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筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう


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 トレーニングによって筋肥大を起こさせるためには、筋肉を構成する筋タンパク質の合成作用が分解作用を上回らなければなりません。


 筋肥大=筋タンパク質の合成作用 > 分解作用

 筋タンパク質の合成作用は、トレーニング内容とタンパク質の摂取状況というふたつの因子により規定されます。

 筋タンパク質の合成作用=トレーニング × タンパク質摂取

 これまでのエントリーでは、スポーツ栄養学の知見にもとづき、効果的なタンパク質の摂取方法について考察してきました。効果的にタンパク質を摂取するためには最適な摂取量、摂取タイミング、摂取パターンなどを考慮する必要があります。

 タンパク質摂取=摂取量 × 摂取タイミング × 摂取パターン…

 では、もうひとつの因子である「トレーニング」の要素はどのように考慮すれば良いのでしょうか?

 

 レーニング= ? × ? × ? 


 今回は、トレーニングの効果を最大にする運動強度について、近年のスポーツ運動生理学の知見をご紹介します。

 

Table of contents

 

 

◆ 低強度でも高強度と同じ筋タンパク質の合成作用が得られる?

 

 ひとつの運動神経には、多くの筋線維がつながっています。このユニットを運動単位といいます。大きな筋力を発揮するためには、多くの運動単位の動員が必要であり、多くの運動単位を動員することが効果的なトレーニングになるとされてきました。そのため、高強度の運動強度が選択されてきたのです。

 

 このような前提のもと、これまでは筋肥大を生じさせるために1RMの70%以上の運動強度が必要であると推奨されてきました(Kraemer WJ, 2004)。

✻1RMは、1回で持ち上げられる最大の重量(1 repetition maximum)

 

 しかし、近年になってアミノ酸安定同位体を用いる研究手法が構築され、運動強度と筋タンパク質の合成作用との関係が明らかになると、異なる見解が報告されるようになったのです。

 

 レジスタンストレーニングは、成長因子や代謝ストレスなどによって、筋細胞内のmTORC1やリボゾーム生合成を増加させることで筋タンパク質の合成作用を高めます(Glass DJ, 2005)。このメカニズムを利用し、トレーニングによる筋タンパク質の合成作用を測定することにより、効果の高い運動強度を調べることが可能になりました。

 

 2009年、ノッティンガム大学のKumarらは、異なる運動強度が筋タンパク質の合成作用に与える影響について調べました。その結果、筋タンパク質の合成率は低〜中等度の強度(1RMの20〜60%)までは運動強度に比例して増加しますが、高度の運動強度(1RMの60%以上)では頭打ち(プラトー)になるというものでした(Kumar V, 2009)。

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Fig.1:Kumar V, 2009より引用改変

 

 Kumarらの報告により、初めて中等度の運動強度でも高強度と同じように筋タンパク質の合成作用を高められることが明らかになったのです。

 

 しかし、高強度を推奨する声は根強く、この報告をきっかけに、トレーニングの運動強度における低強度vs高強度の論争が始まりました。



◆ トレーニング効果を最大にするのは「総負荷量」

 

 この議論の打開を図ったのがマクマスター大学のBurdらです。Burdらは、筋タンパク質の合成作用を高めるのは運動強度ではなく、運動強度に運動回数をかけ合わせた「総負荷量」であることを報告しました。

 

 2010年、Burdらは同じ運動強度であれば、運動回数(セット数)に応じて筋タンパク質の合成作用が増加するのではないか?という仮説を検証しました。

 

 被験者は1RMの70%の高強度でレッグエクステンションを1セットだけ行う場合、3セット行う場合のふたつの条件で疲労困憊になるまで実施しました。

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Fig.2:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 トレーニング後、それぞれのセット数における筋タンパク質の合成率を比較しました。その結果、3セット行った場合は、1セットに比べてトレーニング後5時間、29時間の筋タンパク質の合成率が有意に増大したのです(Burd NA, 2010a)。

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Fig.3:Burd NA, 2010aより引用改変

 

 Burdらの報告により、同じ運動強度でも運動回数によって筋タンパク質の合成作用が高まることが示されました。これにより、筋タンパク質の合成作用は運動強度とともに運動回数を掛け合わせた総負荷量に応じて増加することが示唆されたのです。

 では、異なる運動強度の場合においても、筋タンパク質の合成作用は総負荷量に応答し、増加するのでしょうか?

 

 Burdらは筋タンパク質の合成作用に対する総負荷量の影響を調べるために、低強度・高回数と高強度・低回数でのトレーニング効果について検討しました。

 

 被検者はレッグエクステンションを1RMの90%で行う条件、1RMの30%で行う条件の2条件を疲労困憊になるまで実施しました。トレーニング後の24時間の時点で筋タンパク質の合成率が測定されました。

 

 1RMの90%の高強度トレーニングでは、疲労困憊までの回数が5±0.2回と低回数であり、1RMの30%の低強度では24±1.1回と高回数でした。その結果、運動強度と運動回数をかけ合わせた総負荷量は、高強度の条件よりも低強度の条件で高くなりました。

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Fig.4:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 そして筋タンパク質の合成率においても低強度×高回数の条件が高強度×低回数の条件を有意に上回ったのです(Burd NA, 2010b)。

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Fig.5:Burd NA, 2010bより引用改変

 

 これらの結果が示すことは、1RMの30%の低強度であっても、運動回数を疲労困憊まで行い総負荷量を高めることで、高強度と同等かそれ以上の筋タンパク質の合成作用が期待できるということです。

 

 2012年、Burdらは、これまでの研究をまとめたレビューを報告しています。そこで総負荷量が筋タンパク質の合成作用を増加させる理由として「筋線維活性」を挙げています。高強度×低回数ではタイプⅠ線維の動員で対応されます。低強度×高回数で疲労困憊まで行うことによってタイプⅠ線維に加えてタイプⅡ線維まで動員され、筋線維活性が増加し、筋タンパク質の合成作用が高まるのだろうと推測しています(Burd NA, 2012)。



 これらの知見から現在では、トレーニング効果を最大化するためには、運動強度に運動回数をかけ合わせた総負荷量を考慮することが推奨されているのです。

 

 レーニング= 総負荷量(運動強度 × 運動回数) × ? × ? 

 

 では、長期間のレジスタンストレーニングにおいても、総負荷量によって筋タンパク質の合成作用が応答するのでしょうか?

 

 次回、総負荷量と筋タンパク質の合成作用についての縦断的研究とともに、2016年に発表された運動強度についてのメタアナリシスをご紹介し、さらに効果的な運動強度について考察していきましょう。

 

 

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◆ 参考論文

References

Glass DJ, et al. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways. Skeletal muscle hypertrophy and atrophy signaling pathways.

Kraemer WJ, et al. Fundamentals of resistance training: progression and exercise prescription. Med Sci Sports Exerc. 2004 Apr;36(4):674-88.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Burd NA, et al. Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. J Physiol. 2010a Aug 15;588(Pt 16):3119-30.

Burd NA, et al. Low-load high volume resistance exercise stimulates muscle protein synthesis more than high-load low volume resistance exercise in young men. PLoS One. 2010b Aug 9;5(8):e12033.

Burd NA, et al. Bigger weights may not beget bigger muscles: evidence from acute muscle protein synthetic responses after resistance exercise. Appl Physiol Nutr Metab. 2012 Jun;37(3):551-4.