のタンパク質摂取を継続した場合、効果的に筋肉を増やすことができるのでしょうか?

 

 Snijdersらは長期間の就寝前のタンパク質摂取の効果を検証しました。トレーニング歴のある44名の若者(平均年齢22歳、体重80kg)を対象に、12週間のトレーニングプログラムとともに就寝前にカゼインプロテイン30gを摂取させました。その結果、就寝前に水を摂取したグループと比較して、大腿四頭筋の筋ボリュームが増加するとともに、筋力(1RM)も増強されることが示唆されたのです(Snijders T, 2015)。

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Fig.4:Snijders T, 2015より引用改変

 

 Snijdersらの報告は、トレーニング後の就寝前のタンパク質摂取は、即時的に筋タンパク質の合成作用を高めるだけでなく、長期的に継続することによってさらに筋肉を増大させる可能性を示したものでした。

 

 2008年から始まった就寝前のタンパク質摂取の研究により、高用量のタンパク質を摂取することによって、就寝時でも筋タンパク質の合成作用を刺激できることがわかりました。そしてトレーニングとともに就寝前のタンパク質摂取を長期に継続することで筋肉を効率的に増加させることが明らかになっているのです。

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 それでは、就寝前のタンパク質摂取の効能をさらに高めるトレーニングの時間帯はいつが良いでしょうか?またどのような種類のタンパク質を摂取するば効果的なのでしょうか?これらの疑問も現代のスポーツ栄養学で明らかにされています。

 

 次回、睡眠前のタンパク質摂取の具体的な方法論について考察していきましょう。



◆ 知っておきたい参考記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

 

References

Phillips SM, et al. Protein requirements and supplementation in strength sports. Nutrition. 2004 Jul-Aug;20(7-8):689-95.

Areta JL, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. J Physiol. 2013 May 1;591(9):2319-31.

Mamerow MM, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. J Nutr. 2014 Jun;144(6):876-80.

Beelen M, et al. Coingestion of carbohydrate and protein hydrolysate stimulates muscle protein synthesis during exercise in young men, with no further increase during subsequent overnight recovery. J Nutr. 2008 Nov;138(11):2198-204.

Groen BB, et al. Intragastric protein administration stimulates overnight muscle protein synthesis in elderly men. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2012 Jan 1;302(1):E52-60.

Res PT, et al. Protein ingestion before sleep improves postexercise overnight recovery. Med Sci Sports Exerc. 2012 Aug;44(8):1560-9.

Snijders T, et al. Protein Ingestion before Sleep Increases Muscle Mass and Strength Gains during Prolonged Resistance-Type Exercise Training in Healthy Young Men. J Nutr. 2015 Jun;145(6):1178-84.