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筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう


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 「科学により裏付けされたタンパク質の摂取方法(量や質、タイミング)を実践することで、日頃のトレーニングの効果を最大限に引き出すことが可能になる」

 

 現代のスポーツ栄養学では、効率的に筋肉を増やす方法についてこのように述べています。近年、アミノ酸安定同位体を用いる研究手法が確立され、スポーツ栄養学の分野からアスリートのパフォーマンス向上に関する知見が次々と報告されているのです。

 

 このような知見をもとに、今回は栄養摂取による筋肉を増やすメカニズムについて考察していきましょう。

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Table of contents

 

 

◆ 筋肉を増やすための栄養摂取で重要なものとは?

 

 まず筋肉の構造を見てみましょう。筋肉は筋線維が束になったもので、筋線維は筋原線維が束になったものです。筋原線維はアクチンとミオシンという筋タンパク質からできています。

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図1:Neuroscience of fandamentals for rehabilitationより引用改変

 

 筋肉を増やすためには、この「筋タンパク質」を増やさなければなりません。

 

 筋タンパク質は24時間いつも作られたり、分解されたりしています。普通に生活していても筋肉の量が保たれているのは、筋タンパク質が作られる(合成される)量と分解される量が釣り合っているからです。

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図2:筋タンパク質の合成と分解のバランス

 

 しかし、過度なダイエットやストレス、病気などにより筋タンパク質の合成される量が減り、分解される量が多くなると、筋肉は減ってしまいます。

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 逆に食事や筋トレをすることで筋タンパク質を合成する量が多くなると、筋肉を増やすことができます。

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 この「筋タンパク質の合成と分解のバランス」が筋肉を増やすための重要な意味をもっているのです。

 

 筋肉を増やすためには、筋タンパク質の合成を促さなければなりません。そこで大切なのが食事であり、タンパク質の摂取になります。

 

 食事で摂取されたタンパク質が消化されると、アミノ酸として血液に取り込まれます。筋肉へ運ばれてきたアミノ酸は、遊離アミノ酸プールという貯蔵庫に保管され、筋タンパク質を合成するのに利用されます。

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図3:筋タンパク質の合成・分解の流れ

 

 筋タンパク質の合成は血液中のアミノ酸の量により刺激されるので、アミノ酸の量が増えれば増えるほど、筋タンパク質の合成が促されます(これを用量依存効果といいます)。筋タンパク質の合成はアミノ酸の量に依存しているのです(Biolo G, 1997)。

 

 これが「筋肉を増やすためにはタンパク質(アミノ酸)を多くとりなさい」と言われる所以です。

 

 アミノ酸は体内で作ることができる非必須アミノ酸と、体内で作ることができない必須アミノ酸に分けられます。非必須アミノ酸では筋タンパク質の合成が刺激されないことが明らかにされており(Volpi E, 2003)、筋タンパク質の合成は必須アミノ酸により行われることがわかっています。

 

 「筋肉を増やすためには食事が大切である」と言われるのは、必須アミノ酸は体内で作ることができず、食事で摂取するしかないからです。

 

 必須アミノ酸は9種類ありますが、その中でもロイシンが筋肉を増やすアミノ酸として注目されています。ロイシンは筋タンパク質に必要な食欲の調節やインスリン分泌の制御に関与しており、筋タンパク質の合成に重要なアミノ酸であることが報告されています(Anthony TG, 2001)。2016年の雑誌Scienceでは、ロイシンがロイシンセンサーといわれるSestrin2と結合することによって筋タンパク質の合成に関与していることが明らかとなり、筋タンパク質の合成におけるロイシンの重要性が証明されています(Wolfson RL, 2015)。

 

 これが「筋肉を増やすためにはロイシンの摂取を考慮するべき」と言われる根拠です。

 

 現在では、効率的な筋肉増強において、摂取するタンパク質の量だけでなく、含まれるロイシンの量が筋タンパク質の合成を左右するとも言われています。

 

 

◆ タンパク質摂取に筋トレを合わせることで、さらに筋タンパク質は合成される

 

 局所または全身の筋肉に負荷を加えたトレーニングをレジスタンストレーニングといいます。レジスタンストレーニングは、運動によって誘発される成長因子や代謝ストレスによって筋タンパク質の合成を急激に増加させます。レジスタンストレーニング後の1時間から2時間後に筋タンパク質の合成が安静時に比べて有意に増加することが明らかにされています(Dreyer HC, 2006)。

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Fig.1:Dreyer HC, 2006より引用改変

 

 しかし、レジスタンストレーニングを行うと筋タンパク質の分解も促進されてしまいます。そうなるとトレーニングによる筋タンパク質の合成効果はプラスマイナスでゼロになってしまうのでしょうか?

 

 この問いの答えたのがPhillipsらの研究です。Phillipsらはレジスタンストレーニング後48時間における筋タンパク質の合成と分解の経時的な変化を調べました。すると筋タンパク質の合成の促進は48時間後も続くのに対して、分解はトレーニング後3時間をピークにしてその後は減少し、48時間で安静時のレベルに戻ることがわかったのです(Phillips SM, 1997)。

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Fig.2:Phillips SM, 1997より引用改変

 

 この結果はレジスタンストレーニングによって48時間(2日間)の筋タンパク質の合成と分解のバランスが安静時に比べてプラスに働いている(合成が分解を上回る)ことを意味します。つまり、レジスタンストレーニングを行うことによって48時間は筋タンパク質の合成の促進が維持されており、この期間で有効なタンパク質を摂取することによって、効率的な筋タンパク質の合成を高めることができるのです。

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 筋肉を効率的に増やすためには、筋タンパク質の合成が分解を上回らなければなりません。そこで有用なのが正しいタンパク質の摂取とレジスタンストレーニングの実施なのです。

 

 今回は筋肉を増やすための栄養摂取について基礎的なことを確認しました。次回は、タンパク質の摂取量と摂取タイミング、タンパク質の質、レジスタンストレーニングの内容など、筋肉を増やすための具体的な方法について考察していきましょう。 

 

 

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◆ バックナンバー

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え

シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?

シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン

シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに

シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう

シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに

シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう

シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう

シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう

シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由

シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう

シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう

シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)

シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)

シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう

シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス

シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由

シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】 

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

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◆ 参考論文

Biolo G, et al. An abundant supply of amino acids enhances the metabolic effect of exercise on muscle protein. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E122-9.

Volpi E, et al. Essential amino acids are primarily responsible for the amino acid stimulation of muscle protein anabolism in healthy elderly adults. Am J Clin Nutr. 2003 Aug;78(2):250-8.

Anthony TG, et al. Oral administration of leucine stimulates ribosomal protein mRNA translation but not global rates of protein synthesis in the liver of rats. J Nutr. 2001 Apr;131(4):1171-6.

Wolfson RL, et al. Sestrin2 is a leucine sensor for the mTORC1 pathway. Science. 2016 Jan 1;351(6268):43-8.

Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.

Dreyer HC, et al. Resistance exercise increases AMPK activity and reduces 4E-BP1 phosphorylation and protein synthesis in human skeletal muscle. J Physiol. 2006 Oct 15;576(Pt 2):613-24.

Phillips SM, et al. Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.