リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

テレビをつけたまま寝ると太る【最新エビデンス】


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 アメリカ・国立衛生研究所の研究者であるParkのもとにダイエットで悩む女性が訪ねてきました。

 

 女性はこう嘆いていました。

 

 「ダイエットしようとしても続きません・・・」

 

 Parkは肥満につながる生活背景について詳しく聞き、彼女は高学歴で経済的にも豊かであり、健康面にも配慮してタバコやお酒も飲まず、ストレスもコントロールできていることがわかりました。

 

 そこで、Parkはある質問をしました。

 

 「寝るときは部屋を暗くしていますか?」

 

 彼女はこう答えます。

 

 「よくテレビをつけたまま寝ています」

 

 すると、Parkは頷きながら言いました。

  

 「あなたのダイエットが続かない理由がわかったかもしれません」

 


 2019年6月、雑誌JAMA Internal Medicineに興味深い研究結果が報告されています。

 

 「睡眠中の部屋の明かりと肥満のリスクには関連がある」

 

 今回は、この最新の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents

 

 

◆ 明るい部屋で寝ると太る研究結果

 

 アメリカ・国立衛生研究所のParkらは、睡眠中の部屋の明るさと肥満のリスクとの関係について検証するために、10年間にもおよぶ追跡調査を行いました。そして調査結果からこのように結論づけています。

 

 「睡眠中の人工的な光の照射は、肥満のリスクを高める」

 

 Parkらは35〜74歳までの女性43,722名を対象に、睡眠中の部屋の明るさを聴取し、明るさの程度にもとづいて4つのグループに分けました。

 

①部屋の明るさなし(真っ暗)

②部屋の小さな明るさあり(常夜灯)

③部屋に外光が入る(街路灯や車のライトなど)

④部屋が明るい(照明またはテレビがついている)

 

 調査前に被験者の身長や体重、ウエストやヒップの周径を計測し、そこから肥満リスクの指標となる体格指数(BMI)、ウエスト周径、ウエストとヒップの比率、ウエストと身長の比率を設定しました。その後、10年間の追跡調査を行い、部屋の明るさと肥満のリスク指標の変化を検証しました。

 

 その結果、部屋の明るさの程度と肥満のリスク指標の増加には正の関連が認められ、睡眠中の部屋が明るいほど、肥満のリスクが高くなることが示唆されました。

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Fig.1:Park YM, 2019より筆者作成

 

 さらに、照明やテレビがついた明るい部屋の場合、5 kg以上の体重増加、10%以上のBMI上昇、肥満の発生との高い関連が認められました。

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Fig.2:Park YM, 2019より筆者作成

 

 これらの結果から、睡眠中の部屋の明かりは肥満リスクの増加に関連していることが示され、とくに照明やテレビといった人工的な光が照射されていると肥満リスクがより高まることが示唆されたのです。

 

 とは言っても、テレビをつけたまま寝るから太るのではなく、テレビをつけたまま寝るような人は健康への意識が低いから太るとも解釈できます。つまり、この結果には肥満のリスクを高める他の因子(交絡因子)が関与している可能性があります。

 

 このことはParkらも認識しており、さらに被験者の経済面や学歴、喫煙歴やアルコールの摂取量、ストレスのコントロールうつ病の有無など、肥満のリスクに影響を与える他の因子を含めて統計的に解析しました。その結果、多少のリスク度合いの低下は認められましたが、やはり睡眠中の部屋の明かりが肥満のリスクを高めることが示されたのです。

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Fig.3:Park YM, 2019より筆者作成

 

 この結果から、Parkらは睡眠中の部屋の明かりと肥満のリスクには関連があると結論づけています。

 

 しかしながら、今回の研究方法は前向きコホート研究という観察研究であり、因果を示すランダム化比較試験(RCT)のような介入研究ではありません。Parkらは、睡眠中の部屋の明かりが肥満のリスクを高めることを示すにはエビデンスレベルの高いRCTなどの介入研究を行う必要性も述べています。

 

 では、なぜ明るい部屋で寝ると太りやすくなるのでしょうか?



◆ 明るい部屋で寝ると太るメカニズム

 

 この問にParkらは2つの要因があるといいます。

 

 それは「睡眠不足」と「サーカディアン・リズム(概日リズム)」です。

 

 数百万年前の旧石器時代から、ヒトは太陽の光のもとで生活をしてきました。近代になると電球などの人工照明が発明され、夜間でも作業が行えるようになり、経済的な繁栄をもたらしました。しかし、人工照明は僕たちの覚醒時間を長くするとともに睡眠時間を減らします。その結果、現代の睡眠不足の問題が生じているのです(Lunn RM, 2017)。

 

 そして、部屋を明るくしたまま眠ることは部分的な睡眠不足を生じさせます。

 

 睡眠不足は「食欲を増進させる」ことが示唆されています。

 

 睡眠不足になるとレプチンやグレリンといった食欲調整ホルモンのバランスが崩れるとともに、脳の報酬系を活性化することが報告されています。

 

 「もっと食べたい」という欲求は、脳の報酬系の活性化が寄与しており、報酬系が活性化すると視床下部にある摂食中枢を刺激し、食欲が増進されます(Rihm JS, 2019)。食欲が増進されると、食事量や間食が増え、1日の摂取カロリーが増加することによって太ることが示唆されています(Zhu B, 2019)。

ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

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 これが睡眠不足によって太るメカニズムであり、明るい部屋で寝ることにより睡眠不足となり、肥満のリスクを高めるメカニズムともされています。

 

 また、明るい部屋で寝ることはサーカディアン・リズムにも影響を与えます。

 

 夜になると眠りにつき、朝になると目覚めるように、地球上の多くの生物が24時間周期のリズムをもっています。こうしたリズムは「サーカディアン・リズム」と呼ばれ、一般的には「体内時計」と言われています。

 

 そしてサーカディアン・リズムと相互に関係しているのが脳の松果体から分泌される「メラトニン」です。

 

 メラトニンには催眠作用があり、その分泌量は光の明るさによって調整されます。明るいときはメラトニンの分泌が抑えられ、夜、暗くなると分泌が促進されて眠くなります。このようなメラトニンの機能によってサーカディアン・リズムが維持されています。

 

 しかし、メラトニンが影響を受けるのは自然の光だけではありません。人工照明によっても影響を受けます。アメリカ・国立環境衛生科学研究所のLunnらは、夜間の人工照明が松果体からのメラトニンの分泌を抑え、サーカディアン・リズムを乱す可能性を示唆しています(Lunn RM, 2017)。

 

 サーカディアン・リズムの乱れは、レプチンやグレリンといった食欲調整ホルモンのバランスを崩します(Fonken LK, 2014)。これによって食欲が増進され、太りやすくなるのです。

 

 人工照明による明るい部屋で寝ることは、メラトニンの分泌を抑え、サーカディアンリズムを乱し、食欲調整ホルモンのバランスが崩れることによって食欲が増進されるのです。

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 これが明る部屋で寝ると太るもうひとつのメカニズムです。

 

 Parkらは、このようなメカニズムによって蛍光灯やテレビなどの人工照明による明るさが肥満のリスクを高めることに寄与していると推察し、肥満を予防するためには就寝時に照明やテレビを消して、部屋を暗くすることが重要であると述べています。

 

 

 数百万年という長い間、ヒトは太陽という自然光のもとで生活を営んできました。しかし、約130年前に人工照明が発明され、ヒトの生活は一変します。人工照明によって夜間でも作業ができるようになると1日の生産性は大きく向上しましたが、同時に「睡眠への弊害」も生み出したのです。

 

 ダイエットの一般的な戦略には運動と食事があります。そして、そのベースとなるのが「睡眠」です。ダイエットが続かないときには、睡眠時間とともに「部屋の明るさ」という睡眠環境も一緒に見直してみると良いかもしれませんね。

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

シリーズ3:テレビをつけたまま寝ると太る【最新エビデンス

シリーズ4:コーヒーにはダイエット効果がある?【最新エビデンス】

シリーズ5:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

シリーズ6:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

シリーズ7:筋トレをして筋肉を増やせばダイエットできる説を検証しよう!

シリーズ8:ソイ・プロテインなどの大豆食品によるダイエット効果の最新エビデンス

シリーズ9:太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ10:ダイエットをすると頭が良くなる最新エビデンス【科学的に正しい自己啓発法】

シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】

シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

シリーズ14:ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!

シリーズ15:タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!

シリーズ16:寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス

シリーズ17:ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

シリーズ18:ダイエットするなら「太る炭水化物」と「やせる炭水化物」を見極めよう!

シリーズ19:ダイエットするなら「白米よりも玄米」を食べよう!

シリーズ20:ダイエットするなら「やせる野菜と果物」を食べよう!

シリーズ21ダイエットするなら「健康に良い、やせる脂質」を食べよう!

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シリーズ23:ダイエットするなら「ジュース(砂糖入り飲料)の中毒性」を断ち切ろう!

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シリーズ25:タンパク質は食べるだけでエネルギーを消費できる!〜食事誘発性熱産生を知っておこう

シリーズ26:ダイエットするなら「赤い肉」よりも「白い肉」を食べよう!

シリーズ27:ダイエット中の食べすぎを防ぎたいなら、食事の前に「冷たい水」を飲もう!

シリーズ28:タンパク質はダイエットによる骨の減少を抑えてくれる!

シリーズ29:乳製品がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ30:タンパク質がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ31:週末に寝だめをしても睡眠不足による食欲の増加は防げない!

シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 

◆ 参考文献

Park YM, et al. Association of Exposure to Artificial Light at Night While Sleeping With Risk of Obesity in Women. JAMA Intern Med. 2019 Jun 10. 

Lunn RM, et al. Health consequences of electric lighting practices in the modern world: A report on the National Toxicology Program's workshop on shift work at night, artificial light at night, and circadian disruption. Sci Total Environ. 2017 Dec 31;607-608:1073-1084. 

Rihm JS, et al. Sleep Deprivation Selectively Upregulates an Amygdala-Hypothalamic Circuit Involved in Food Reward. J Neurosci. 2019 Jan 30;39(5):888-899.

Zhu B, et al. Effects of sleep restriction on metabolism-related parameters in healthy adults: A comprehensive review and meta-analysis of randomized controlled trials. Sleep Med Rev. 2019 Feb 10;45:18-30.

Lunn RM, et al. Health consequences of electric lighting practices in the modern world: A report on the National Toxicology Program's workshop on shift work at night, artificial light at night, and circadian disruption. Sci Total Environ. 2017 Dec 31;607-608:1073-1084. 

Fonken LK, et al. The effects of light at night on circadian clocks and metabolism. Endocr Rev. 2014 Aug;35(4):648-70.