筋肉のもととなる筋タンパク質は、24時間、いつも合成と分解を繰り返しています。ぼくたちの筋肉量が保たれているのは、筋タンパク質の合成される量と分解される量が釣り合っているからです。
トレーニングをしたあとにしっかりと食事やプロテインでタンパク質を摂取すると、筋タンパク質の合成量が高まり、分解量を上回ることによって筋肉量を増やすことができます。
しかしながら、タンパク質の摂取量が少なくなってしまうと筋タンパク質の合成量が少なくなり、分解量を下回るため、筋肉量が減少してしまいます。
『筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう』
では、筋肉量を維持・増加させるためにはどのくらいのタンパク質の摂取量が必要になるのでしょうか?
この問のひとつの答えとなるのが、トロント大学のMooreらの報告です。
Mooreらは平均22歳の若年者に0gから40gまでのタンパク質を摂取させ、筋タンパク質の合成率を計測した結果、体重1kgあたり「0.24g(最大0.30g)」のタンパク質の摂取量により筋タンパク質の合成量が最大になることが示されました。
Fig.1:Moore DR, 2015より筆者作成
筋タンパク質の合成量が分解量を上回り、筋肉量を維持・増加させるためには1食あたり「0.24g/kg」の摂取量を超えるようにタンパク質を摂取するれば良いことが示唆されたのです。
では、1食の食事で0.24g/kgのタンパク質の摂取量に満たないと筋肉量は減ってしまうのでしょうか?
この検証を行ったのが立命館大学のYasudaらです。
◆ 3食のタンパク質摂取量と筋肉量との関係
2019年3月、Yasudaらは、トレーニング経験のない266人の被験者(21.4±2.4歳:男性149人、女性117人)を対象に、3食それぞれの食事のタンパク質摂取量がすべて0.24g/kgを満たしているグループと、1食でも満たしていないグループにわけ、筋肉量(%総除脂肪量、%四肢除脂肪量)を計測しました。
その結果、3食のすべての食事でタンパク質摂取量が0.24g/kgを満たしているグループは、1食でも満たしていないグループよりも有意に筋肉量が多いことが示されました。
Fig.2:Yasuda J, 2019より筆者作成
また、1日の総タンパク質摂取量に対する朝食、昼食、夕食時のそれぞれのタンパク質摂取量との関連を解析すると、1日の総タンパク質摂取量には、朝食時のタンパク質摂取量が関連していました。
さらに、グループ間での朝食、昼食、夕食時のタンパク質摂取量を比較すると、朝食、昼食で有意な差が認められました。
これらの結果から、Yasudaらは筋肉量を維持するためには、3回の食事でそれぞれ0.24g/kgを超えるタンパク質の摂取量を摂取することの重要性を示唆するとともに、特に朝食時のタンパク質の摂取量が筋肉量の維持にはポイントになるとしています。
Yasudaらの報告は、横断的研究であるため高いレベルのエビデンスを示すには、今後の介入研究が必要になります。また、トレーニング経験のない被験者を対象としているため、トレーニング経験者の筋肉量を維持するためのタンパク質の摂取量については今後の検証が期待されます。
しかしながら、トレーニングしていても筋肉量が増えない、維持できないトレーニーには、日々のタンパク質の摂取量を見直すためのヒントを与えてくれます。
特に日本人のタンパク質摂取量は、朝食に少ない傾向が示されています(Ishikawa-Takata K, 2018)。筋肉量が増えない、維持できない場合は、日々の朝食のタンパク質の摂取量を見直してみても良いかもしれません。
Mooreらが報告したタンパク質摂取量0.24g/kgという値は、プロテインのような高品質なタンパク質を摂取したデータになります。そのため、混合食である食事からタンパク質を摂取する場合では、もう少し増やして0.30g/kgほどのタンパク質を目安にしてみても良いと思われます。体重70kgなら「1食あたり21g」になります。トレーニーが筋肉量を維持したければ、1食あたりの食事やプロテインから少なくともこの程度の摂取量は摂取したほうが良いでしょう。ここは新たな報告がありましたら改めてご紹介します。
◇ 新刊紹介
筋トレの最新のエビデンスをまとめてあります!
◆ 関連記事
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
◆ 読んでおきたい記事
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう
シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう
シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン
シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実
シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに
シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう
シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに
シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう
シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?
シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう
シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう
シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由
シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題
シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう
シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう
シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)
シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう
シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス
シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版)
シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス
シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法
シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス
シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス
シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス
シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス
シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ
シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由
シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに
シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート
シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう
シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】
シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由【スクワットの科学】
シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう【スクワットの科学】
シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】
シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】
シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】
シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】
シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!
シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!
シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】
シリーズ105:筋トレをすると「頭が良くなる」という最新エビデンス
◆ 参考論文
Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.
Yasuda J, et al. Association of Protein Intake in Three Meals with Muscle Mass in Healthy Young Subjects: A Cross-Sectional Study. Nutrients. 2019 Mar 13;11(3). pii: E612.
Ishikawa-Takata K, et al. Current protein and amino acid intakes among Japanese people: Analysis of the 2012 National Health and Nutrition Survey. Geriatr Gerontol Int. 2018 May;18(5):723-731.