リハビリmemo

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筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

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 「筋トレの効果は疲労困憊(オールアウト)まで追い込むことによって最大化される」

 

 High intensity理論の提唱者で、ノーチラスの開発者でもあるアーサー・ジョーンズ氏は、30年以上にわたる彼の著書でこう述べています(Smith D, 2004)。

 

 しかし、現代のスポーツ医学はこう言います。

 

 「ただやみくもに疲労困憊まで追い込めば良いというわけではない」

 

 筋トレの目的は、主に筋力を強くする筋力増強と、筋肉を大きくする筋肥大になります。僕らは感覚的に身体が大きい(筋肉量が多い)と「筋力も強い」と感じます。そのため筋肉が肥大すれば筋力も増強されると思いますが、話はそう単純ではありません。

 

 以前の報告では、筋肥大による筋力増強への寄与は50〜60%にとどまることが示唆されています(Narici MV, 1989)。また、東京大学のFukunagaらは、筋肉の総量を示す筋体積と筋力には強い関係性があることを示しましたが、それでも完全な関係性は認められませんでした(Fukunaga T, 2001)。

 

 つまり、筋肥大=筋力増強ではないのです。そして近年では、筋肥大に加えて筋力増強に寄与するもうひとつの重要な因子が明らかになっています。

 

 それが「神経活動の適応」です。

 

 筋力は、筋肥大をベースにして、高強度の重量に神経活動が適応することによって増強されるのです。

 

 このような背景から、現代のスポーツ医学は、疲労困憊まで追い込むべきか否かについて、筋肥大や筋力増強といった目的に応じて考えるべきであるといいます。

 

 今回は、筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?という問いについて考察していきましょう。



Table of contents



◆ 筋肥大は疲労困憊まで追い込め!

 

 筋肥大を生じさせるためには疲労困憊まで行うべきか?と問われたら現代のスポーツ医学はこう答えます。

 

 「疲労困憊まで追い込め!」

 

 トレーニングによる機械的刺激(メカニカルストレス)が筋線維に加わると、mTORという酵素が活性化され、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成が促進されることで筋肥大が生じます(Yoon MS, 2017)。

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Fig.1:Yoon MS, 2017より筆者作成

 

 そのため、効果的に筋肥大を生じさせる条件は、なるべく多くの筋線維に刺激を与えることとなります。

 

 ひとつの運動神経が支配する筋線維の集団をひとつの単位(ユニット)と考え、これを運動単位(モーターユニット)といいます。筋肉には、運動神経が数十本の筋線維を支配する小さな運動単位と、数百本から数千本を支配する大きな運動単位があります。大小の運動単位は筋肉の役割によってさまざまな割合で分布しています。筋肉の収縮は、必要となる力に応じて小さな運動単位から動員され、強い力が必要になると大きな運動単位を動員する「サイズの原理」にもとづいています。

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 運動単位とサイズの原理については、こちらのエントリに詳しく書いてありますのでご参照ください→『筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

 

 ここからわかることは、小さな運動単位から大きな運動単位までを動員することによって、より多くの筋線維に刺激を与えられるということです。

 

 そこで推奨されてきたのが「高強度トレーニング」です。

 

 サイズの原理にもとづいて、高強度の負荷により大小すべての運動単位が動員されやすいのであれば、高強度トレーニングが筋肥大の効果を最大化させると考えられてきたのです。

 

 しかし、近年では、低強度トレーニングでも「ある条件」を満たせば、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位も動員することが可能であると示唆されています(Westad C, 2003)。

 

 その条件が「疲労困憊まで追い込め!」なのです。

 

 筋タンパク質の研究では、疲労困憊まで追い込み、総負荷量(強度×回数×セット数)を高めれば高強度トレーニグと同等かそれ以上の筋肥大の効果が得られることが示唆されています(Burd NA, 2010)。

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 さらに、最新のメタアナリシスでは、これらの知見を裏付けるように高強度でも低強度でも疲労困憊まで追い込み、総負荷量を高めれば効果的に筋肥大を生じさせることが可能であることが示されています(Schoenfeld BJ, 2017)。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 これらの知見から、現代のスポーツ医学は筋肥大を目的にした場合、疲労困憊まで追い込むべきであると述べているのです。

 

 しかしながら、オーバートレーニングには注意が必要です。近年では、効果的な筋肥大には1回のトレーニングによる総負荷量ではなく、週単位の総負荷量が寄与することも示唆されています。そのため、疲労などがあるときは無理して追い込まず、他の日のトレーニングで挽回して週単位の総負荷量を高めるように取り組んでも良いでしょう。

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◆ 筋力増強は疲労困憊まで追い込むな!

 

 筋力増強は筋肥大をベースに、神経活動を適応させることがポイントになります。

 

 ヒトは、二足歩行を獲得した400万年前から、さまざまな気候や環境に適応して生きながらえてきました。その秘訣は、変化する環境に身体を適応させる能力にありました。

 

 ツルツル滑る氷の上を歩いていると、最初は滑ってしまいますが、徐々に慣れて滑らずに歩けるようになります。サッカーのシュートやテニスのサーブでも回数を多く練習をすれば上手になります。

 

 このような効果は、神経活動がその環境(課題)に合わせて変化し、適応した結果として表れます。この適応する能力のことを「神経の可塑性(かそせい)」といいます。

 

 筋トレによる筋力増強にも神経の可塑性は関与しています。高強度トレーニングを行うと、運動神経からの発射頻度が高まり、大きい運動単位が動員され、それぞれの運動単位の活動タイミングが同期することによって強い力が発揮されます。これを繰り返すことによって、神経活動の可塑的変化が生じ、長期的な筋力増強の効果が得られるのです(Suchomel TJ, 2018)。

 

 では、このような神経活動の適応に、疲労困憊まで追い込むことは効果的なのでしょうか?

 

 この問に最新のメタアナリシスの結果はこう結論づけています。

 

 「疲労困憊まで追い込まないほうが効果はやや高い」

 

 2016年、シドニー大学のDaviesらは、これまでに報告された疲労度と筋力増強について検証された8の研究を対象にしたメタアナリシスを報告しました。

 

 その結果、疲労困憊まで追い込むよりも、追い込まないほうが筋力増強の小さな効果(ES=0.34)が認められたのです。

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Fig2:Davies T, 2016より筆者作成

 

 では、もう少し、この結果を細かく見ていきましょう。

 

 このメタアナリシスには、トレーニング初心者と上級者が含まれていました。そこでトレーニング経験の有無による効果を見てみると、疲労困憊まで追い込まない場合、上級者は初心者よりも筋力増強の効果が高いことが示されました(ES=0.37-0.38)。

 

 また、アームカールのような単関節トレーニング(アイソレーション)よりもスクワットやベンチプレスのような多関節トレーニング(コンパウンド)のほうが、疲労困憊まで行わないことによる筋力増強の効果が得られやすいことがわかりました(ES=0.37)。

 

 これらの結果から、特にトレーニング経験者や多関節トレーニングでは、疲労困憊まで行わないほうがより筋力増強の効果を得られる可能性が示唆されているのです。

 

 では、なぜ疲労困憊まで行わないほうが筋力が増強されやすいのでしょうか?

 

 その理由も運動単位にあります。

 

 筋力増強のためには、大きな運動単位を動員させ、繰り返しトレーニングを行うことによって神経活動を適応させることが必要になります。ここで問題になるのは、疲労困憊になるまで追い込むことが運動単位の動員にどのような影響を与えるのか、ということです。

 

 実は、大きな運動単位の動員は、疲労困憊になる前に、すでに終えている可能性が示唆されているのです。

 

 コペンハーゲン労働環境センターのSundstrupらは、トレーニングによって疲労困憊になる3〜5回前に運動単位の動員が終えていることを示唆しています(Sundstrup E, 2012)。また、ソフィア生物物理研究所のChristovaらは、疲労困憊になる前から運動神経による発射頻度が減少していることを示唆しています(Christova P, 1998)。

 

 Daviesらは、このような知見をもとに、疲労困憊になる前にトレーニングを終えたほうが、高い重量への神経活動の適応を促進させ、筋力増強をより生じさせると推察しています。

 

 Daviesらのメタアナリシスは、対象としている研究間の異質性は低いですが、研究の質は決して高くはなく、研究数も少ないことから、今後のさらなる検証が必要でしょう。

 

 しかしながら、ご紹介した神経生理学的な知見や、筋力増強に寄与する他の因子(運動速度や疲労、週単位の頻度など)の観点からも、近年では、疲労困憊まで追い込まないことが推奨されているのです。

 

 

 筋トレの創始者でもあるアーサー・ジョーンズ氏が提唱した筋トレ理論から30年の時を経て、現代のスポーツ医学はこう述べています。

 

 「筋肥大が目的であれば疲労困憊まで追い込め!」

 

 「しかし、筋力増強が目的であれば疲労困憊の手前で終わりにしよう」

 

 

 

 

 

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シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

 

References

Smith D, et al. Strength training methods and the work of Arthur Jones. J Exerc Physiol Online. 2004;7:52–68.

Narici MV, et al. Changes in force, cross-sectional area and neural activation during strength training and detraining of the human quadriceps. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1989;59(4):310-9.

Fukunaga T, et al. Muscle volume is a major determinant of joint torque in humans. Acta Physiol Scand. 2001 Aug;172(4):249-55.

Yoon MS, et al. mTOR as a Key Regulator in Maintaining Skeletal Muscle Mass. Front Physiol. 2017 Oct 17;8:788.

Westad C, et al. Motor unit recruitment and derecruitment induced by brief increase in contraction amplitude of the human trapezius muscle. J Physiol. 2003 Oct 15;552(Pt 2):645-56.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010 Aug 9;5(8):e12033.

Schoenfeld BJ, et al. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Dec;31(12):3508-3523.

Suchomel TJ, et al. The Importance of Muscular Strength: Training Considerations. Sports Med. 2018 Apr;48(4):765-785.

Davies T, et al. Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Apr;46(4):487-502.

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Christova P, et al. Motor unit activity during long-lasting intermittent muscle contractions in humans. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1998 Mar;77(4):379-87.

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.