リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう


スポンサーリンク

 

 筋肉は筋タンパク質によって作られています。筋タンパク質は24時間、いつも合成と分解を繰り返していますが、私たちの筋肉の量が保たれているのは筋タンパク質の合成と分解のバランスが釣り合っているからです。

筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

 

 これを24時間の時間軸で見てみましょう。食事(タンパク質)の摂取によって十分な栄養がとれているときは、筋タンパク質の合成作用(ピンク)と分解作用(グレー)の量が同じになります。そのため、筋肉の量は一定に保たれます。

f:id:takumasa39:20170429134010p:plain

Fig.1:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 無理なダイエットをした場合、食事量の減少により筋タンパク質の合成作用が小さくなります。その結果、合成作用の量を分解作用の量が上まわってしまうため、筋タンパク質は減少します。無理なダイエットは筋肉の量を減らしてしまうのです。

f:id:takumasa39:20170429134453p:plain

Fig.2:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 反対に、トレーニングを行うと筋タンパク質の分解作用の量を減らせるとともに合成作用の量を増やすことができます。結果的に合成作用が分解作用を大きく上まわり、筋肉の量が増えるのです。

f:id:takumasa39:20170429134635p:plain

Fig.3:Phillips SM, 2004より引用改変

 

 そしてこのトレーニングによる筋タンパク質の合成作用の効果は、適切な食事(タンパク質)の摂取パターンによってさらに促進されます。

 

 今回は、筋トレの効果を最大化するためのタンパク質の摂取パターンについて考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ タンパク質を3時間おきに摂取しよう

 

 トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加は、トレーニング後の1時間までがピークとなります。この時間帯を栄養学では「筋タンパク質合成の窓(anabolic window)」と呼んでおり、筋トレ効果を最大化するタンパク質摂取のゴールデンタイムと言われています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質摂取のタイミングを知っておこう

 

 筋タンパク質の合成作用がピークを超えても、すぐにゼロになることはありません。少なくともトレーニング後24時間は継続することが明らかになっています(Burd NA, 2011)。そのため、筋トレの効果を最大化するためには、ゴールデンタイムといわれるトレーニング直後のタンパク質の摂取とともに「24時間のタンパク質の摂取パターン」が重要になるのです。

 

 では、24時間の最適なタンパク質摂取パターンとはどのようなパターンなのでしょうか?

 

 この疑問を最初に検証したのがオーストラリア・RMIT大学のAretaです。Aretaらは、週2回のレジスタンストレーニングを行っている24名の被験者(平均年齢25歳、体重80kg)を対象にして、タンパク質の摂取パターンによる筋タンパク質の合成率への影響を検証しました。

 

 実験はトレーニング後12時間の間で合計80gのタンパク質を摂取する条件のもと、3つのパターンに分けて調べられました。ひとつは 40gを6時間おきに摂取するパターン、ふたつめは20gを3時間おきに摂取するパターン、みっつめは10gを1.5時間おきに摂取するパターンです。

f:id:takumasa39:20170429140208p:plain

Fig.4:Areta JL, 2013より引用改変

 

 それぞれのパターンにおける筋タンパク質の合成率を比べると、タンパク質20gを3時間おきに摂取するパターン②がもっとも合成率が高いことがわかりました。

f:id:takumasa39:20170429140502p:plain

Fig.5:Areta JL, 2013より引用改変

 

 この結果は、大量のタンパク質を少ない頻度で摂取したり、少量のタンパク質を高頻度で摂取するパターンでは、効率的に筋タンパク質を合成できないことを示しています。

 

 筋タンパク質の合成作用を最大化させるタンパク質の摂取量は年齢、体重によって必要量が決まっています。必要量を超えるタンパク質は尿によって排出されてしまいます(Phillips SM, 2004)。また、必要量に足りない摂取量では、筋タンパク質の合成は不十分なものとなります。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 Aretaらの報告により、体重、年齢に応じたタンパク質の必要量を3時間おきに摂取するのがもっともトレーニングの効果を高めるタンパク質の摂取パターンであることが明らかになったのです(Areta JL, 2013)。

 

 

◆ 3食のバランスの良い食事が筋トレの効果を最大化する

 

 しかし、仕事などの日常生活を行いながら、3時間ごとにタンパク質を摂取するのは難しいことです。そこでUTMBのMamerowらは、より実践的な摂取パターンについて検討しました。

 

 Mamerowらは朝食、昼食、夕食時のタンパク質の摂取パターンが筋タンパク質の合成作用に与える影響について調査を行いました。

 

 8名の被検者(平均年齢37歳、体重76kg)をタンパク質を朝・昼・夕食時にバランス良く摂取するパターン(バランス食パターン)、朝・昼食は少なく、夕食時に多く摂取するパターン(偏食パターン)の2つのグループに分けました。2つのグループはそれぞれの摂取パターンを7日間継続し、筋タンパク質の合成率を比較しました。

f:id:takumasa39:20170429140925p:plain

Fig.6:タンパク質の摂取量(Mamerow MM, 2014より引用改変)

 

 それぞれのパターンの3食のタンパク質の合計摂取量は同じでしたが、結果は異なるものとなりました。1日後および7日間後のタンパク質の合成率は、ともにバランス食パターンが偏食パターンよりも有意な増加を示したのです。

f:id:takumasa39:20170429141119p:plain

Fig.7:Mamerow MM, 2014より引用改変

 

 Mamerowらはこの結果を受けて、夕食時に多くのタンパク質を摂取する偏食より、朝・昼食時のタンパク質の摂取を意識し、3食ともにバランスよくタンパク質を摂取することがトレーニング効果を高めるだろうと述べています(Mamerow MM, 2014)。

 

 私たちの一般的な食事のメニューを考えてみると、夕食時のタンパク質の摂取に大きく偏っており、朝・昼食の摂取が少ない傾向にあると思います。トレーニングによって筋タンパク質の合成感度は24時間、増加します。Mamerowらの報告をもとにすると、トレーニング後の24時間の3食はタンパク質の摂取バランスを考慮する必要があるでしょう。

 

 たとえば、仕事を終えた夕方にレジスタンストレーニングを行った場合、その後の夕食、翌日の朝食、昼食までの3食でタンパク質を意識して摂取すべきです。これらの食事では体重や年齢から換算されたタンパク質の摂取量をとることが推奨されています。

筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

 

 このようなトレーニング後24時間のタンパク質の摂取パターンが、筋タンパク質の分解作用を減少させ、合成作用を増加させます。その結果として、トレーニングの効果を最大化させることが可能となるのです。

 

 

 今回は、トレーニング後のタンパク質の摂取パターンについて考察しました。しかし、近年のスポーツ栄養学では、朝・昼・夕食以外の「あるタイミング」でタンパク質を摂取すると、さらにトレーニングの効果を高めるという研究が報告されています。次回は、そのタンパク質摂取の裏技について考察していきましょう。

 

 

筋トレの重要なエビデンスをまとめた新刊です!

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

科学的に正しい筋トレ 最強の教科書

 

 

 

www.awin1.com

 

 

◆ 知っておきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え

シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?

シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン

シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに

シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう

シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに

シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう

シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう

シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう

シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由

シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう

シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう

シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)

シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)

シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう

シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス

シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス

シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス

シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス

シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ

シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由

シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに

シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート

シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう

シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】 

シリーズ95:スクワットのフォームによって筋肉の活動が異なる理由

シリーズ96:スクワットの効果を最大にするスタンス幅と足部の向きを知っておこう

シリーズ97:ベンチプレスのフォームの基本を知っておこう【ベンチプレスの科学】

シリーズ98:ヒトはベンチプレスをするために進化してきた【ベンチプレスの科学】

シリーズ99:デッドリフトのフォームの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ100:デッドリフトのリフティングの基本を知っておこう【デッドリフトの科学】

シリーズ101:筋トレを続ける技術~脳をハックしよう!

シリーズ102:腕立て伏せの回数と握力から心臓病のリスクを知ろう!

シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

www.awin1.com

 

◆ 参考論文

References

Phillips SM, et al. Protein requirements and supplementation in strength sports. Nutrition. 2004 Jul-Aug;20(7-8):689-95. 

Burd NA, et al. Enhanced amino acid sensitivity of myofibrillar protein synthesis persists for up to 24 h after resistance exercise in young men. J Nutr. 2011 Apr 1;141(4):568-73

Areta JL, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. J Physiol. 2013 May 1;591(9):2319-31.

Mamerow MM, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. J Nutr. 2014 Jun;144(6):876-80.