「早食いが太りやすいのは本当なのでしょうか?」
早食いは肥満のもととも言われますが、この問いに現代の栄養学はこう答えています。
「早食いは体重増加のリスクを高める」
「とくに、ある食品を早食いすることはもっとも太るリスクを高める」
今回は、早食いをすると太るエビデンスとそのメカニズムとともに、とくに早食いしてはいけない「ある食品」についての最新研究の結果をご紹介しましょう。
Table of cotents
◆ 早食いは太るエビデンス
早く食べることと、ゆっくり食べることは、体型に関連があるのでしょうか?
この疑問について、多くの日本の研究者が研究結果を報告しています。
2008年、大阪大学のMaruyamaらは、食べる速度と体重増加のリスクについて調査しました。
調査に参加した日本人30〜69歳の3,287名(男性1,122名、女性2,165名)を対象に、体重、体格指数(BMI)、食事の速さ、満腹まで食べるか否か、総エネルギー摂取量について聴取されました。
その結果、早く食べるグループはゆっくり食べるグループよりも体重、BMI、総エネルギー摂取量の増加と関連が認められました。
早く食べることによる体重増加のリスクは、ゆっくり食べるよりも男女ともに高く、満腹まで食べる場合は、そのリスクが増加することが示されました。
これらの結果から、早く食べることは、ゆっくり食べるよりも体重増加のリスクが高くなることを示唆しています。とくに「早く食べてなおかつ満腹まで食べる」ことは、体重増加のリスクをさらに高めることが示唆されたのです(Maruyama K, 2008)。
2011年には福岡大学のTaniharaらが食べる速度と体重の変化についてに8年分のデータを用いた研究結果を報告しています。
福岡県在住の920名の男性(平均年齢38歳)を対象として、食事を食べる速度が早い、中程度、遅いの3つのグループに分けて、8年間における体重の変化を調査しました。
その結果、食べる速度が中等度または遅いグループは平均0.7kgの体重増加を示しましたが、食べる速度が速いグループは平均1.9kgの体重増加を示しました。この傾向は20代から50代まで、すべての年代に認められました。食べる速度は体重の増加と関連しており、速く食べることは、中等度、遅く食べるよりも2倍以上も体重が増加する可能性が示唆されたのです(Tanihara S, 2011)。
そして2015年、これらの研究結果をまとめたメタアナリシスが報告されました。
九州大学のOhkumaらは、これまでに食事の速度と体重の変化について検証された23の研究結果をまとめて解析したメタアナリシスを行いました。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
メタアナリシスは23の研究報告をもとに、摂取率による体格指数(BMI)の増加リスクと肥満のリスクが解析されました。摂取率とは、単位時間あたりの食べる量の割合を表す指標であり、摂取率が高いことは単位時間あたりの食べる量が多い、つまり多くの量を早く食べることを示します。
摂取率(g/min) = 食べる量(g)/ 単位時間(min)
その結果、摂食率が高いグループは、摂食率が低いグループよりもBMIの増加リスクが高くなることが示されました。また、摂食率の高いグループは肥満のリスクを増加させる可能性が示されました。またサブグループ解析により、この結果に男女の差はないことがわかりました。
Fig.1:Ohkuma T, 2015より筆者作成
これらの結果は、早く多くの量を食べることがBMIや肥満のリスクを高める可能性を示唆しています(Ohkuma T, 2015)。
このように早食いは体重増加のリスクと関連することが示されており、早く多くの量をお腹いっぱいまで食べると、さらに体重増加のリスクが高まることが示唆されているのです。
では、なぜ早く食べると太るリスクが高くなるのでしょうか?
◆ 早く食べるとエネルギー摂取量が増えるメカニズム
僕たちは満腹を感じると食欲が減ります。
この満腹感は脳の視床下部にある満腹中枢によって制御されています。視床下部による食欲の制御は、主に3つのセンサーによって伝達された情報をもとに行われます。
そのセンサーが「血液中のグルコース」、「腸の食欲抑制ホルモン」、「胃の食欲促進ホルモン」です。
食事をすると、血液中のグルコース濃度が高まり、腸が伸ばされるため食欲を抑制するCCK、GLP-1、PYYの分泌が高まり、胃も伸ばされるため食欲を促進するグレリンの分泌が抑えられます。これらの情報が視床下部に伝達されることにより、満腹中枢が活性化して「お腹がいっぱいになった」という満腹感を感じて、食欲がなくなるのです。
では、この食欲のメカニズムに食事の速さはどのように影響するのでしょうか?
アテネ大学のKokkinosらは、被験者をアイスクリームを5分で食べるグループと30分で食べるグループにランダムに分けて、食べたあとの血液中のグルコース濃度と食欲抑制ホルモンであるPYY、GLP-1を計測しました。
その結果、5分のグループは30分のグループよりもグルコース濃度が低くなる傾向があり、PYY、GLP-1の血漿濃度も低くなることが示されました。
Fig.2:Kokkinos A, 2010より筆者作成
Fig.3:Kokkinos A, 2010より筆者作成
この結果から、早く食べることは、ゆっくり食べることよりも血液中のグルコース濃度が上がりにくく、食欲抑制ホルモンが増加しにくいことを意味しており、満腹感が生じにくいことを示唆しています。
また、ブリストル大学のHawtonらは、被験者を600kcalの食事を6分で食べるグループと24分で食べるグループにランダムに分け、食べたあとの食欲促進ホルモンであるグレリンを計測しました。
その結果、6分のグループは24分のグループよりもグレリンの分泌が高いことが示されました。
Fig.4:Hawton K, 2018より筆者作成
この結果から、早く食べることは、ゆっくり食べるよりも食欲促進ホルモンであるグレリンの分泌が減らずに高いことを示唆し、満腹感が生じづらいことを意味します。
これらの知見から、早く食べることは、ゆっくり食べるよりも血液中のグルコース濃度の上昇が低く、食欲抑制ホルモンである消化管ホルモンの分泌が少なく、食欲促進ホルモンであるグレリンの分泌が減らないことから、満腹感が得られず食べすぎてしまうことを示唆しています。
つまり、早く食べることは、満腹感を生じさせる3つのセンサーに感知されないまま食べすぎてしまうため、エネルギー摂取量が多くなり、体重が増加しやすくなるのです。
これに対して、ゆっくり食べることは、血液中のグルコース濃度をしっかり高め、消化管ホルモンの分泌を増やし、グレリンの分泌を抑えることで満腹感を得やすく、エネルギー摂取量を抑えやすくなるのです。
◆ 「超加工食品の早食い」はもっとも太る食べ方
ハンバーガーやフライドポテト、ケーキやポテトチップスなどの超加工食品を食べると、あっという間に食べ終わってしまいます。
食品1gあたりのエネルギー(カロリー)量の割合を「エネルギー密度」といいますが、超加工食品は脂質や糖質が多く含まれており、高ネルギー密度の食品とされています。
また、超加工食品は、柔らかくて口当たりも良く加工されているため、どんどん食べることができます。この食べやすさの指標が前述した摂取率であり、超加工食品は摂取率の高い食品になります。
そして、超加工食品を食べると太るというエビデンスが報告されており、そのメカニズムはたった一行の方程式で導きだされています。
超加工食品 =高いエネルギー密度 × 高い摂取率
これは、超加工食品には高いエネルギー量が含まれており、また食べやすく加工されていることを意味します。このような食品が私たちを太らせるのです。
そして、近年では、超加工食品を早く食べるほど太りやすくなることがわかってきました。
これを検証したのがシンガポール臨床栄養研究センター(CNRC)のTeoらです。
Teoらは、食品に含まれるエネルギー量と食べやすさ(摂取率)をかけ合わせて、食品それぞれの「エネルギー摂取率」を算出しました。
エネルギー摂取率(kcal/min) = エネルギー密度(kcal/g)× 摂取率 (g/min)
エネルギー摂取率が高いということは、高エネルギー密度で食べやすいことを意味しており、超加工食品はエネルギー摂取率の高い食品になります。
Teoらは、中国人やインド人などのアジア人7,011名(21〜75歳)を対象に、食べる速度を3つ(早い、普通、遅い)に分けて、エネルギー摂取率およびエネルギー摂取量との関連を調査しました。
その結果、エネルギー摂取率の増加はエネルギー摂取量の増加と関連しており、また食べる速度が早いほど、その関連が強くなることが示されました。さらに、この関連は、太りすぎ(BMI≥23)の被験者は、通常の体型(BMI18.5-22)よりも強くなることが示されました。
Fig.5: Teo PS, 2020より筆者作成
この結果は、高エネルギー密度で食べやすい食品を早く食べるほどエネルギー摂取量が増えることを示しています。つまり、高エネルギー密度で高い摂食率である超加工食品などの摂取は、早く食べるほどエネルギー摂取量が増加するということです。そして、この傾向はBMIの高いほど強くなることが示されています。
さらに、エネルギー摂取率が高いほど、体重やウエストサイズが増加することも示されています(Teo PS, 20121)。
Fig.6:Teo PS, 2021より筆者作成
フライドポテトやケーキ、スナック菓子といった超加工食品は高エネルギー密度で食べやすい食品です。このような超加工食品を早食いすることは、もっとも太る食べ方になるのです。
早く食べることは、体重を増加させる要因であるというエビデンスをご紹介しました。早く食べると満腹感を生じさせる3つのセンサーに感知されないまま食べすぎてしまうため、エネルギー摂取量が増えやすくなります。とくに超加工食品のようなエネルギー摂取率の高い食品を早く食べることは、エネルギー摂取量を大きく増加させ太る原因になるのです。
では、ゆっくり食べるためには、どうしたら良いのかというと、まずは日頃から食事を味わいながらゆっくり食べることを意識するようにしましょう(これはマインドフルネス・イーティングといい、別の機会でご紹介します)。
また、エネルギー摂取率の高い超加工食品を避けて、エネルギー摂取率の低い最低限の加工がされた食品を多く食べることがポイントになります。エネルギー摂取率はエネルギー密度と食べやすさをかけ合わせたものなので、エネルギー摂取率を低くするためにはエネルギー密度が低い食品や食べにくい(摂取率が低い)食品を多く食べるようにしましょう。
そこで、参考になるのが「やせる食事」です。全粒穀物である玄米やオートミールは精製された白米を食べるよりも咀嚼回数が増えて摂取率が低い食品になります。野菜や果物はエネルギー密度の低い食品であり、太る脂質の多い加工肉や赤い肉(牛肉や豚肉)よりも皮なしの鶏肉のほうがエネルギー密度が低くなります。魚も加工が少ないとともにエネルギー密度が低く、やせる脂質を含んでいます。
『ダイエットするなら「赤い肉」よりも「白い肉」を食べよう!』
エネルギー摂取率の低いやせる食事を、味わいながらゆっくり食べることが「やせる食べ方」になるのです。
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シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】
シリーズ3:テレビをつけたまま寝ると太る最新エビデンス
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シリーズ9:太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!
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シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!
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シリーズ16:寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス
シリーズ17:ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!
シリーズ18:ダイエットするなら「太る炭水化物」と「やせる炭水化物」を見極めよう!
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シリーズ37:やせたいところを筋トレしても「部分やせはしない」という残酷な真実
シリーズ38:ダイエットの成功には「筋肉量」が鍵になる科学的根拠
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シリーズ40:ダイエットするなら「ゆっくり食べる」べき最新エビデンス
シリーズ41:筋トレによる筋肥大と除脂肪の効果を最大にする「プロテインの摂取パターン」を知っておこう!
◆ 参考文献
Maruyama K, et al. The joint impact on being overweight of self reported behaviours of eating quickly and eating until full: cross sectional survey. BMJ. 2008 Oct 21;337:a2002.
Tanihara S, et al. Retrospective longitudinal study on the relationship between 8-year weight change and current eating speed. Appetite. 2011 Aug;57(1):179-83.
Ohkuma T, et al. Association between eating rate and obesity: a systematic review and meta-analysis. Int J Obes (Lond). 2015 Nov;39(11):1589-96.
Robinson E, et al. A systematic review and meta-analysis examining the effect of eating rate on energy intake and hunger. Am J Clin Nutr. 2014 Jul;100(1):123-51.
Kokkinos A, et al. Eating slowly increases the postprandial response of the anorexigenic gut hormones, peptide YY and glucagon-like peptide-1. J Clin Endocrinol Metab. 2010 Jan;95(1):333-7.
Hawton K, et al. Slow Down: Behavioural and Physiological Effects of Reducing Eating Rate. Nutrients. 2018 Dec 27;11(1):50.
Teo PS, et al. Combined Impact of a Faster Self-Reported Eating Rate and Higher Dietary Energy Intake Rate on Energy Intake and Adiposity. Nutrients. 2020 Oct 25;12(11):3264.
Teo PS, et al. Consumption of Foods With Higher Energy Intake Rates is Associated With Greater Energy Intake, Adiposity, and Cardiovascular Risk Factors in Adults. J Nutr. 2021 Feb 1;151(2):370-378.