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筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう


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 ゲームを攻略するためには、ルールや仕組みを理解しなければなりません。スポーツであっても、仕事であっても、そのルールを知らなければ参加することすらできません。逆に、ルールをしっかりと理解していれば戦略的にゲームを進めることができるのです。

 

 トレーニングの目的は、筋肉を大きくする筋肥大と、筋力を強くする筋力増強に分けられます。近年、スポーツ科学の分野でも分子生物学などの最新の研究が導入されるようになり、筋肥大や筋力増強のメカニズムが明らかにされつつあります。

 

 そこで、今回は現在までに報告されている知見から、筋肥大のルール(メカニズム)を知り、筋肥大の効果を最大にするトレーニング方法について考察していきましょう。



Table of contents

 

 

◆ 筋肥大のメカニズムを知っておこう

 

 筋肉は、数千から数十万という筋線維が束になって構成されています。筋線維はひとつの筋細胞が細長くなったものであり、多数の核をもつ多核細胞です。そして、筋線維はアクチンとミオシンといった筋タンパク質からできています。

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 筋肥大は、この筋タンパク質の合成によって生じます。

 

 筋タンパク質は、24時間、いつも合成と分解を繰り返しており、筋肉の量が維持されているのは、この合成と分解の量がつり合っているからです。

 

 そのため、筋肥大を生じさせるためには、筋タンパク質の合成を促進して、分解を上回るようにしなければなりません。

 

 では、どのようにしたら筋タンパク質の合成が促進されるのでしょうか?

 

 筋肉の収縮は運動神経からの司令により、筋線維が収縮することによって起こります。この筋線維の収縮が筋タンパク質の合成を高めるスイッチになるのです。筋線維の収縮によりスイッチが入ると、筋タンパク質の合成は主に3つの因子によって促進されます。

 

 筋線維を収縮させようとすると、筋小胞体から「カルシウムイオン(Ca2+)」が放出されます。また、筋線維の収縮それ自体が刺激(メカニカルストレス)となり、細胞膜を構成する「ホスファチジン酸(PA)」が増加します。さらには、細胞の成長を調整する「インスリン様成長因子(IGF-1)」の分泌が増加します。

 

 これらの因子により活性化されるのが、筋肥大のカギとされている「哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)」です。mTORは細胞の増殖や分化、自食作用などをコントロールする重要な役割を担っています(Yoon MS, 2017)。

 

 活性化されたmTORは、筋タンパク質の合成を促進させるp70Slキナーゼ(p70S6K)を活性化させるとともに、合成を抑制する4EBP-1を不活性化させることによって、筋タンパク質の合成を増大させるのです(Ma XM, 2009)。

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 筋トレによって筋線維が収縮すると、IGF-1などの因子によりmTORが活性化され、筋タンパク質の合成が促進されます。筋タンパク質の合成が促進されると、1本1本の筋線維が肥大し、その結果として筋肉の肥大(筋肥大)が生じるのです。

 

 これが筋肥大のメカニズムになります。

 *筋サテライト細胞などの関与は別の機会に考察します。

 

 そして、ここから筋肥大を最大化させるための戦略が見えてきます。



◆ 筋肥大の効果は総負荷量によって決まる

 

 上腕二頭筋の筋線維の数はどのくらいなのでしょうか?

 

 その数は平均21万本とされています(MacDougall JD, 1986)。

 

 このように筋肉には、その大きさに応じて、数千から数十万もの筋線維が存在しています。

 

 筋線維が収縮することにより、筋タンパク質の合成が促進され、筋線維の肥大が生じるのであれば、筋肥大の効果を最大化させるための戦略が見えてきます。

 

 「筋肉を構成するすべての筋線維を収縮させる」

 

 では、すべての筋線維を収縮させるためにはどうしたら良いのでしょか?

 

 そこで、まず知っておくべきことが「サイズの原理」です。

 

 サイズの原理について説明しようとすると、運動単位(モーターユニット)の話から始めなければなりません。

 

 ひとつの運動神経は、いくつかの筋線維とつながり、その収縮をコントロールしています。この運動神経と筋線維のユニット(単位)を運動単位といいます。

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 運動単位は、運動神経が数十本の筋線維を支配する「小さな運動単位」と数百本から数千本の筋線維を支配する「大きな運動単位」に分けられます。この大小の運動単位は、筋肉にさまざまな割合で分布しています。

 

 そして、発揮する力の強度や速度に応じて、小さな運動単位から収縮に参加(動員)させ、強度や速度が増加するにしたがって、大きな運動単位を動員させます。

 

 このように筋線維の収縮は、強度や速度に応じて異なるサイズの運動単位を動員する「サイズの原理」にもとづいているのです。

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 すべての筋線維をトレーニングによって収縮させるためには、小さい運動単位から大きな運動単位まで動員させなければなりません。運動単位の動員はトレーニング強度の増加によって増えるので、すべての運動単位を動員させるためには、高い強度(重量)でのトレーニングが必要になります。

 

 これが、筋肥大には「高強度トレーニングが有効である」といわれる理由です(ACSM, 2009)。

 

 しかし、近年、低強度トレーニングでも「ある条件」を満たせば、高強度と同じような筋肥大の効果を得られることがわかってきました。

 

 従来のサイズの原理にもとづくと、低強度のトレーニングでは、小さな運動単位の動員にとどまり、大きな運動単位を動員することができません。そのため、多くの筋線維を収縮させることができないため、十分な筋肥大の効果が得られないと考えられてきたのです。

 

 しかしながら、ある条件を満たせば、小さな運動単位だけでなく、大きな運動単位も動員できることが示唆されてきたのです。そして、その条件が「疲労困憊になるまで総負荷量を高める」です。

 

 総負荷量とは、トレーニングの強度(重量)に回数とセット数をかけ合わせたものになります。

 

 総負荷量 = 強度(重量)× 回数 × セット数

 

 低強度トレーニングで回数を高めていくと、小さな運動単位の筋線維が疲労します。そこでさらに疲労困憊になるまで行うと、小さな運動単位に代わって大きな運動単位が動員されることがわかってきたのです(Fisher J, 2017)。

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 そのため、低強度トレーニングでも疲労困憊まで総負荷量を高めることにより、多くの筋線維を収縮させることが可能となり、高強度と同じような筋肥大の効果が得られることが示唆されています。そして現在では、総負荷量をいかに高めるかが筋肥大の効果を最大化させるポイントになっているのです。

 

 これが、筋肥大の効果を最大にするためには、「疲労困憊になるまでトレーニングの総負荷量を高めよう」といわれる理由です。

筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる』 

 

 ここから、さらに筋肥大の効果を最大化させるための戦略が見えてきます。



◆ 総負荷量を高めるようにトレーニングをデザインしよう

 

 筋肥大の効果を最大化するためには、すべての筋線維を収縮させる必要があります。そのためには、総負荷量を高めるようにトレーニングをデザインすれば良いのです。

 

 運動は酸素を取り込みながら行う有酸素運動と、酸素を取り込まずに体内のエネルギーを使用する無酸素運動に分けられます。

 

 トレーニングは無酸素運動に近い運動様式とされており、主にクレアチンリン酸系や解糖系によってエネルギーが産生されます。そのため、総負荷量を高めるために、高強度で行ったり、高回数で行うと、すぐにエネルギーが枯渇してしまいます。

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 そこで大事になるのが「セット間の休憩時間」です。

 

 これまで、セット間の休憩時間は短いほうが筋肥大の効果が高いとされてきましたが、現在では、セット間の休憩時間は1〜2分程度が推奨されており、休憩時間を長めにとることによって、エネルギーの枯渇を改善し、総負荷量を高めることができるのです。

 

 これが、筋肥大の効果を高めるためには「セット間の休憩時間は1〜2分程度はとろう」といわれる理由です。

筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

 

 また、関節の動かす範囲によってもトレーニングの総負荷量は異なってきます。

 

 関節を動かす範囲には、部分的に動かすパーシャルレンジと、大きく動かすフルレンジがあります。

 

 同じ強度(重量)を用いた場合、パーシャルレンジよりもフルレンジで動かしたほうが総負荷量が増え、筋肥大の効果が高くなることが示唆されています。

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 これが、筋肥大の効果を高めるためには「フルレンジで関節を動かそう」といわれる理由です。

 

 しかしながら、フルレンジでは怪我のリスクも高くなることには注意が必要です。

筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

 

 さらに、運動のスピードによっても筋肥大の効果は異なります。

 

 近年に報告されたメタアナリシスの結果では、筋肥大の有効な運動スピードは「8秒以内」とされています。

 

 では、なぜ8秒以内なのでしょうか?

 

 運動単位の話にもどりますが、運動単位の動員はトレーニングの強度とともに運動スピードによっても決まります。

 

 速い運動スピードのほうが遅い運動スピードよりもサイズの大きな運動単位を動員しやすくなります。そのため、あまりにも遅い運動スピードでは大きな運動単位を動員することができず、多くの筋線維を収縮させることができません。筋肥大の効果を高めるためには、ある程度の運動スピードが必要になるのです。

 

 これが、筋肥大の効果を高めるためには「8秒以内の運動スピードで行おう」といわれる理由です。

筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう



 このように、筋肥大のメカニズムを知ることによって、筋肥大の効果を最大化させるためのトレーニング方法をデザインすることができるのです。

 

 現在では、筋肥大の効果はトレーニングの総負荷量によって決まるとされ、総負荷量を高めるための最適なセット間の休憩時間や関節を動かす範囲、運動スピードなどのトレーニング因子が検証されつつあります。

 

 筋肥大の効果  = 総負荷量(強度 × 回数 × セット数) × 関節を動かす範囲 × セット間の休憩時間 × 週の頻度 × 運動スピード × 筋収縮の様式

*条件:疲労困憊まで追い込もう! 

 

 これらの因子とともに、総負荷量を高めるためのウォームアップやアフターケアなどのマネジメントも重要になります。

筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

 

 筋肥大のメカニズムを知り、最新の研究結果をトレーニングに取り入れながら、自分に合ったトレーニング方法をデザインしてみると良いかもしれませんね。

 

 

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◆ 読んでおきたい記事

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

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シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

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シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

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シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

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シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

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シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

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シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】

 

 

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◆ 参考論文

Yoon MS, et al. mTOR as a Key Regulator in Maintaining Skeletal Muscle Mass. Front Physiol. 2017 Oct 17;8:788.

Ma XM, et al. Molecular mechanisms of mTOR-mediated translational control. Nat Rev Mol Cell Biol. 2009 May;10(5):307-18.

MacDougall JD (1986). Morphological changes in human skeletal muscle following strength training and immobilization. In Human Muscle Power, eds. Jones, N. L., McCartney, N., & McComas, A.J., pp. 269-288. Human Kinetics, Champaign, IL.

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Fisher J, et al. High- and Low-Load Resistance Training: Interpretation and Practical Application of Current Research Findings. Sports Med. 2017 Mar;47(3):393-400.