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筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう


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「筋タンパク質の合成作用を最大化させる」

 

 現代のスポーツ運動生理学は、筋力トレーニングの目的についてこのように述べています。効果的なトレーニングとは、筋肉のもとである筋タンパク質の合成作用を効率的に高めるトレーニングのことを言います。現在では、このような観点からトレーニング内容を再設計(リ・デザイン)する研究がトピックスとなっているのです。

 

 トレーニングの効果は、運動強度、運動回数、セット数など変数(値)によって決まります。効果的にトレーニングを行うためには、それぞれの変数が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるようにデザインされなければなりません。

 

 効果的なトレーニング = 総負荷量(運動強度 × 運動回数) × セット数 × セット間の休憩時間…etc

 

 これまで、筋タンパク質の合成作用を高める運動強度や運動回数、セット数について考えてきました。今回は、トレーニングの頻度(週に何回、行えば良いか?)について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 一般的なトレーニング頻度は週2〜3回

 

 一般的なトレーニングの運動強度やレップ数、セット数などは2009年に発表されたアメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドラインに準じて設定されてきました(American College of Sports Medicine. 2009)。

 

 ACSMガイドライン2009では、トレーニングの頻度についても提言されています。ガイドラインでは、初級者や中級者は週2〜3回、上級者(競技者)は週4〜6回のトレーニング頻度を推奨しています。

 

 また、2016年の雑誌Sports Medecineに掲載されたトレーニング頻度のメタアナリシスでは、週1回でも筋肉の肥大は生じるが、1回に比べて2回のほうが筋肥大の効果は大きいこと、週3回のトレーニング頻度が週2回より優れている根拠は統計的に得られていないことが報告されています(Schoenfeld BJ, 2016)。

 

 このような背景から、メディアやブログでは、最適なトレーニング頻度は週2〜3回であるという記事が多く見られます。

 

 しかし、2017年3月、ミシシッピ大学のDankelらにより、筋タンパク質の合成作用の視点からトレーニング頻度を再設計した新たな仮説が発表されたのです。

 

 

◆ 週単位の筋タンパク質の合成量からトレーニング頻度をデザインする

 

 近年、筋タンパク質の合成作用には限界点(anabolic limit)があるということが報告されています。

 

 運動強度では、1RMの60%を超えると筋タンパク質の合成作用の増加はプラトーになります。

筋トレの効果を最大にする運動強度について知っておこう

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Fig.1:Kumar V, 2009より引用改編

 

 また、1日3セットを超えたセット数を実施しても効果的な筋タンパク質の合成作用の増加は期待できません。

筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう

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Fig.2:Kumar V, 2012より引用改編

 

 さらに、プロテインや食事によるタンパク質の摂取量は0.24g/kg以上を超えると筋タンパク質の合成作用は増加しないことが明らかになっています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう』 

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Fig.3:Moore DR, 2015より引用改編

 

 Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を超えないようにトレーニング内容をデザインし、頻度を多くすることにより、週単位の筋タンパク質の合成量を効率的に高めることができると考えました。

 

 それでは、Dankelらの仮説を見てみましょう。

 

 まずは、通常のトレーニングを想定してみましょう。トレーニングの頻度は、月曜日と木曜日の週2回です。筋タンパク質の合成作用を高めるために、疲労困憊まで自分を追い込みました。このときの筋タンパク質の合成作用は限界点を超え、最大限の合成量を得ることができています。

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 Fig.4:Dankel SJ, 2017より引用改編

 

 これに対して、Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を超えないように総負荷量(運動強度と運動回数)やセット数を調整することによって、毎日トレーニングを行えば、週単位の筋タンパク質の合成量を最大化することができると推測しています。

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Fig.5:Dankel SJ, 2017より引用改編

 

 Dankelらは、筋タンパク質の合成作用の限界点を考えれば、1度のトレーニングで疲労困憊まで行うことは非効率的であると言います。疲労困憊まで行うことによって疲労回復に時間を要することとなり、トレーニングの機会を損失することになります。その結果、週単位の筋タンパク質の合成量が減ってしまいます。

 

 また、トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加はトレーニング後24時間を超えると基準値に戻ってしまいます(Burd NA, 2011)。そのため、トレーニング頻度を増やし、筋タンパク質の合成作用を高いレベルに維持することが、週単位の合成量を高める有効な手段であるとしています。

 

 週単位の筋タンパク質の合成量という視点から考えると、疲労困憊まで追い込むように総負荷量やセット数を増やすのではなく、疲労が残らない程度に調整し、トレーニング頻度を増やしたほうが効率的なトレーニングになるとDankelらは推察しているのです。

 

 Dankelらの仮説は、正にコペルニクス的な転換の発想です。1日単位のトレーニング内容を考えるのではなく、週単位で筋タンパク質の合成量を増やすようにトレーニング内容をデザインするのです。

 

 しかしながら、1日あたりのトレーニングのボリュームをどの程度に調整すれば良いのか、通常のトレーニング頻度に比べて有意な筋肥大が生じるのかという疑問については今後の検証が必要です。Dankelらの仮説をもとに検証された報告が発表され次第、本ブログでご紹介していきます。現状では、ACSMのガイドラインやメタアナリシスに従い、週2〜3回のトレーニング頻度が適当であると思われます。

 

 

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◆ 参考文献

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Schoenfeld BJ, et al. Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Nov;46(11):1689-1697.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7. 

Kumar V, et al. Muscle protein synthetic responses to exercise: effects of age, volume, and intensity. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012 Nov;67(11):1170-7.

Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62. 

Dankel SJ, et al. Frequency: The Overlooked Resistance Training Variable for Inducing Muscle Hypertrophy? Sports Med. 2017 May;47(5):799-805.

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73.