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理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?


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 「タンパク質をとるならトレーニング前が効果的だよ」

 

 「いやいや、トレーニング後のほうが効果的だよ」

 

 効果的なタンパク質の摂取はトレーニング前または後のどちらが良いのかというテーマは、スポーツ栄養学や運動生理学の分野で10年以上もの議論が続いています。

 

 2017年8月末、国際スポーツ栄養学会(ISSN)から「栄養摂取のタイミング」についての公式声明(Position stand)が発表されました。

 

 ISSNの公式声明は約10年ごとに報告されますが、そのレビュー内容はとても批判的(良い意味で)であり、過去の報告をバッサバッサと批評することで有名です。しかし、この批判的なレビューが今後の研究テーマを示してくれることもあり、多くの研究者から支持されているのです。

 

 そして、今回のISSNのレビューで「トレーニング前後のタンパク質の摂取における効果」が取り上げられていたのでご紹介したいと思います。

 

 10年以上つづいている議論に終止符は打たれたのでしょうか?

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Tbale of contents

 

 

ISSNによる厳しい批評

 

 2005年、Bispebjerg病院のAndersenらは、世界で初めてトレーニング前後のタンパク質の摂取が与える長期的な効果について検証しました。

 

 Andersenらは、被験者をトレーニング前または後にタンパク質を摂取する2つのグループに分けました。そして14週間後の筋肥大の効果を検証した結果、トレーニング後にタンパク質を摂取したグループに有意な筋肥大を認めました。

 

 この結果から、Andersenらは「トレーニング後のタンパク質の摂取が筋肥大に効果的である」と示唆しました(Andersen LL, 2005)。

 

 この報告に対してISSNはこう言います。

 

 「筋肥大を示す組織学的方法の感度が低い」

 

 2009年、ニュージャージー大学のHoffmanらはトレーニング経験のある被験者をトレーニング前と後にタンパク質を摂取する2つのグループに分け、10週間後の筋力、筋肉量の変化を検証しました。

 

 その結果、2つのグループに筋力、筋肉量の有意な差はなく、Hoffmanらは「トレーニング前後のタンパク質の摂取による影響はない」と結論づけました(Hoffman JR, 2005)。

 

 この報告に対してISSNはこう言います。

 

 「低品質なコラーゲン加水分解タンパク質を使用しており、筋肉量の変化を示した二重エネルギーX線吸収(DEXA)の感度も低い」

 

 このようにISSNの批判的な論評は続くのですが、その対象はスポーツ運動生理学で著名なニューヨーク大学のSchoenfeldらにも及びます。

 

 2017年、Schoenfeldらは一年以上のトレーニング歴のある被験者をトレーニング前または後にホエイタンパク質を摂取する2つのグループに分け、10週間後の上腕、大腿の筋肥大の効果を検証しました。

 

 その結果、2つのグループに有意な差はみられず、「トレーニング前後のタンパク質の摂取による効果に差はない」と示唆しました(Schoenfeld BJ, 2017)。

 

 この報告に対してISSNはこう言います。

 

 「実施しているトレーニング時間が少なすぎる」



ISSNの結論は?

 

 個々の研究報告をバッサバッサと批評していくISSNですが、結果的に参考としているのが2013年に報告されたAragonとSchoenfeldらのシステマティックレビューとメタアナリシスです。

 

 AragonらとSchoenfeldらのレビューの結論は、トレーニング後がトレーニング前よりも筋肥大に与える効果は高いが、微小なものであることから、「トレーニング前後のタンパク質の摂取タイミングの影響は最小限である」というものでした。

 

 このレビューの解釈は、筋タンパク質の合成作用がトレーニング後24時間のタンパク質の摂取に影響されるという知見(Phillips SM, 1997)にもとづいています。

 

 筋肥大につながる筋タンパク質の合成感度の増加はトレーニング後24時間つづきます。この合成感度が高まっている間に、適切なタンパク質を摂取することが筋肥大を最大化させるポイントになります。

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Fig.1:Phillips SM, 1997より筆者作成

 

 そうであれば、トレーニング前後のタイミングによる微小な効果に注力するのではなく、トレーニング後24時間でしっかりとタンパク質をとるべきであるとAragonらは述べているのです。

 

 ISSNもこの考察を支持していますが、実際には、24時間に適切なタンパク質をしっかりと摂取することは困難であると指摘しています。特に体重が多い場合は、より多くのタンパク質の摂取量が必要になるため、十分なタンパク質を摂取するのは難しいだろうと推測しています。

 

 そのためトレーニング後24時間のタンパク質の摂取も大事であるが、トレーニング直後の摂取も無視すべきでないと言います。

 

 筋タンパク質の合成感度は、トレーニング後30分から上昇し始め、1〜2時間でピークを迎えます。この時間帯は、筋タンパク質の合成作用のゴールデンタイム(anabolic window)と言われており、この時間帯でのタンパク質の摂取が筋肥大に効果的であると示唆されています(Lemon PW, 2002)。

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Fig.2:Lemon PW, 2002より筆者作成

 

 ISSNは、トレーニング後24時間のタンパク質の摂取が実際的でないのであれば、トレーニング直後のゴールデンタイムにしっかりとタンパク質を摂取することが筋肥大において重要であると述べているのです。

 

 これらの結果、ISSNは次のように公式声明を掲げています。

 

 「トレーニング後、できるだけ早くタンパク質を摂取することが推奨される」

 

 

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◆ 参考論文

Kerksick C, et al. International Society of Sports Nutrition position stand: nutrient timing. J Int Soc Sports Nutr. 2017

Andersen LL, et al. The effect of resistance training combined with timed ingestion of protein on muscle fiber size and muscle strength. Metabolism. 2005 Feb;54(2):151-6.

Hoffman JR, et al. Effect of protein-supplement timing on strength, power, and body-composition changes in resistance-trained men. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2009 Apr;19(2):172-85.

Schoenfeld BJ, et al. Pre- versus post-exercise protein intake has similar effects on muscular adaptations. PeerJ. 2017 Jan 3;5:e2825.

Aragon AA, et al. Nutrient timing revisited: is there a post-exercise anabolic window? J Int Soc Sports Nutr. 2013 Jan 29;10(1):5.

Schoenfeld BJ, et al. The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr. 2013 Dec 3;10(1):53.

Phillips SM, et al. Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.

Lemon PW, et al. The role of protein and amino acid supplements in the athlete's diet: does type or timing of ingestion matter? Curr Sports Med Rep. 2002 Aug;1(4):214-21.