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ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠


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 ダイエットをするなら、食事制限と運動はセットで行うべきでしょうか?

 

 ダイエットの効果は、大前提として、エネルギー摂取量とエネルギー消費量からなるエネルギーバランスの収支で決まります。そのため、食事制限によりエネルギー摂取量を減らし、運動によりエネルギー消費量を増やすことは、エネルギーバランスを大きくマイナスにすることから体重減少の効果を高めます。

 

 そうであれば、食事制限と運動をセットで行うことは体重減少に有効と考えられます。しかし、現代の栄養学や運動生理学、社会心理学の知見では、ダイエットをはじめたばかりの初期であれば「食事制限のみ」から行うことを推奨しているのです。

 

 今回は、ダイエットをするなら「食事制限のみ」から始めるべき科学的根拠となる研究報告や知見をご紹介しましょう。



Table of contents

 


◆ 短期的なダイエットでは「食事制限のみ」でも効果的

 

 現代の栄養学はダイエットにおける食事制限と運動の必要性についてこう述べています。

 

 「短期的なダイエットでは食事制限だけでも効果がある」

 

 この科学的根拠になっているのが2014年に報告されたメタアナリシスです。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 JAND行動体重管理レビューグループのJohnsらは、食事制限のみ、運動のみ、食事制限+運動によるダイエット効果について検証した9つのランダム化比較試験(RCT)をまとめて解析しました。

 

 肥満または太り過ぎの男女1,022名(32〜70歳)を対象に、食事制限のみ、運動のみ、食事制限+運動による短期(3〜6ヶ月)の体重の減少効果について解析が行われました。食事制限はエネルギー摂取制限が行われ、運動は週3〜5回、中程度から高強度のウォーキングやジョギングが行われました。

 

 その結果、食事制限のみのグループと食事制限+運動のグループでは、食事制限+運動のグループで体重が減少しやすい傾向が認められましたが、両グループに有意な差は認められませんでした。

 

 また、運動のみのグループと食事制限+運動のグループでは、食事制限+運動のグループで体重減少の効果が認められました。

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Fig.1:Johns DJ, 2014より筆者作成

 

 これらの結果は、短期間のダイエットでは食事制限のみでも、食事制限に運動を加えても体重減少の効果に差がないことを示しています。また、運動のみよりも運動に食事制限を加えたほうが体重減少の効果が高いということは、短期間のダイエットにおける食事制限の重要性を示しています。

 

 ダイエットを始めてから半年間という短期間では、食事制限のみに注力しても十分に体重を減少させる可能性が示唆されているのです。

 

 では、なぜ短期的なダイエットでは、食事制限のみでも十分な体重減少の効果が得られやすいのでしょうか



◆ ダイエット初期のフェーズは痩せやすい!

 

 ダイエットの経験がある方はわかると思うのですが、ダイエットを始めて数週間という初期のフェーズでは、食事制限をするだけでも体重が大きく減っていく傾向があります。しかしながら、後期のフェーズになると同じ食事制限をしていても、なかなか痩せにくくなります。

 

 これは、なぜかというと、ダイエット初期と後期では体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なるからです。

 

 ペニントン生物医学研究センターのHeymsfieldらは、ダイエットを始める被験者を対象に、ダイエット開始から24週間(6ヶ月間)における体重1kgを減らすためのエネルギー量を計測しました。

 

 その結果、体重1kgを減らすためのエネルギー量は、ダイエット開始から4週目が平均4,858kcalであるのに対して、6週目には6,041kcalに増加し、24週目には7,000kcalに近づくことが示されました(Heymsfield SB, 2012)。

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Fig.2:Heymsfield SB, 2012より筆者作成

 

 これは、ダイエット初期のフェーズでは、少ない食事制限でも痩せやすいが、その後も体重が減少していき、開始から半年後の後期のフェーズに入ると「同じ食事制限では痩せにくい」ということを意味しています。

 

 なぜ、ダイエットのフェーズによって体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なるのかというと、フェーズによって体重減少の因子が異なるからです。

 

 ダイエット初期のフェーズに生じる体重減少は、主に水分やグリコーゲン、タンパク質の損失に起因しています。そして、後期のフェーズに入るとようやく脂肪が減少していきます。このようなフェーズによる体重減少の因子の異なりにより、体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なるのです。

 

 食事制限と運動を組み合わせることは、エネルギー摂取量を減らし、エネルギー消費量を増やすため、マイナスのエネルギーバランスを大きくして体重の減少を促進します。しかし、ダイエット初期は、体重1kgを減らすためのエネルギー量が比較的少ないことから、食事制限のみでも十分にダイエット効果が期待できるのです。

 

 

◆ 食事制限は運動よりも取り組みやすい!

 

 超加工食品は、ダイエットの大敵です。フライドポテトやハンバーガーはエネルギー密度が高いことからも、ダイエットをはじめるなら、真っ先に食べることをやめなければなりません。

ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

 

 そこで、ハンバーガーセットのポテトをサラダに代えたとしましょう。

 

 ポテトのMサイズのエネルギー(カロリー)量は約450kcalです。ポテトをサラダに代えるという食事制限だけで、おおよそ400kcalのエネルギー摂取量を減らすことができます。

 

 では、ポテトと同じ400kcalというエネルギー量を消費するには、どのくらいの運動をすれば良いのでしょうか?

 

 僕たちの身体は、呼吸によって体内に酸素を取り込み、酸素を食事から摂取した糖や脂質と反応させることで生命維持や運動するためのエネルギーを生み出しています。

 

 運動をしていると呼吸が荒くなるのは、多くの酸素を体内に取り込み、長く運動するためのエネルギーを生み出しているからです。生み出されたエネルギー量は、運動によって消費されるため、これがエネルギー消費量になります。

 

 取り込まれた酸素の量 = 生み出されたエネルギー量 = 運動にるエネルギー消費量

 

 つまり運動によるエネルギー消費量を求めるには、エネルギーを生み出すために使われた酸素の量がわかれば良い、ということになります。

 

 酸素1Lで約5kcalのエネルギー量を消費することから、酸素1L=5kcalでエネルギー消費量を推定することができます。

 

 一般的な20代の男性が1分間に取り込むことができる酸素の量は、体重1kgあたり約50mLとされています。そのため、体重70kgの男性がジョギングなどの中強度の運動(最大酸素摂取量の50%)で取り込む1分間の酸素の量は1.75Lになります。

 

 50mL × 0.5 × 70kg = 1750mL/分 = 1.75L/分

 

 酸素1Lのエネルギー量は5kcalのため、1分間のジョギングによるエネルギー消費量は8.75kcalになります。

 

 1.75L × 5kcal = 8.75kcal/分

 

 ここから、ポテトの400kcalのエネルギーを消費するには、ジョギングを約45分しなければならないことが推定できます。

 

 400kcal ÷ 8.75kcal/分 = 45.7分

 

 ポテトをサラダに代えるだけで400kcalのエネルギー摂取量を減らせますが、400kcalを消費しようとすると45分間ものジョギングをしなければなりません。

 

 ここから、食事制限によってエネルギー摂取量を減らしたほうが長時間の運動をしてエネルギー消費量を増やすよりも簡単で効率的であることがわかります。 

 

 ダイエット初期は、体重1kgを減らすためのエネルギー量が少なく「痩せやすい時期」です。そうであれば、運動をするという高いハードルを設けずに、簡単な食事制限によってエネルギー摂取量を減らすことでも十分に体重を減らすことができるのです。



◆ 意志力をつかうのは食事制限だけにしておこう!

 

 ダイエット初期から食事制限と運動というふたつの課題を行うと「ダイエットが続かない」という問題があります。

 

 ポテトをサラダに代えることは容易にエネルギー摂取量を減らしますが、大好きなポテトを我慢するために「意志力」を使います。

 

 僕たちに備わっている意志力は無限ではなく、有限です。仕事が忙しかったり、人間関係でのトラブルによって意志力を消耗していれば、ポテトの誘惑に勝てずに、ポテトをサラダに代えることなく食べてしまうでしょう。

 

 カーティン大学の研究では、ダイエット中の被験者に片足立ちをしながら難しい計算課題を行うと、簡単な計算課題のみを行った被験者よりも、その後に出されたチョコやクッキーといったスイーツを多く食べてしまうことが報告されています(Hagger MS, 2010)。

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Fig.3:Hagger MS, 2010より筆者作成

 

 片足立ちをしながら計算を行うという意志力を使う課題をさせると意志力が消耗してしまい、ついつい大好きなスイーツを食べすぎてしまうのです。食事制限を継続するには意志力を無駄に消耗させないようなマネジメントが必要になるのです。

 

 では、運動を行うことは意志力を減らすのでしょうか?

 

 クイーンズランド工科大学の研究では、食事制限と運動を同時に行うと、監視されない条件下では運動を高いレベルで行えず楽をしてしまい、運動を続けられない傾向があることを報告しています(Colley RC, 2008)。

 

 食事制限で意志力を減らしているうえに、さらに運動により意志力を減らすと、意志力が消耗してしまい、食事制限や運動の継続を遵守できなくなることが示唆されているのです。

 

 ダイエットを始めたばかりのときは、食事制限にも慣れてなく、体重減少の効果を感じることもないため、意志力を多く使います。そこに運動も加えるということは、意志力の消耗を招き、ダイエット自体を続けられなくなってしまう可能性があるのです。

 

 ヒトの意志力は有限であるという前提からも、まずは食事制限のみを行い、食事制限に慣れて、体重減少の効果を実感できてから運動を追加しても遅くはないでしょう。



 

 ダイエットを始めてからの短期間では、食事制限のみでも食事制限と運動をセットで行っても体重減少の効果に差がないという科学的根拠が示されています。

 

 もちろん食事制限と運動をセットで行えればダイエット効果は高まります。しかし、ダイエット初期は体重1kgを減らすためのエネルギー量が少なく痩せやすいこと、食事制限だけでも簡単にエネルギーバランスをマイナスにできること、食事制限のみだと意志力をマネジメントしやすく、ダイエットの継続性を高められることから、ダイエットをするなら「食事制限のみ」から始めることが最適解になるのです。

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

シリーズ3:テレビをつけたまま寝ると太る最新エビデンス

シリーズ4:コーヒーにはダイエット効果がある?【最新エビデンス】

シリーズ5:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜糖類編〜

シリーズ6:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

シリーズ7:筋トレをして筋肉を増やせばダイエットできる説を検証しよう!

シリーズ8:ソイ・プロテインなどの大豆食品によるダイエット効果の最新エビデンス

シリーズ9:太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ10:ダイエットをすると頭が良くなる最新エビデンス【科学的に正しい自己啓発法】

シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】

シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

シリーズ14:ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!

シリーズ15:タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!

シリーズ16:寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス

シリーズ17:ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

シリーズ18:ダイエットするなら「太る炭水化物」と「やせる炭水化物」を見極めよう!

シリーズ19:ダイエットするなら「白米よりも玄米」を食べよう!

シリーズ20:ダイエットするなら「やせる野菜と果物」を食べよう!

シリーズ21ダイエットするなら「健康に良い、やせる脂質」を食べよう!

シリーズ22:ダイエットするなら「おやつにナッツ」を食べよう!

シリーズ23:ダイエットするなら「ジュース(砂糖入り飲料)の中毒性」を断ち切ろう!

シリーズ24:ダイエットするなら「やせる飲みもの」を飲もう!

シリーズ25:タンパク質は食べるだけでエネルギーを消費できる!〜食事誘発性熱産生を知っておこう

シリーズ26:ダイエットするなら「赤い肉」よりも「白い肉」を食べよう!

シリーズ27:ダイエット中の食べすぎを防ぎたいなら、食事の前に「冷たい水」を飲もう!

シリーズ28:タンパク質はダイエットによる骨の減少を抑えてくれる!

シリーズ29:乳製品がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ30:タンパク質がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ31:週末に寝だめをしても睡眠不足による食欲の増加は防げない!

シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

シリーズ33:ダイエットを成功させたいなら「リバウンドのメカニズム」を知ってこう!

シリーズ34:ダイエットでリバウンドを防ぐなら「運動」をするべき科学的根拠

シリーズ35:ぽっこりお腹を減らしたいならダイエットで「運動」をするべき科学的根拠

シリーズ36:もっとも脂肪を減らす「有酸素運動の方法論」を知っておこう!

シリーズ37:やせたいところを筋トレしても「部分やせはしない」という残酷な真実

シリーズ38:ダイエットの成功には「筋肉量」が鍵になる科学的根拠

シリーズ39:ダイエット後のリバウンドを防ぐ「筋トレの方法論」を知っておこう!

シリーズ40:ダイエットするなら「ゆっくり食べる」べき最新エビデンス

シリーズ41:筋トレによる筋肥大と除脂肪の効果を最大にする「プロテインの摂取パターン」を知っておこう!

 

 

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◆ 参考文献

Johns DJ, et al. Diet or exercise interventions vs combined behavioral weight management programs: a systematic review and meta-analysis of direct comparisons. J Acad Nutr Diet. 2014 Oct;114(10):1557-68.

Heymsfield SB, et al. Energy content of weight loss: kinetic features during voluntary caloric restriction. Metabolism. 2012 Jul;61(7):937-43. 

Hagger MS, et al. Ego depletion and the strength model of self-control: a meta-analysis. Psychol Bull. 2010 Jul;136(4):495-525.

Colley RC, et al. Variability in adherence to an unsupervised exercise prescription in obese women. Int J Obes (Lond). 2008 May;32(5):837-44.