筋肉を構成する筋タンパク質は、食事により摂取されたタンパク質(アミノ酸)の量に依存して作られます(合成されます)。この筋タンパク質を合成する量が分解する量を上回ることによって筋肉が増えます。
しかし、ただタンパク質を摂取すれば良いというわけではありません。筋タンパク質の合成を促進させるためには、最適なタンパク質量を摂取しなければならないのです。では、1度の食事でどのくらいのタンパク質を摂取すれば、筋トレの効果を最大化することができるのでしょうか?
この問いに現代のスポーツ栄養学はこう答えています。
「最適なタンパク質摂取量は年齢、体重、トレーニング内容によって異なる」
今回も近年のスポーツ栄養学の知見を参考にして、筋トレ効果を最大化するタンパク質摂取量について考察していきましょう。
Table of contents
◆ タンパク質摂取量20gは本当か?
多くのネットメディアやブログでは、運動後のタンパク質摂取量について「1度の食事やプロテインにより、およそ20gの摂取が筋肉を増やすために必要である」と言われています。
2009年、トロント大学のMooreらは、運動後の筋タンパク質の合成に必要となるタンパク質量は20gであり、それ以上の摂取による合成効果は期待できないことを報告しています。
Mooreらは、ウエイトトレーニングを4ヶ月以上継続している男性6名を対象として、トレーニング後にタンパク質を0g、5g、10g、20g、40gを摂取させ、筋タンパク質の合成率を測定しました。
すると、タンパク質20gまでの摂取では、直線的に筋タンパク質の合成が増加しましたが、20gと40gの摂取に有意な差は認められませんでした。
Fig.1:Moore DR, 2009より引用改変
この結果から、筋タンパク質の合成を促すためには、最低20gのタンパク質の摂取が必要であり、それ以上の摂取による筋タンパク質の合成効果はプラトーになることが明らかになったのです(Moore DR, 2009)。
また、2014年にはスターリング大学のWitardらも同様の報告をしています。
Witardらは、ウエイトトレーニングを6ヶ月以上行っている男性48名を対象として、トレーニング後にホエイタンパク質を0g、10g、20g、40gを摂取させました。その結果は、やはり20gの摂取で筋タンパク質の合成はピークを迎え、20gと40gの摂取に差が見らないというものでした(Witard OC, 2014)。
これらの報告が根拠となり、筋トレの効果を高めるタンパク質の必要摂取量は20gであると言われるようになったのです。
しかし、近年のスポーツ栄養学の界隈では、これらの知見に疑義が唱えられています。
◆ タンパク質の摂取量は年齢や体重を考慮しよう
MooreらやWitardらの報告にはいくつかの問題点がありました。彼らの研究は、平均年齢20〜22歳、体重80kg前後の男性が対象であり、トレーニングはレッグプレスのみの運動でした。つまり、この年齢、体重、トレーニング内容の条件においてのみ、タンパク質20gが最適な摂取量であるということなのです。
そのため、たとえば若年者と高齢者、体重50kgの長距離ランナーと100kgのボディビルダーとでは、異なるタンパク質の摂取量が必要となる可能性があります。
それでは、年齢や体重により必要となるタンパク質の摂取量は異なるのでしょうか?
この問を検証したのもトロント大学のMooreらです。2015年、Mooreらは平均年齢22歳の若年者と71歳の高齢者を対象に、0g〜40gまでのタンパク質摂取による筋タンパク質の合成率を検証しました。
得られたデータを統計学的に分析し、体重あたりのタンパク質量に換算したところ、若年者は0.24g/kg、高齢者は0.40g/kgが必要なるタンパク質量であることが明らかになりました(Moore DR, 2015)。
Fig.2:Moore DR, 2015より引用改変
この報告によって体重あたりの最適なタンパク質摂取量がわかるとともに、高齢者ではより多くのタンパク質摂取が必要となることが示されています。加齢によるタンパク質の摂取量の増加については、筋タンパク質の合成抵抗性(anabolic resistance)によるものと推測されています。anabolic resistanceについては別の機会に考察します。
これらのデータをわかりやすいように体重別に表にしてみましょう。注意点としては、この研究は空腹時にプロテインを摂取しているため、食事によるタンパク質の必要摂取量はもう少し高くなると思われます。
Fig.3:Moore DR, 2015より筆者作成
やはり体重80kgの若年者では、必要となるタンパク質量は約20gであり、以前の報告と一致しています。加齢とともにより多くのタンパク質を摂取しなければならないことがわかります。
◆ タンパク質の摂取量はトレーニングの内容を考慮しよう
よく言われているタンパク質の摂取量20gというのは、レッグブレス単独のトレーニングにおいて必要となる摂取量です。それでは、いくつかのトレーニングを合わせた全身運動では、必要となるタンパク質の摂取量は異なるのでしょうか?
スターリング大学のMacnaughtonらは、この問に対して「タンパク質の摂取量はトレーニング内容によって考慮すべきである」と答えています。
Macnaughtonらは、2ヶ月以上のウエイトトレーニング歴のある20代男性(平均体重80kg)を対象に、全身性トレーニング後にタンパク質20gと40gを摂取させ、筋タンパク質の合成率を計測しました。トレーニング内容はチェストプレス、ラットプルダウン、レッグカール、レッグプレス、レッグエクステンションなどです。
その結果、20gよりも40gのタンパク質摂取において、より高い筋タンパク質の合成が認められたのです。
Fig.4:Macnaughton LS, 2016より引用改変
この結果からMacnaughtonらは、単独のトレーニングでは20g程度のタンパク質摂取で十分ですが、全身性トレーニングでは40gまでタンパク質の摂取を増やしたほうがに効果的であることを示唆しました(Macnaughton LS, 2016)。
これらの知見から、現代のスポーツ栄養学では、筋トレの効果を最大化するためのタンパク質摂取量について、年齢、体重、トレーニング内容を考慮して判断するべきであるとしています。
実際には、年齢や体重により基本的なタンパク質の摂取量を判断し、トレーニングの内容に応じて摂取量を増やす方法が推奨されています。レッグプレスのみといった単一的なトレーニング後は年齢や体重に応じた摂取量を摂取し、全身的なトレーニング後はそれにプラスして10〜20gを摂取すると良いとのことです。
筋トレに励む20代の体重70kgの男性を例にとると、通常の1食分のタンパク質摂取量は17〜20g程度で良いですが、ジムで全身性のレジスタンストレーニングを行った24時間〜48時間後までは1食分のタンパク質摂取量を通常の+10gである30g以上を摂取したほうが良いということになります。
しかしながら、タンパク質摂取量に対する除脂肪量や性別による影響は明らかになっていません。新たな知見が報告されましたら、本ブログでもピックアップしていきます。
次回は、筋肉を効率的に増やすためのタンパク質の摂取タイミングやレジスタンストレーニングの内容、他の栄養素などについて考察していきましょう
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シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう
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シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう
シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス
シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
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シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
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シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
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シリーズ127:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレによる筋肥大を最大化させる【最新エビデンス】
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シリーズ147:筋力を増強させる最低限のトレーニング量を知っておこう!
シリーズ148:習慣的な静的ストレッチングで筋力増強と筋肥大の効果が得られる!?【最新エビデンス】
シリーズ149:筋トレ後の静的ストレッチングによる筋肉の回復効果は「ただの安静」と同じ!?【最新エビデンス】
シリーズ150:筋トレ前の静的ストレッチングの功罪:科学的に正しい方法とは?【最新エビデンス】
シリーズ151:フルボディ vs スプリットボディ:最強の筋トレルーティーンはどれ?【最新エビデンス】
シリーズ152:筋トレを朝にするべきか、夕方にするべきか?【最新エビデンス】
シリーズ153:筋トレの効果を最大化させる「セットの構成」の選び方【最新エビデンス】
シリーズ154:筋トレ時間が半分に!? ドロップセットで筋肥大の効果を効率的に高めよう【最新エビデンス】
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シリーズ159:筋トレ前か後か? タンパク質の最適な摂取タイミングを知っておこう!【最新エビデンス】
シリーズ160:強度?セット数?週の頻度?筋トレによる筋肥大、筋力増強に重要なトレーニング要素【最新エビデンス】
◆ 参考論文
References
Moore DR, et al. Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):161-8.
Witard OC, et al. Myofibrillar muscle protein synthesis rates subsequent to a meal in response to increasing doses of whey protein at rest and after resistance exercise. Am J Clin Nutr. 2014 Jan;99(1):86-95.
Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.
Macnaughton LS, et al. The response of muscle protein synthesis following whole-body resistance exercise is greater following 40 g than 20 g of ingested whey protein. Physiol Rep. 2016 Aug;4(15).