リハビリmemo

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ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

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 ケガや痛みがあると、しばらくの間、筋トレができなくなります。そのときに、どうしても気になってしまうのが筋肉量の減少です。誰しも努力して得た筋肉を失いたくないものです。

 

 しかし、現実は残酷です。

 

 残念ながら、筋肉の不活動よって筋肉量は1日あたり0.5〜0.6%、筋力は0.3〜4.2%減少することが示唆されています(Wall BT, 2013)。筋肉量は、筋肉のもとである筋タンパク質の合成と分解のバランスによって決まりますが、筋肉の不活動はこのバランスを崩して、筋肉量を減少させてしてしまうのです。

 

 では、ケガや風邪などで身体を動かせないときに、少しでも筋肉量の減少を防ぐことはできるのでしょうか?

 

 今回は、筋肉の不活動によって筋肉量が減少するメカニズムとその対応策について、現在までの知見をご紹介します。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋肉の不活動は筋タンパク質の合成抵抗性を誘発する

 

 筋肉のもとである筋タンパク質は24時間、いつも合成と分解を繰り返しています。ある程度の身体活動を行なっている場合、空腹のときに分解作用が大きくなり、食事(タンパク質)をとることで合成作用が大きくなります。そのため、3食の食事をしっかりと摂取することによって1日の筋タンパク質の合成と分解のバランスがとれ、筋肉量が一定に保たれるのです。

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Fig.1:Atherton PJ, 2016より筆者作成

 

 筋トレをすると筋タンパク質の合成感度が高まり、そこでタンパク質を摂取すると筋タンパク質の合成作用が増大し、分解作用を大きく上回るため、筋肥大が生じます。

筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識すべき理由

 

 では、ケガなどで身体を動かせないときの筋タンパク質の合成・分解のバランスはどのようになるのでしょうか?

 

 2008年、マックマスター大学のグローバーらは、筋肉の不活動が筋タンパク質の合成作用に与える影響について報告しています。

 

 20代の男女が被験者として集め、片足をギプスで固定し、大腿四頭筋の筋活動が行えないようにしました。その状態で14日間過ごしたあと、両側の大腿四頭筋の筋タンパク質の合成作用が計測されました。その結果、固定していた側の大腿四頭筋の筋断面積の減少とともに、タンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用の増大が少ないことが示されたのです(Glover EI, 2008)。

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Fig.2:Glover EI, 2008より筆者作成

 

 この結果を支持するように、2016年にはマーストリヒト大学のウォールらによって、5日間という短期間の筋肉の不活動でも、タンパク質の摂取による筋タンパク質の合成作用の増大が抑制されることが報告されています(Wall BT, 2016)。

 

 これらの報告により、現在では筋肉の不活動がある状況では、タンパク質を摂取しても筋タンパク質の合成作用の増大が抑制されることが示唆されており、このような合成作用の減少は「合成抵抗性(anabolic resistance)」と呼ばれています(Cholewa JM, 2017)。

 

 では、筋肉の不活動は筋タンパク質の分解作用にどのような影響を与えるのでしょうか?

 

 不活動が筋タンパク質の分解作用を増大させる因子であるFOXOやMuRF1などを増加させることが示唆されています。また、アイオワ大学のエバートらは、筋タンパク質の分解作用のマーカーとされる3-メチルヒスチジンがわずか3日間の筋肉の不活動によって上昇することを報告しています(Ebert SM, 2010)。

 

 これらの報告から、筋肉の不活動が筋タンパク質の分解作用を増大させることが推測されますが、実際に筋タンパク質の分解作用を計測する方法が確立されていないため、現在までにコンセンサスが得られていません。

 

 これらの検証結果から、筋肉の不活動による筋肉量の減少は、筋タンパク質の分解作用の増大よりも、筋タンパク質の合成作用が減少する合成抵抗性によって誘発されると考えられています(Atherton PJ, 2016)。

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Fig.3:Atherton PJ, 2016より筆者作成



◆ 筋タンパク質の合成抵抗性の改善にはタンパク質+α

 

 筋肉の不活動による筋肉量の減少は、タンパク質を摂取しても効果的に筋タンパク質の合成が生じない「合成抵抗性」に起因することが示唆されています。筋肉量を維持するためには、この合成抵抗性を改善して、筋タンパク質の合成作用を増大させる必要があります。

 

 では、筋タンパク質の合成抵抗性をどのように克服すれば良いのでしょうか?

 

 この問いにテキサス大学のパトンジョーンズらはシンプルに答えます。

 

 「高品質なタンパク質を多く摂取すれば良い」

 

 2004年、パトンジョーンズらは、30代の男女を被験者として集め、28日間もの間、ベッド上で安静に過ごすように指示しました。

 

 被験者は必須アミノ酸(EAA16.5g)を摂取するグループと摂取しないグループに分けられ、28日間の安静期間の前後で筋タンパク質の合成、分解のバランスが計測されました。その結果、28日後にEAAを摂取したグループは筋タンパク質の合成作用の増大が認められ、筋肉量の減少を防ぐことが示されたのです(Paddon-Jones D, 2004)。

 

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Fig.4:Paddon-Jones D, 2004より筆者作成

 

 また2016年、パトンジョーンズらの結果を支持するように、イングリッシュらは、1食あたり3〜4gのロイシン摂取が筋肉の不活動による筋タンパク質の合成抵抗性を改善させることを報告しています(English KL, 2016)。

 

 そして、これらの報告をまとめたレビューでは、必須アミノ酸やロイシンを豊富に含んだプロテインや食事の摂取が筋肉の不活動による筋タンパク質の合成抵抗性を改善させ、筋肉量の維持に寄与すると結論づけています(Wall BT, 2013、Galvan E, 2016)。

 

 しかし、一方でタンパク質の摂取が筋タンパク質の合成抵抗性を改善しないという報告もあります。

 

 オークランド大学のミッチェルらは、50歳前後の被験者に対して14日間の安静を指示し、プロテイン(1.1g/kg/d)の摂取による筋タンパク質の合成作用への影響を調査しましたが、プロテイン摂取による筋タンパク質の合成作用の増大は認められませんでした(Mitchell CJ, 2017)。

 

 筋肉の不活動による筋タンパク質の合成抵抗性に対して「高品質なタンパク質を摂取するれば良い」として、必須アミノ酸やロイシンを豊富に含むタンパク質の摂取が推奨されてきましたが、話はそう簡単ではないようです。

 

 筋タンパク質の合成抵抗性に対するタンパク質摂取についての議論のなかで、ひとつの見解を示したのがコースタル・キャロライナ大学のコレワらです。

 

 コレワらは、筋肉の不活動による筋タンパク質の合成抵抗性に対してロイシンなどを豊富に含むタンパク質の摂取は有用であるとしつつ、こう言います。

 

 「タンパク質の摂取にプラスアルファが必要である」

 

 2017年、筋肉の不活動や加齢による筋肉量の減少についてのレビューで、コレワらは不活動や加齢による「慢性炎症」が筋タンパク質の合成抵抗性や分解作用の増大に寄与すると述べています。

 

 慢性炎症によって生成される炎症性サイトカインは、筋タンパク質の合成作用を増大させる因子であるmTORの活動を抑制し、分解作用を促すユビキチン・プロテアソーム経路を活性化させることが示唆されています(Xia Z, 2017)。

 

 このような慢性炎症が存在する場合、筋肉の不活動に対して高品質なタンパク質の摂取だけでは十分に筋タンパク質の合成抵抗性を改善できないとしています。そして、効果的に筋タンパク質の合成抵抗性を改善するためには、タンパク質の摂取に抗酸化作用をもつ栄養素を追加することが有効だろうと推察しています。

 

 実際に、動物実験では筋肉の不活動のラットに対して、ロイシンに抗酸化作用のあるビタミンAやビタミンEなどを付加したところ、ロイシンのみに比べて有意に筋タンパク質の合成作用が増大することが示されています(Marzani B, 2008)。

 

 しかしながら、これらの推論は動物実験の結果をもとにしているため、ヒトによるタンパク質の摂取と抗酸化作用のある栄養素による検証が必要であるとしています。

 

 

 筋肉の不活動にる筋肉量の減少は、筋タンパク質の合成抵抗性に起因していると考えられており、これに対してロイシンなどを含む高品質なタンパク質の摂取が推奨されています。

 

 これらの報告はトレーニング経験のない被験者が主であり、トレーニング経験のある被験者による検証が必要です。しかしながら、筋タンパク質の合成・分解作用の仕組みは経験の有無に関わらず同じであるため、応用できる可能性はあると思われます。

 

 また、筋肉の不活動による筋肉量の減少には、コレワらが示唆する慢性炎症の影響や、いまだ実測できない筋タンパク質の分解作用の増大の影響も考えられます。これらのメカニズムが明確になれば、さらなる対応策も明らかになります。新たな報告がありましたら、本ブログでもご紹介させていただきます。

 

 現時点では、筋肉の不活動による筋肉量の減少に対する効果的な予防法のエビデンスは示されていません。その中でも、ロイシンを多く含む赤身肉や卵、プロテインからのタンパク質を摂取することが筋肉量の減少を軽減させることが示唆されており、試してみる価値はありそうです。

 

 

www.awin1.com

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

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シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

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シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

 

References

Wall BT, et al. Skeletal muscle atrophy during short-term disuse: implications for age-related sarcopenia. Ageing Res Rev. 2013 Sep;12(4):898-906.

Glover EI, et al. Immobilization induces anabolic resistance in human myofibrillar protein synthesis with low and high dose amino acid infusion. J Physiol. 2008 Dec 15;586(24):6049-61.

Wall BT, et al. Short-term muscle disuse lowers myofibrillar protein synthesis rates and induces anabolic resistance to protein ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Jan 15;310(2):E137-47.

Cholewa JM, et al. Dietary proteins and amino acids in the control of the muscle mass during immobilization and aging: role of the MPS response. Amino Acids. 2017 May;49(5):811-820.

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Xia Z, et al. Targeting Inflammation and Downstream Protein Metabolism in Sarcopenia: A Brief Up-Dated Description of Concurrent Exercise and Leucine-Based Multimodal Intervention. Front Physiol. 2017 Jun 22;8:434.

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