「木を見て森を見ず」
これは物事の一部分や細かいところにフォーカスして、全体を見失うことを意味することわざです。
僕たちは「筋肉を大きくしたい」とか「もっと重たいバーベルを挙げられるようになりたい」という想いをもって筋トレに励んでいます。そのためには、トレーニングのあとのタンパク質の摂取が欠かせません。なぜなら、トレーニングによる筋肥大の効果は、タンパク質の摂取によって促進されるからです。
『筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由』
しかし、これは筋肉だけにフォーカスしたときの栄養戦略です。
解剖学的に筋肉を見てみると、筋肉はそのまま骨に付着するわけではありません。筋肉は「腱」となって骨に付着します。大きな筋力を発揮できるのも、腱が筋力を効果的に骨に伝達することによって可能になるのです。
そうであれば、筋トレの栄養戦略は筋肥大のためのタンパク質の摂取にとどまらず、腱を肥大させるための栄養戦略も必要になるのではないでしょうか?
これが現代の栄養学の最新トピックスであり、そこで注目されているのが「コラーゲン」です。
今回は、コラーゲンの摂取が筋トレの効果を高めるという最新トピックスをチャッチアップしておきましょう。
Table of contents
- ◆ 腱の肥大が筋肉の肥大を促進させる
- ◆ コラーゲン摂取は高齢者の筋肥大を促進する
- ◆ コラーゲン摂取は若年者の筋肥大を促進する
- ◆ コラーゲン摂取は筋肉痛を軽減する
- ◆ 筋トレの科学シリーズ
- ◆ 参考文献
◆ 腱の肥大が筋肉の肥大を促進させる
アームカールでバーベルを持ち上げるためには、上腕二頭筋の収縮により発生した筋力を骨に伝達し、肘関節を曲げなければなりません。そこで力を効果的に骨に伝達する役目を担うのが「腱」になります。
腱のほとんどは、繊維質であるコラーゲンからできています。トレーニングによって筋肉が収縮して腱が伸ばされると、コラーゲンを合成するように代謝が促進され、そこでコラーゲンを摂取するとコラーゲン合成酵素により合成が促進され、腱が肥大するのです(Kjaer M, 2004)。
これが、腱の肥大にはコラーゲンの摂取が必要である理由です。
そして、近年では、腱の肥大と筋肥大には相互作用があることが示されており、腱の肥大が筋肥大を促進することが示唆されています(Fry CS, 2017)。つまり、トレーニング後に腱をしっかりと肥大させることが筋肥大の効果を高める可能性があるのです。
そこで注目されたのが「コラーゲン」であり、コラーゲンの摂取が筋トレによる筋肥大の効果をさらに高めるのではないか?ということがトピックスになっているのです。
◆ コラーゲン摂取は高齢者の筋肥大を促進する
このトピックスを最初に検証したのが、アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクのZdzieblikらです。
2015年、Zdzieblikらは高齢な男性を対象に、トレーニング後のコラーゲン摂取の効果について、このように報告しています。
「コラーゲン摂取は高齢な男性の筋肉量を増加させる」
被験者として集められた高齢な男性(平均年齢72歳)は、トレーニング後にコラーゲンペプチドのサプリメントを摂取するグループと、プラセボの粉を摂取するグループに分けられました。トレーニングは週3回、12週間行われ、コラーゲンペプチドまたはプラセボの粉は1日15g摂取されました。
その結果、プラセボ・グループに比べて、コラーゲンを摂取したグループの筋肉量の有意な増加が示されたのです。
Fig.1:Zdzieblik D, 2015より筆者作成
また、2019年4月にはアルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクのJendrickeらが、40歳前後の女性を対象にして同じようにトレーニング後のコラーゲン摂取による効果について、このように報告しています。
「コラーゲン摂取は40歳前後の女性の筋肉量を増加させる」
40歳前後の女性を被験者として、トレーニング後にコラーゲンペプチドを摂取するグループとプラセボの粉を摂取するグループに分けられました。トレーニングは週3回、12週間行われ、コラーゲンペプチドは1日15g摂取されました。
その結果、プラセボ・グループよりもコラーゲンを摂取したグループの筋肉量は有意に増加し、特に腕の筋肉量が大きく増加しました。
Fig.2:Jendricke P, 2019より筆者作成
これらの結果から、高齢な男性、40歳前後の女性に対するコラーゲンの摂取は、トレーニングによる筋肥大を促進することが示唆されたのです。
しかし、ここで疑問が残ります。
では、20代などの若年者においてもコラーゲン摂取による同様の効果が期待できるのでしょうか?
◆ コラーゲン摂取は若年者の筋肥大を促進する
2019年5月、この疑問を検証した研究結果が報告されています。
ルール大学ボーフムのOertzen-Hagemannらは若年の男性を対象に、トレーニング後のコラーゲン摂取による筋肥大の効果について、こう述べています。
「コラーゲン摂取は若い男性の筋肥大の効果を高める」
趣味レベルのトレーニング経験がある20代の男性を被験者として集め、トレーニング後にコラーゲンペプチドを摂取するグループと、プラセボの粉を摂取するグループに分けました。
両グループは12週間(週3回)の全身性トレーニングを行い、トレーニング後60分以内にコラーゲンペプチドまたはプラセボ粉を15g摂取しました。筋肉量はトレーニング前後で計測されています。
その結果、プラセボのグループに比べて、コラーゲンを摂取したグループでは有意な筋肉量の増加が示されました(Oertzen-Hagemann V, 2019)。
Fig.3:Oertzen-Hagemann V, 2019より筆者作成
また、同大学のKirmseらは、コラーゲン摂取による筋肥大がどの筋線維のタイプに生じているのかを検証しました。
筋肉には主にタイプⅠ線維(遅筋線維)とタイプⅡ線維(速筋線維)に分けられます。タイプⅠ線維は発揮する力は弱いですが、疲れにくいことが特徴です。これに対してタイプⅡ線維は発揮する力が強いですが、疲れやすいことが特徴です。
そして検証の結果、トレーニング後のコラーゲン摂取はタイプⅡ線維を肥大させることが示されました(Kirmse M, 2019)。
Fig.4:Kirmse M, 2019より筆者作成
これらの結果から、若年者においてもトレーニング後のコラーゲン摂取が筋肥大を促進することが認められ、その筋肥大は発揮する力が強いタイプⅡ線維に生じることが示唆されたのです。
コラーゲンの効果はこれで終わりません。
◆ コラーゲン摂取は筋肉痛を軽減する
2019年4月、ニューカッスル大学のCliffordらは、トレーニング後の筋肉痛に対するコラーゲン摂取の効果を検証し、こう結論づけています。
「コラーゲン摂取はトレーニング後の筋肉痛を軽減させる」
趣味レベルのトレーニング経験がある20代の男性を対象に、コラーゲンペプチドを摂取するグループとプラセボの粉を摂取するグループに分けて、トレーニングによる筋肉痛の程度の変化が検証されました。
コラーゲンペプチドやプラセボの粉は、トレーニング前の7日間、トレーニング後の2日間で摂取されました。トレーニングはドロップジャンプトレーニングが行われています。
その結果、トレーニング直後、24時間後、48時間後の筋肉痛の程度はプラセボのグループよりもコラーゲン摂取のグループで有意な低下が示されました(Clifford T, 2019)。
Fig.5:Clifford T, 2019より筆者作成
この結果から、継続的なコラーゲンペプチドの摂取は、トレーニング後の筋肉痛を軽減させることが示唆されたのです。
しかしながら、コラーゲン摂取によって筋肉痛を軽減させるメカニズムは明らかになっていません。Cliffordらは「コラーゲンの摂取は直接的に筋肉痛を軽減するのではなく、腱の修復(リモデリング)を促進させることによって間接的に筋肉痛を軽減させる」と推察しています。
2015年に世界で初めて筋トレ後のコラーゲン摂取による筋肥大の効果が報告されてから4年が経過し、2019年に入ると4つの研究結果が次々と報告されました。
これらの研究報告から、現代の栄養学では、トレーニング後のコラーゲン摂取が筋肥大の効果を高める、筋肉痛を軽減させる可能性が示唆されているのです。
しかしながら、十分な科学的根拠(エビデンス)を示すには今後のさらなる研究報告の積み重ねとともに、それらをまとめて解析したメタアナリシスの検証が待たれます。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
「筋肉だけでなく、腱も肥大させることが筋肥大を促進させる」
確かに広い視野で栄養戦略を考えてみても良いかもしれませんね。
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シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版)
シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス
シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法
シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス
シリーズ86:筋トレとグルタミンの最新エビデンス
シリーズ87:筋トレとアルギニンの最新エビデンス
シリーズ88:筋トレとシトルリンの最新エビデンス
シリーズ89:筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ
シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由
シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに
シリーズ92:筋トレするなら知っておきたい食事のキホン〜ハーバード流の食事プレート
シリーズ93:筋トレを続ける技術〜マシュマロ・テストを攻略しよう
シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】
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◆ 参考文献
Kjaer M, et al. Role of extracellular matrix in adaptation of tendon and skeletal muscle to mechanical loading. Physiol Rev. 2004 Apr;84(2):649-98.
Fry CS, et al. Myogenic Progenitor Cells Control Extracellular Matrix Production by Fibroblasts during Skeletal Muscle Hypertrophy. Cell Stem Cell. 2017 Jan 5;20(1):56-69.
Zdzieblik D, et al. Collagen peptide supplementation in combination with resistance training improves body composition and increases muscle strength in elderly sarcopenic men: a randomised controlled trial. Br J Nutr. 2015 Oct 28;114(8):1237-45.
Jendricke P, et al. Specific Collagen Peptides in Combination with Resistance Training Improve Body Composition and Regional Muscle Strength in Premenopausal Women: A Randomized Controlled Trial. Nutrients. 2019 Apr 20;11(4). pii: E892.
Oertzen-Hagemann V, et al. Effects of 12 Weeks of Hypertrophy Resistance Exercise Training Combined with Collagen Peptide Supplementation on the Skeletal Muscle Proteome in Recreationally Active Men. Nutrients. 2019 May 14;11(5). pii: E1072.
Kirmse M, et al. Prolonged Collagen Peptide Supplementation and Resistance Exercise Training Affects Body Composition in Recreationally Active Men. Nutrients. 2019 May 23;11(5).
Clifford T, et al. The effects of collagen peptides on muscle damage, inflammation and bone turnover following exercise: a randomized, controlled trial. Amino Acids. 2019 Apr;51(4):691-704.