リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

ダイエットを成功させたいなら「リバウンドのメカニズム」を知ってこう!


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 前回は、ダイエットするなら運動よりも「食事制限」から始めるべき科学的根拠についてご紹介しました。

 

 ダイエットをはじめたばかりの体重の減少は、脂肪よりも水分やグルコース、タンパク質などによります。そのため、この時期は体重1kgを減らすためのエネルギー(カロリー)量も少なく、痩せやすい時期になります。食事制限は運動をするよりも簡単にエネルギー摂取量を減らせることから、ダイエット初期の痩せやすい時期では食事制限だけでも十分に体重を減らすことができるのです。

ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 では、ダイエットに運動はいらないのか?というと、そういうことではありません。

 

 現代の栄養学や運動科学は、こう述べています。

 

 「リバウンドを防ぎたいなら運動を取り入れよう」

 

 ダイエットをして体重を減らしても、その約8割がリバウンドしてしまうことが報告されています(Wing RR, 2005)。多くの人が一時的にダイエットに成功しても、その後にリバウンドをしてしまい、またダイエットを試みるというループに入り込んでしまうのです。

 

 このリバウンドのループを抜け出し、長期的なダイエットを成功させる方法のひとつが「運動」とされているのです。

 

 運動の有効性を知るためにも、まずは「なぜ、リバウンドしてしまうのか?」という疑問を紐解かなければなりません。

 

 今回は、リバウンドするメカニズムについて、近年の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents

 



◆ 脂肪によってヒトは進化することができた

 

 ヒトの体脂肪の重要性について、ハーバード大学の進化生物学者であるDaniel Liebermanはこう答えています。

 

 「体脂肪は、ヒトの進化の過程できわめて重要な役割を果たした」

 

 旧石器時代では、狩猟採集によって獲物を狩れたときには食にありつけましたが、そうでないときには飢餓の時期が続きました。このような半飢餓の時代を生き抜くために重要だったのが「体脂肪」です。

 

 ヒトは他の霊長類に比べてもっとも体脂肪率が高い生物です。他の霊長類の体脂肪率は成体で6%前後で、子供は約3%の体脂肪をもって生まれてきますが、ヒトの新生児は15%もあり、幼少期にいたっては25%まで増加し、成人になると男性で10%、女性で20%に落ち着きます。

 

 ヒトの脳は他の霊長類よりもとても大きく、そのエネルギー消費量は安静時代謝量の20〜30%(280〜420kcal相当)にもなります。また、女性は妊娠や出産、その後の授乳で男性よりも多くのエネルギーが必要になります。男性も狩猟生活では、長い距離を移動しなければなりません。

 

 このような状況下で、食物にありつけたときに食べるだけ食べて、脂肪を蓄えられたものが飢餓のときでも脂肪をエネルギーに変換することで生き抜くことができました。脂肪はエネルギーを供給する貯蔵庫として生命の維持、子孫繁栄において重要な役割を担っていたのです。

 

 進化の過程で脂肪を蓄えやすい(太りやすい)個人が優先的に生き残り、その末裔である現代の僕たちの脳や身体には、生得的に脂肪を蓄えるようにプログラムされているのです(Lieberman DE, 2014)。

 

 では、脂肪を蓄えるようにプログラムされている僕たちの脳や身体は、飢餓で脂肪が減るとどのような反応をするのでしょうか?

 

 そこで作動するのが「恒常性」という性質です。

 

 

◆ ヒトには脂肪が減ると脂肪を増やす恒常性が備わっている

 

 恒常性とは、生体の状態を一定に保つ性質であり、生物のもつ重要な性質のひとつとされています。

 

 体温は通常36度台で一定を保っていますが、運動をすると上ります。すると身体は汗をかいたり、血管を拡張させることによって体温を下げるように作用します。逆に寒いときには震えることで体温をあげようとします。このように脳や身体には、体温を36度という一定の状態に保つ恒常性が備わっているのです。

 

 恒常性は体重にも作用します。

 

 進化の過程で脂肪を蓄えるよにプログラムされた脳や身体において、ある程度の脂肪を蓄えていることは安定した状態(生存に有利な状態)を意味します。

 

 食べ物がなく体重が減り、脂肪が減ると脳や身体は不安定な状態(生存に不利な状態)と感知して、体重をもとに戻そうと食欲を増やし、エネルギー消費量を少なくするように恒常性が働きます。反対に、過食により体重が増え、脂肪が増えても、もとの体重に戻そうと食欲が減り、エネルギー消費量を増加させるように恒常性が働きます。

 

 ロックフェラー大学の研究では、実験的に体重を通常時から10%減らすと、総エネルギー消費量が約300kcal減少し、反対に体重を通常時から10%増やすと、総エネルギー消費量が約500kcal増加することが示唆されています(Leibel RL, 1995)。

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Fig.1:Leibel RL, 1995より筆者作成

 

 このようにヒトには、体重が増えても減っても、ある程度の脂肪を蓄えている安定した体型を維持するように恒常性が作用するのです。

 

 しかし、ここでひとつの疑問が生じます。

 

 体重が増えても、もとの体重に戻すように恒常性が働くのであれば、なぜ僕たちは太ってしまうのでしょうか?

 

 リバウンドのメカニズムを紐解く前に、太るメカニズムを見てみましょう。



◆ 「恒常性の食欲」と「嗜好性の食欲」の異常が僕たちを太らせる

 

 食欲には2つの側面があります。

 

 僕たちはお腹が空くと食欲が高まります。食欲がなければ生きていくことはできません。この生命の維持に必要となる食欲は、さきほど述べた恒常性によって調節されており、これを「恒常性の食欲」といいます。体重を一定に保つために、空腹になると食欲が高まり、満腹になると食欲が減るという恒常性が作用しているのです。

 

 ところが、満腹でも甘いケーキやポテトチップスを見ると「もっと食べたい!」という食欲が湧いてきます。いわゆる「別腹」というものですね。

 

 この恒常性の食欲を超えて「美味しいからもっと食べたい!」という食欲を「嗜好性の食欲」といいます。

 

 食欲にはこの「恒常性の食欲」と「嗜好性の食欲」があるのです。

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 これらの食欲をコントロールするのが「脳」であり、現代の脳科学はそれぞれの食欲を司る脳の部位が異なることを明らかにしています。

 

 恒常性の食欲は脳の間脳というところにある「視床下部」が制御しています。視床下部は体温や血圧、ホルモンや睡眠などの恒常性を維持する役割を果たしています。これに対して、嗜好性の食欲は「報酬系」という脳機構が制御しています。

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 そして、これらの脳の部位に異常が生じると、体重が増加しても体重を減らそうとする恒常性が働かなくなるのです。

 

 恒常性の食欲を制御する視床下部に脂肪が増えた、減ったという情報を伝達するのが「レプチン」です。

 

 レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、アディポサイトカインの代表的なものとされています。 アディポサイトカインの「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味し、アディポサイトカインは脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称になります。

 

 レプチンは脂肪細胞の大きさが変わることによって、その分泌量が増減します。

 

 過食によって脂肪細胞が増加するとレプチンの分泌量が増えます。レプチンは視床下部の弓状核と呼ばれる部位に作用すると、視床下部は食欲を抑えるように働きます。また交感神経を活性化させて脂肪を燃やし、エネルギー消費量の増加を促します。食欲を抑えてエネルギー摂取量を減らし、エネルギー消費量を増やし、エネルギーバランスをマイナスにすることによって体重をもとに戻そうとするのです。

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 しかし、習慣的に過食を繰り返していると、脂肪細胞からレプチンが分泌されても視床下部にその情報が伝わりにくくなります。

 

 これを「レプチン抵抗性」といいます。

 

 過食を繰り返し、慢性的に脂肪細胞からレプチンが放出されると、視床下部の弓状核に炎症が生じます。これにより、レプチンが多く分泌されても視床下部に作用しにくくなる「レプチン抵抗性」が生じてしまうのです。

 

 レプチン抵抗性が生じると、視床下部によって食欲を抑える働きが弱まりエネルギー摂取量が増え、エネルギー消費量を高める働きも弱まることで体重が増え続けてしまうのです(Pan WW, 2019)。

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 さらに、過食を繰り返してると「嗜好性の食欲」も異常をきたします。

 

 ケーキやポテトチップスなど糖質や脂質が豊富な食品を食べると、脳内でβエンドルフィンが分泌され「美味しい」という快感が与えられます。この快感情報が中脳の腹側被蓋野に送られ、ドーパミン作動性ニューロンが興奮し、側坐核線条体ドーパミンが放出されます。これにより「美味しい」という快感(報酬)を得た行動(糖質や脂質が豊富な食品を食べる)が強化されます。このような報酬によってその行動が強化される仕組みを「報酬系」といいます。

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 ケーキやポテトチップスを食べて「美味しい!」と感じ、報酬系によってその行動が強化されると、次にケーキやポテチを見たときに美味しいという快感(報酬)を得たくなり、満腹でも「もっと食べたい!」という嗜好性の食欲が湧いてくるのです。

 

 しかしながら、過食を繰り返していると、腹側被蓋野からドーパミンを放出しても側坐核線条体にある受容体の反応が鈍くなります。そのため、ケーキをひとつだけでは物足りず、糖質や脂質が多い報酬価値の高い食品をもっと食べたくなってしまうのです(Murray S, 2014)。

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 このような報酬系の異常は、中毒化を生じさせ、現代の栄養学では「糖質中毒(Sugar Addiction)」や「脂質中毒(Fat Addiction)」がトピックスにもなっています。これは薬物依存と同じメカニズムとされています(Volkow ND, 2017)。

 

 僕たちの脳は半飢餓であった旧石器時代のままなので、エネルギー密度が高い糖質や脂質が大好です。そして現代は、お菓子や砂糖入り飲料、ファーストフードなどの糖質や脂質をふんだんに盛り込んだ超加工食品を簡単に食べることができます。

 

 このような飽食の環境下では、報酬系による嗜好性の食欲が高まりやすく、過食を繰り返しやすくなります。すると、レプチン抵抗性が生じることによって恒常性の食欲が作用しなくなり、食欲を抑えられなくなります。また報酬系が鈍化することによって、もっと快感を得るために糖質や脂質が多いケーキなどを食べたくなる中毒性を生じさせます。過食が過食を生み、その結果として肥満が生じるのです。

 

 現代の脳科学でも解明できていないことが多くありますが、これが現時点で明らかになっている太るメカニズムなのです。

 

 太るメカニズムを理解できると、リバウンドのメカニズムも理解しやすくなります。



◆ ダイエットをすると、脳は全力で体重をもとに戻そうとする

 

 過食を繰り返していると、レプチン抵抗性が生じることによって増えた体重を減らそうという恒常性が働かなくなります。その結果、食欲を抑えることができずに、体重が増え続けてしまいます。

 

 では、太った状態になると体重を調節する恒常性は働かなくなってしまうのでしょうか?

 

 その答えは、恒常性は体重の増加には働かないが「体重の減少には働く」というものです。

 

 ダイエット初期のころは水分やグリコーゲン、タンパク質が減ることによって体重が減少します。そこで、長期的にダイエットを続けるとようやく脂肪が減少していきます。

 

 脂肪細胞はすぐに増えたり、減ったりはしません。長い時間をかけて徐々に増減します。この長期的な脂肪細胞の増減によって分泌されるのが前述したレプチンです。ダイエットにより脂肪細胞が徐々に減っていくと、レプチンの分泌量も減ります。レプチンは食欲を抑え、安静時エネルギー消費量を高めるホルモンなので、その分泌量が減ることは、食欲を高めて、安静時エネルギー消費量が減ることにより、食事制限をしても痩せにくくなることを意味します(Muller MJ, 2013)。

 

 長期的に食欲を調整するホルモンがレプチンであるのに対して、1回1回の食事という短期的な食欲を調整しているのが「血液中のグルコースインスリン」、「腸から分泌される食欲抑制ホルモンである消化管ホルモン」、「胃から分泌される食欲促進ホルモンであるグレリン」の3つの機能です。これらは食欲のセンサーとして、その情報を視床下部に送っています。

 

 仕事や運動をしてエネルギーを消費すると、徐々に血液中のグルコースが減っていきます。グルコースの量によってインスリンの分泌量も影響されるため、インスリンの分泌量も減っていきます。すると脂肪細胞から脂肪酸が分泌され、血液中の脂肪酸が増えます。この「血液中のグルコースインスリンの減少、脂肪酸の増加」が信号となり、視床下部の摂食中枢に作用して、食欲が高まります。

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 腸には消化管ホルモモンである「CCK(コレシストキニン)、GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)、PYY(ペプチドYY)」が分泌されています。これらの消化管ホルモンは「食欲を抑える信号」を発する役割があり、その分泌は腸の伸び具合で調整されています。空腹になると腸は空っぽになるので、ゆるみます。すると消化管ホルモンの分泌が抑えられ、食欲を抑える信号が減るため、視床下部の摂食中枢が活性化して食欲が高まります。

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 胃にはペプチドホルモンである「グレリン」が分泌されています。グレリンは「食欲を高める信号」を発する食欲促進ホルモンです。グレリンも胃の伸び具合で分泌が調整されています。空腹になると胃がゆるむので、グレリンが多く分泌されて、視床下部の摂食中枢が活性化して食欲が高まります。

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 このような3つのセンサーによって食欲が高まり「お腹が空いた!」と僕たちは感じるのです。

 

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 食事をすると逆に食欲は減少します。ここでは、先程と反対のメカニズムが生じます。

 

 食事をすると血液中のグルコースが増えて、それを肝臓や筋肉に取り込むためにインスリンの分泌も増え、脂肪酸が減ります。また食事により腸が張って伸ばされると消化管ホルモンの分泌が増えます。同じように食事により胃も張って伸ばされるのでグレリンの分泌が抑えられます。これらの情報によって視床下部は「お腹がいっぱい」と判断して、食欲が減少します。

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 これが、1回1回の食事という短期的な空腹感や満腹感といった食欲を感じるメカニズムであり、このメカニズムもレプチンとともに視床下部による恒常性に寄与しています。

 

 そして、ダイエットをして体重を減らすと、これらの短期的な食欲のセンサーにも恒常性が働きます。

 

 ダイエットをして体重を減らすと、視床下部は体重をもとに戻すためにグレリンや消化管ホルモンの分泌レベルを調整します。体重が減少するとグレリンの分泌レベルを高めて食欲を促進させ、消化管ホルモンの分泌レベルを抑えることで食欲の抑制作用を減らします。これにより空腹感は強くなり、満腹感を感じにくくなります。

 

 このように、ダイエットをして体重を減少させると、脂肪細胞の縮小により長期的な食欲抑制作用のあるレプチンの分泌が減るとともに、視床下部は短期的な食欲調整作用のあるグレリンや消化管ホルモンの分泌レベルを調整することによって食欲を高めて体重をもとに戻すように働きがけるのです(Greenway FL, 2015)。

 

 さらに、体重が減少すると総エネルギー消費量が減りにくくなります。

 

 総エネルギー消費量は、基礎代謝量(安静時エネルギー消費量)、食事誘発性熱産生、活動時エネルギー消費量の3つの要素で構成されています。体重が減少すると、これらのすべての消費量が減ります。

 

 食事制限をすると脂肪とともに筋肉量も減少します。筋肉量の減少は、安静時エネルギー消費量の減少の要因になります。また、この安静時エネルギー消費量の減少は、体重がもとに戻っても数年間は低くなる可能性が示唆されています(Fothergill E, 2016)。

ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

 

 食事をすると食事によって誘発されるエネルギーを消費する食事誘発性熱産生が生じますが、食事制限によって食べる量が減ると、食事誘発性熱産生によるエネルギー消費量も減ってしまいます。

 

 太っていると、身体活動するためのエネルギーコストが高くなりますが、体重が減少すると、同じ身体活動をするためのエネルギーコストが少なくなります。これは、同じ日常生活をしていても、体重が減少すると身体活動をするためのエネルギー消費量(活動時エネルギー消費量)が減少することを意味しています(Weigle DS, 1990)。

 

 このように、ダイエットをして体重が減ると、視床下部は体重を戻すように食欲調整ホルモンに働きがけて食欲を高めます。さらに、総エネルギー消費量が減少することによって体重をもとに戻そうという恒常性が働くのです。

 

 過食を繰り返して肥満になった状態では、体重を減らそうとする恒常性は異常をきたしてしまいます。しかし、太った状態からダイエットをして体重を減少させると、体重をもとに戻そうとする恒常性はしっかりと働いてしまうのです。

 

 体重を戻そうとする恒常性は食欲を高め、総エネルギー消費量を減らすように作用します。つまり太りやすい体内環境を作り出します。そこで、ライフスタイルや食環境における何かしらのきっかけ(週末の飲み会や正月のお祝いなど)で糖質や脂質の多い食品を食べすぎると、これまで抑えられていた報酬系が活性化しはじめます。すると「もっと食べたい!」という中毒性のある嗜好性の食欲が戻ってきて、リバウンドが促進されてしまうのです。

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 これが、現在までに推察されているリバウンドするメカニズムです。



◆ 長期的なダイエット成功の秘訣

 

 では、リバウンドを防いで、ダイエットによって減少した体重を維持することはできるのでしょうか?

 

 ブラウン大学のWingらは長期的なダイエットの成功の秘訣は「減少した体重を維持した期間」にあるといいます。

 

 Wingらは、ダイエット後に体重を維持できた被験者とリバウンドした被験者の特性を分析しました。その結果、リバウンドせずに長期的にダイエットの成功を予測した因子は、被験者がどれだけ長く減少した体重を維持したのかという「減少した体重を維持した期間」であることを報告しました。

 

 具体的には、2年間、減らした体重を維持した被験者は、その後のリバウンドのリスクが50%減らせることが示されました。また、5年以上、減らした体重を維持できた場合は、その後のリバウンドのリスクを70%近くまで減らせることが示されました。

 

 ここから、Wingらは少なくても2年以上、ダイエットにより減少した体重を維持することができれば、その後にリバウンドするリスクを大幅に減らすことができ、さらに減少した体重を維持する期間が長いほど、リバウンドのリスクを減らすことができる可能性を示唆しています(Wing RR, 2005)。

 

 長期間、減らした体重を維持するためには、過食をせずに、エネルギー密度の高い糖質や脂質を多く含む超加工食品の摂取を控えることになります。このような食生活パターンがレプチン抵抗性や報酬系の異常の改善に寄与する可能性はありますが、詳細なメカニズムはいまだ明らかではなく、今後のさらなる研究が期待されています。



 半飢餓の旧石器時代を生き抜いた遺伝子を引き継いでいる僕たちの脳や身体には、生得的に脂肪が減れば脂肪を蓄えるという恒常性がプログラムされています。しかし、飽食の現代では、このプログラムと食環境にミスマッチが存在するため、過食により太りやすくなります。そこでダイエットをしても強固な恒常性のプログラムによって、減った体重をもとに戻すようにリバウンドが生じてしまうのです。

 

 ダイエットにより減らした体重を維持する期間を長くできれば、それだけリバウンドのリスクを減らせる可能性があります。しかしながら、5年間、体重を維持できたとしてもリバウンドのリスクは30%ほど残ります。これは、長期的なダイエットの成功がとても難しいという残酷な真実を示しています。

 

 それでも僕たちは、ダイエットに挑みつづけなければなりません。

 

 では、リバウンドをせずに長期間のダイエットを成功させるためにはどうしたら良いのでしょうか?

 

 その方法のひとつが「運動」にあるのです。

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

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シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

シリーズ33:ダイエットを成功させたいなら「リバウンドのメカニズム」を知ってこう!

シリーズ34:ダイエットでリバウンドを防ぐなら「運動」をするべき科学的根拠

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シリーズ39:ダイエット後のリバウンドを防ぐ「筋トレの方法論」を知っておこう!

シリーズ40:ダイエットするなら「ゆっくり食べる」べき最新エビデンス

シリーズ41:筋トレによる筋肥大と除脂肪の効果を最大にする「プロテインの摂取パターン」を知っておこう!

 

 

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◆ 参考文献

Lieberman DE. The Story of the Human Body: Evolution, Health and Disease. New York, NY, Vintage Books, 2014

Wing RR, et al. Long-term weight loss maintenance. Am J Clin Nutr. 2005 Jul;82(1 Suppl):222S-225S.

Leibel RL, et al. Changes in energy expenditure resulting from altered body weight. N Engl J Med. 1995 Mar 9;332(10):621-8.

Pan WW, et al. Leptin and the maintenance of elevated body weight. Nat Rev Neurosci. 2018 Feb;19(2):95-105.

Murray S, et al. Hormonal and neural mechanisms of food reward, eating behaviour and obesity. Nat Rev Endocrinol. 2014 Sep;10(9):540-52.

Volkow ND, et al. The dopamine motive system: implications for drug and food addiction. Nat Rev Neurosci. 2017 Nov 16;18(12):741-752.

Muller MJ, et al. Adaptive thermogenesis with weight loss in humans. Obesity (Silver Spring) 2013;21:218–28.
Greenway FL, et al.  Physiological adaptations to weight loss and factors favouring weight regain. Int J Obes (Lond). 2015 Aug;39(8):1188-96. doi: 10.1038/ijo.2015.59.

Fothergill E, et al. Persistent metabolic adaptation 6 years after "The Biggest Loser" competition. Obesity (Silver Spring). 2016;24(8):1612-1619.

Weigle DS, et al.  Assessment of energy expenditure in ambulatory reduced-obese subjects by the techniques of weight stabilization and exogenous weight replacement. Int J Obes. 1990;14 Suppl 1:69-77;discussion 77-81.