リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由


スポンサーリンク

 

 「筋トレ終わったら、とりあえずプロテイン飲んでおけばOKですよね?」

 

 このような質問に現代のスポーツ医学やスポーツ栄養学はこう答えています。

 

 「筋トレ後の24時間を意識してタンパク質を摂取しなさい」

 

 筋トレ直後はタンパク質摂取のゴールデンタイムと言われていますが、現在ではトレーニング後の24時間で最適な量のタンパク質を最適なパターンで摂取することがトレーニング効果を最大化させると考えられています。

 

 今回は、タンパク質の摂取において筋トレ後の24時間が重要である理由と、その根拠となる研究報告をご紹介しながら考察していきましょう。

 

Table of conetents

 

 

◆ 筋トレとタンパク質の摂取はセットでないといけない理由

 

 筋トレの効果を最大化するためには、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用を高めることが必要です。筋タンパク質は24時間、いつも合成と分解を繰り返しており、このバランスが保たれることによって僕たちの筋肉量は維持されてます。そのため、筋肉量を増やすには筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回るようにしなければなりません。

 

 そこで重要になるのが「筋力トレーニング」と「タンパク質の摂取」です。

 

 お腹が空くと筋タンパク質の分解と合成のバランスは分解作用に傾きます。ここで食事(タンパク質)を摂取することによってバランスは合成作用に傾きます。では、空腹時に筋力トレーニングを行うと筋タンパク質のバランスはどうなるのでしょうか?

 

 実は、筋力トレーニングは筋タンパク質の分解作用の増加を抑えますが、合成作用を増やすことができません。筋トレ後にタンパク質を摂取することによって、はじめて大きく合成作用を増加させることが報告されています(Phillips SM, 2004)。

f:id:takumasa39:20180307195659p:plain

Fig.1:Phillips SM, 2004より筆者作成

 

 トレーニングは直接的に筋タンパク質の合成作用の増加に寄与しませんが、合成感度を高めることによって、その後のタンパク質の摂取による筋タンパク質の合成作用が増加を強めることができるのです。その結果として筋肥大が生じます。

 

 これが「筋力トレーニング」と「タンパク質の摂取」がセットであるべき理由です。

 

 このような知見をもとにすると、筋トレの効果を最大化するためには、トレーニングによる筋タンパク質の合成感度が高まっている時間帯に最適な量のタンパク質を、最適なパターンで摂取することがポイントになります。

 

 では、筋トレ後の筋タンパク質の合成感度の上昇はどのくらい続くのでしょうか?



◆ タンパク質摂取は筋トレ後の24時間を意識するべき理由

 

 トレーニング後の筋タンパク質の合成感度の増加時間を検証したのがシュリナーズ病院のティプトンらです。

 

 ティプトンらは2003年、トレーニング後の筋タンパク質の時間的変化について報告しています。トレーニング経験のない20代の男女が被験者として集められました。被験者はトレーニング前とトレーニング直後に必須アミノ酸15gを摂取し、その後、筋タンパク質の合成・分解バランスを3時間ごと、24時間にわたって計測しました。

 

 その結果、トレーニング前後に必須アミノ酸を摂取した場合、安静時と比べて24時間後でも筋タンパク質の合成作用が高まっていることが示されたのです。

f:id:takumasa39:20180307200020p:plain

Fig.2:Tipton KD, 2003より筆者作成

 

 ティプトンらの報告によって、トレーニング後24時間は筋タンパク質の合成感度が増加することが示唆されました。しかし、ティプトンらの研究では被験者数が7名と少なく、またトレーニング経験がなかったことなど、いくつかの検証課題が残りました。

 

 ティプトンらに続いて、トレーニング後の筋タンパク質の合成作用について検証したのがマックマスター大学のフィリップらのグループです。

 

 マックマスター大学のバードらは、トレーニングの負荷量の異なりが24時間後の筋タンパク質の合成感度に与える影響について検証しました。

 

 トレーニング経験のある20代の男性を被験者として集めました。被験者はトレーニング強度や疲労困憊まで行うか否かの条件が異なる3つのグループに分けられまた。

 

①最大筋力の90%の高強度で疲労困憊まで行うグループ(高強度+疲労困憊)

②最大筋力の30%の低強度で疲労困憊まで行わないグループ(低強度+疲労困憊なし)

③最大筋力の30%の低強度で疲労困憊まで行うグループ(低強度+疲労困憊)

 

 トレーニングはレッグエクステンションが行われ、その24時間後にホエイプロテイン15gを摂取し、筋タンパク質の合成率が計測されています。

 

 その結果、高強度、低強度ともに疲労困憊まで行ったグループは、24時間後の筋タンパク質の合成作用の増加が示されたのです。しかし疲労困憊まで行わなかったグループでは、24時間後の筋タンパク質の合成作用は増加しませんでした。

f:id:takumasa39:20180307200112p:plain

Fig.3:Burd NA, 2011より筆者作成

 

 この結果から、バードらは疲労困憊までトレーニングが行われた場合、少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が高まることを示唆しています(Burd NA, 2011)。

 

 バードらはこの報告以外にも同様の結果を追認しており(Burd NA, 2010)、2014年にはこれらの研究結果をまとめたレビューが報告されています。

 

 レビューを報告したマックマスター大学のフィリップらは、トレーニング後1-3時間ほどで筋タンパク質の合成感度はもっとも高まり、その増大は減少しながら少なくとも24時間は継続するというこれまでの報告を支持しています(Phillips SM, 2014)。

f:id:takumasa39:20180307201335p:plain

 

 これらの報告を批判的に吟味してみると、報告の多くがマックマスター大学の研究グループの主導であることがバイアスとして気になります。また、加齢にともない筋タンパク質の合成する能力は低下します(これを筋タンパク質の合成抵抗性といいます)。ご紹介した報告の被験者はほとんどが20代の若年者であり、筋タンパク質の合成抵抗性の影響を受けやすい50代、60代に一般化するには新たな検証が必要になるでしょう。

 

 しかしながら、2017年に報告された国際スポーツ栄養学会の公式見解においても、トレーニング後の少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が高まることが支持されており、現在では概ねコンセンサスが得られていると考えて良いと思われます(ISSN, 2017)。



 筋トレは筋タンパク質の合成感度を高め、そこにタンパク質が摂取されることによって筋タンパク質の合成作用が大きく増加します。そして筋トレによる合成感度の高まりは、トレーニング後の24時間は続くことが示唆されているのです。

 

 そのため、夕方にトレーニングを行ったのであれば、その後の夕食はもちろんですが、就寝前や翌日の朝食、そして昼食までの24時間で最適な量のタンパク質を摂取することが筋トレの効果を最大化させるポイントになるのです。

  

 筋トレを終えて、プロテインを飲んだところで満足してはいけません。

 

 

筋トレの重要なエビデンスをまとめた新刊です!

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

 

 

 

www.awin1.com

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え

シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?

シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン

シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに

シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう

シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに

シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう

シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう

シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう

シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由

シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう

シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう

シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)

シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)

シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう

シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス

シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由

シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】 

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

www.awin1.com

 

◆ 参考論文

Phillips SM, et al. Protein requirements and supplementation in strength sports. Nutrition. 2004 Jul-Aug;20(7-8):689-95.

Tipton KD, et al. Acute response of net muscle protein balance reflects 24-h balance after exercise and amino acid ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2003 Jan;284(1):E76-89.

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73. 

Burd NA, et al. Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. J Physiol. 2010 Aug 15;588(Pt 16):3119-30.

Phillips SM. A brief review of critical processes in exercise-induced muscular hypertrophy. Sports Med. 2014 May;44 Suppl 1:S71-7.

ISSN. International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr. 2017 Jun 20;14:20.