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タンパク質はダイエットによる骨の減少を抑えてくれる!【最新エビデンス】


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 ダイエットのために食事制限をすると、失われるのは脂肪だけではありません。

 

 まず、「筋肉量」が減ってしまいます。

ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

 

 そして、「骨の量」も減ってしまうのです。

 

 骨は強く丈夫でなくてはなりません。骨の量が減って、スカスカになってしまうと骨折しやすくなってしまうからです。そこで骨の細胞は古くなった骨を壊し、新しい骨を作るという代謝を繰り返すことによって骨の量や強度を維持しています。

 

 しかし、近年ではダイエットによる食事制限や体重の減少が骨の代謝に対して悪影響を与えることが示唆されています。

 

 ダイエットして、脂肪が減るのは良いのですが、同時に筋肉だけでなく骨も減ってしまうのは避けたいですよね。

 

 では、ダイエットしながらも骨の量を維持する方法はあるのでしょうか?

 

 現代の栄養学は、このように答えています。

 

 「タンパク質を多く摂ろう!」

 

 今回は、ダイエットをしても骨の量を減らさないための方法論について、最新のエビデンスをご紹介しましょう。



Table of contents

 



◆ なぜ、ダイエットをすると骨の量が減ってしまうのか?

 

 僕たちの骨はいつも作られ、壊されるという代謝を繰り返しています。これは骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞によって行われており、古い骨が壊され、新しく骨が作られることで骨の量が保たれ、強度が維持されているのです。

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 しかし、ダイエットで食事量を減らしてエネルギー(カロリー)摂取量を制限すると、骨の代謝のバランスが崩れて、骨の量が減ってしまいます。

 

 骨の代謝には、カルシウムや体重、成長ホルモンなどの因子が関与しており、ダイエットをすると、これらの因子が影響を受けます。

 

 骨といえばカルシウムですが、ダイエットをするとカルシウムの摂取量が減るだけでなく、カルシウムの吸収効率も低下します。カルシウムの吸収には、エストロゲンコルチゾールといったホルモンが関与しています。体重の減少はエストロゲンの分泌を減らし(O’Dea JP, 1979)、エネルギー摂取量の減少はコルチゾールの分泌を増やします(Bedford JL, 2010)。このような作用は、カルシウムの吸収効率を低下するようにはたらきます。

 

 骨の代謝には、体重自体が大きく影響しています。立つ、歩くといった動作をしているとき、骨は体重を支えますが、この負荷が骨細胞を刺激し、骨の代謝を促進させます。しかし、ダイエットで減量をすると、骨細胞への刺激が減り、骨の代謝も抑えられてしまいます(Shapses S, 2012)。

 

 また、骨には筋肉が付着しており、筋肉の収縮も骨の代謝を促進する刺激になります。しかしながら、ダイエットは筋肉量を減らしてしまいます。すると、筋収縮よる骨細胞への刺激が減ってしまうことで骨の代謝を低下させてしまいます(Ho-Pham L, 2014)。

 

 骨の成長といえば、成長ホルモン(GH)です。成長ホルモンは、そのまま骨の成長に関与することもありますが、大部分が肝臓や骨にあるインスリン様成長因子1(IGF-1)というホルモンを介して骨の成長を促しています。これに対して、ダイエットによるエネルギー制限は、IGF-1の分泌を抑えることが報告されており(Henning PC, 2013)、ダイエットによる骨の量の減少に寄与しているとされています(Vestergaard P, 1999)。

 

 このように、ダイエットによるエネルギー摂取量の制限や体重の減少が骨の代謝に関わる因子の働きを抑えることによって、骨の量が減ってしまうことが示唆されているのです。

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◆ ダイエットをすると骨が減るエビデンス

 

 ダイエットをすると骨の量も減ってしまう科学的根拠(エビデンス)を示したのがシドニー大学のZibelliniらです。

 

 Zibelliniらは、38の研究報告をもとに、食事制限による体重減少が股関節、腰椎、全身の骨密度に与える影響についてまとめて解析するメタアナリシスを行いました。

 

 その結果、食事制限による体重減少は、腰椎、全身の骨密度とは関連が認められませんでしたが、股関節の骨密度の有意な減少と関連が認められました。このような作用は、食事制限をしてから6ヶ月目以降に生じることが示されています。

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Fig.1:Zibellini J, 2015より筆者作成

 

 この結果からZibelliniらは、効果は小さいが食事制限による体重減少は、とくに股関節の骨密度を低下させる可能性が示唆されたとしています。

 

 さらにイラン医療科学大学のSoltaniらは、食事制限による体重減少が骨密度に与える影響について、これまでに報告された32のランダム化比較試験の結果をまとめて解析したメタアナリシスを報告しています。

 

 その結果、体重減少により股関節と腰椎の骨密度が大幅に減少することが示されました。このような骨密度の減少は、肥満の被験者では食事制限から4ヶ月以降で認められ、また13ヶ月を超えると腰椎の骨密度が大幅に減少することがわかりました。

 

 この結果は、Zibelliniらのメタアナリシスの結果を支持するものであり、食事制限による体重減少は、骨の量(骨密度)を減少させるエビデンスが示されているのです。

 

 

◆ タンパク質は骨に悪いどころか、骨を強くする

 

 では、ダイエット(食事制限)による骨の量の減少を防ぐことはできるのでしょうか?

 

 そこで注目されている栄養素が「タンパク質」です。

 

 タンパク質の摂取が骨の量に与える影響については、これまでに多くの議論がなされてきました。まず注目されたのがタンパク質は骨の量を減らし、弱化させるという「酸灰仮説」です。

 

 酸灰仮説は高タンパク質の摂取による体内の軽度の酸性化に対して、この酸性を中和するために、骨からカルシウムや他のミネラルを浸出させることで、骨の量が減ってしまうという仮説です。

 

 しかし、その後の研究により、体内の酸性化に対する中和は、骨のカルシウムを使うのではなく、食事によって摂取されたカルシウムを利用することが明らかになり、酸灰仮説は否定されています(Kerstetter J, 2005)。

 

 そして、現在では、酸灰仮説とは反対にタンパク質の摂取は骨の量を増やしてくれることがわかってきているのです。

 

 ダイエットをすると、カルシウムの吸収効率が低下し、筋肉量を減少させ、成長ホルモンやIGF-1といったホルモンの分泌を低下させることで骨の量を減らしてしまいます。

 

 これに対して、タンパク質の摂取は真逆の作用をもっています。

 

 タンパク質の摂取は、カルシウムを溶けやすくし、腸での吸収効率を高めてくれます(Cao JJ, 2011)。また、筋肉量を維持することで、筋肉の収縮による骨細胞への刺激を保ちます(Ho-Pham L, 2014)。さらに、タンパク質はIGF-1の分泌を促進することで骨芽細胞への刺激を高めます。このようにタンパク質の摂取は骨の量を増やす作用があるのです(Locatelli V, 2014)。



◆ タンパク質が骨の量を増やすエビデンス

 

 タンパク質の摂取が骨を保護する科学的根拠を示したのがサリー大学のDarlingらです。

 

 2009年、Darlingらは28の研究報告をもとに、タンパク質の摂取が骨密度に与える影響について解析するメタアナリシスを行いました。

 

 観察研究をまとめて解析した結果では、タンパク質の摂取と骨密度の増加に正の関連が認められました。また、ランダム化比較試験(RCT)をまとめて解析した結果では、高タンパク質の摂取は低タンパク質に比べて、腰椎の骨密度を増加させる小さい効果が示されました。

 

 また、2017年に行われたタフツ大学のShams-Whiteらのメタアナリシスでは、36の研究報告をまとめて解析した結果、高タンパク質の摂取は低タンパク質に比べて、股関節の骨密度の増加傾向を示し、腰椎の骨密度を増加させる効果が認められました。

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Fig.2:Shams-White M, 2017より筆者作成

 

 これらのエビデンスにより、高タンパク質の摂取は、酸灰仮説で言われるような骨の量の減少作用なく、むしろ骨の量を増やし強くしてくれることが示唆されているのです。



◆ タンパク質がダイエットによる骨の減少を抑えるエビデンス

 

 食事制限によるダイエットは、骨の量を減らしてしまいます。これに対して、タンパク質の摂取には、骨の量を増やす作用があります。

 

 では、タンパク質を多く摂取すれば、ダイエットによる骨の減少を抑えられるのでしょうか?

 

 この問に、世界で最初に答えたのがパデュー大学のWrightらです。

 

 Wrightらは、これまでに報告された10のランダム化比較試験(RCT)の結果をまとめて解析したメタアナリシスを行いました。

 

 被験者は、肥満の成人2306名(年齢49±10歳、BMI31.4kg/m2)であり、エネルギー摂取量は1日あたりおおむね1200〜1500kcalに制限されました。ダイエット期間の平均は7.1ヶ月であり、高タンパク質食グループは1日あたり平均1.29g/kgを摂取し、通常のタンパク質食グループは平均0.87g/kgを摂取しました。タンパク質は肉、魚、卵、乳製品、野菜などさまざまな食品から摂取されました。

 

 その結果、高タンパク質食のグループは通常のタンパク質食グループと比較して、全身および腰椎の骨密度の減少を抑える効果が示されました。また、この効果は介入後から3ヶ月で認められることが示されています。

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Fig.3:Wright C, 2019より筆者作成

 

 この結果から、ダイエットによる骨の量の減少に対して、1日あたり1.3g/kg以上の高タンパク質を摂取することは、骨密度の減少を抑え、骨の減少を軽減さることが示唆されているのです。

 

 ダイエットのためにエネルギー摂取量を制限することは、脂肪とともに筋肉だけでなく、骨の量も減らしてしまいます。

 

 このような骨の量の減少は、健康に大きな悪影響を与えるほどではありませんが、骨の量は加齢とともに減少するため、高齢者や骨粗鬆症を有している女性ではとくに注意が必要でしょう。

 

 ダイエットのために食事量を減らして、エネルギー摂取量を制限する場合は、タンパク質の摂取量を「1日あたり1.3g/kg」まで増やすと骨の減少を抑えらる可能性があります。

 

 このタンパク質の摂取量は、ダイエットによる筋肉量の減少を防ぐための摂取量と同等の量でもあるため、骨とともに筋肉を減らしたくない場合は1日あたり1.3g/kg以上の摂取量を摂取すると良いでしょう。

筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

 

 また、タンパク質は食欲を減らし、食事によるエネルギー消費量も高めてくれる栄養素です。

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 ただ食事制限をして体重を減らすのではなく、筋肉や骨の量を維持しながら効率的にダイエットしたいのであれば、タンパク質の摂取量を増やす食事戦略を試してみる価値はありそうですね。

 

 

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◆ 参考文献

O’Dea JP, et al. Effect of dietery weight loss on sex steroid binding sex steroids, and gonadotropins in obese postmenopausal women. J Lab Clin Med. 1979; 93:1004–8.

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