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「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう


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 「朝食を食べないと太りやすい」

 

 「だから、ダイエットしたいなら朝食をしっかり食べよう!」

 

 これまで「朝食を食べない=太る」ということが”常識”とされていました。そのため、肥満の予防やダイエットをするなら朝食をしっかり食べることが推奨されてきたのです。

 

 しかし、2019年、この常識を覆す研究結果が報告されました。

 

 報告したモナッシュ大学のSievertらは、こう言います。

 

 「朝食を食べなくても太ることはない」

 

 今回は、朝食についての新しい常識を示した最新の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents



◆ 朝食を食べないと太るメカニズム

 

 「朝食を食べないと太る」

 

 なぜ、このように言われるのかというと、そこには朝食と体重の関係を示す科学的根拠(エビデンス)があるからです。

 

 これまでに報告された観察研究では、朝食を食べないと肥満度を示す体格指数(BMI)が増加すること(Song WO, 2005)、朝食を食べていると体重の増加リスクが低下すること(van der Heijden AA, 2007)が報告されています。さらに、1.9万人を対象にした大規模な観察研究においも、朝食を食べていると体格指数が低い傾向にあることが報告されています(O'Neil CE, 2014)。

 

 このようなエビデンスの積み重ねにより、「朝食を食べないと太りやすい」ということが常識として言われるようになったのです。

 

 では、なぜ朝食を食べないと太るのでしょうか?

 

 まずは、そのメカニズムを見ていきましょう。

 

 朝食を食べないと太る理由として挙げられているのが「1日の総エネルギー摂取量が多くなる」というものです。朝食と1日の摂取量を調査した研究では、朝食を食べないことにより、その後の昼食、夕食の摂取量が多くなりやすく、その結果、1日の食事による総エネルギー摂取量が多くなることが示唆されています(Garaulet M, 2014)。

 

 なぜ、朝食を食べないと1日のエネルギー摂取量が多くなるのかというと、朝食を食べない人は、食べる人よりも1日を通じての「満腹感が低い」ことが理由として挙げられています(de Castro JM, 2009)。

 

 つまり、朝食を食べないと満腹感が低い状態が続き、昼食や夕食を多く食べてしまうため、1日の総エネルギー摂取量が増え、太りやすくなるのです。

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 これが朝食を食べないと太るメカニズムとされています。

 

 しかし、モナッシュ大学のSievertらは、これらの知見に真っ向から疑義を唱えています。

 

 「朝食を食べなくても太らない!」

 

 「朝食を食べなくても1日の総摂取量は増えない!」

 

 「朝食を食べなくても満腹感は低下しない!」



◆ Sievertらが疑義を唱えた理由

 

 なぜ、Sievertらは疑義を唱えたのかというと、その理由が「エビデンスのレベル」にあります。これまでに報告された研究結果は、エビデンスのレベルが高くない「観察研究」にもとづいていたからです。

 

 とくに、これまでの観察研究では、対象者の社会経済的な背景が考慮されていませんでした。経済的に豊かな高所得者は、健康に注意するため朝食を食べることが多く、アルコール摂取が少ない健康的なライフスタイルを好みます(Vereecken C, 2009)。反対に経済的に乏しい低・中所得者は、朝食を食べることが少なく、肥満であり栄養不良である傾向が高く、不健康的なライフスタイルであることが示唆されています(Popkin BM, 2012)。

 

 このような背景が意味することは、朝食を食べないから太りやすいのではなく、「朝食を食べない人は、もともと健康意識が低く、肥満傾向である」ということです。朝食を食べるor食べないは、直接的には体重に関与していない可能性があるのです。

 

 このような背景を統制して、エビデンスレベルの高い結果を示す研究方法がランダム化比較試験(RCT)です。

 

 実際、高所得者を対象にしたランダム化比較試験では、まったく正反対の結果が示され、朝食を食べることは「体重を減少させるのではなく、逆に増加させる」ことが示唆されていました(LeCheminant GM, 2017)。

 

 そこで、Sievertらは、これまでに報告されたランダム化比較試験をまとめて解析するメタアナリシスを行うことによって、朝食と体重の関係を検証したのです。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。



◆ 常識を覆すメタアナリシスの結果

 

 Sievertらは、2018年までに報告され、高所得者のみを対象とした13の研究結果をもとにメタアナリシスを行いました。含まれる研究報告はアメリカとイギリスのほかに日本も含まれています。また、体型は普通から肥満まであらゆる体型が含まれていました。

 

 朝食と体重の関係について、7つの研究結果を解析したところ、その結果は驚くべきものでした。

 

 「朝食を食べなくても、食べても体重に変わりない」

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Fig.1:Sievert K, 2019より筆者作成

 

 この結果は、もともとの体型が影響する可能性があるため、体重による調整を行ったあとでも同様の結果になっています。

 

 さらに、朝食と1日の食事の摂取量について、10の研究結果を解析したところ、この結果も驚くべきものでした。

 

 「朝食を食べなくても1日の総エネルギー摂取量は増えない」

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Fig.2:Sievert K, 2019より筆者作成

 

 この結果についても体重による調整を行っていますが、結果は変わりませんでした。

 

 Sievertらは、これらの結果を以下のようにまとめています。

 

・朝食を食べなくても太らない。

・朝食を食べなくても1日の食事のエネルギー摂取量は増えない。

 

 さらに、メタアナリシスに含まれていた朝食の摂取とホルモンについて検証したほどんどの研究結果では、朝食を食べなくても食欲を増加させるホルモンであるレプチン、グレリンなどの分泌に影響がないことが示されました。

 

 ここからわかることは、朝食を食べなくても「1日の満腹感は低下しない」ということです。

 

 これまでは、「朝食を食べない→1日の満腹感が低下しやすい→1日の総エネルギー摂取量が増える→太る」と考えられてきました。

 

 しかし、Sievertらのメタアナリシスにより、これとはまったく逆の結果が示されたのです。

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 さらに、習慣的に朝食を食べていないものが、ダイエットしたいからと言って朝食を食べるようになると、1日の総エネルギー摂取量が増えてしまい、逆に体重が増える可能性も示唆されています。

 

 これらのことから、Sievertらは、ダイエット目的で朝食を推奨するのは、効果がないだけでなく、逆効果になる可能性があり、注意が必要であると述べています。

 

 Sievertらのメタアナリシスは、異質性(研究間の結果のバラツキ)が高く、研究の調査期間が最大16週間と短いため、結果の解釈には慎重になるべきでしょう。今後、さらに質の高いランダム化比較試験が報告されたのちに、改めてメタアナリシスを行うことが必要と思われます。また、今回は高所得者が対象となっていましたが、中・低所得者を対象とした検証も行うべきでしょう。

 

 1917年に雑誌「Good Health」で朝食の重要性が示唆されて以来、多くのメディアで朝食を食べないと太るということが提唱され”常識”とされてきました。

 

 Sievertらの報告は、少なくともダイエットのために朝食を食べることに確証がないことを示唆する重要な知見になります。ダイエットをするのであれば、朝食を食べるよりも他の方法を検討しても良いかもしれませんね。

 

 尚、この結果は大人を対象にしたものであり、成長期の子供は朝食を食べることが推奨されていることを強調しておきます(Rampersaud GC, 2005)。

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

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シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 

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◆ 参考文献

Sievert K, et al. Effect of breakfast on weight and energy intake: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2019 Jan 30;364:l42.

Song WO, et al. Is consumption of breakfast associated with body mass index in US adults? J Am Diet Assoc. 2005 Sep;105(9):1373-82.

van der Heijden AA, et al. A prospective study of breakfast consumption and weight gain among U.S. men. Obesity (Silver Spring). 2007 Oct;15(10):2463-9.

O'Neil CE, et al. Nutrient intake, diet quality, and weight/adiposity parameters in breakfast patterns compared with no breakfast in adults: National Health and Nutrition Examination Survey 2001-2008. J Acad Nutr Diet. 2014 Dec;114(12 Suppl):S27-43.

Garaulet M, et al. Timing of food intake and obesity: a novel association. Physiol Behav. 2014 Jul;134:44-50.

de Castro JM, et al. When, how much and what foods are eaten are related to total daily food intake. Br J Nutr. 2009 Oct;102(8):1228-37.

Vereecken C, et al. Breakfast consumption and its socio-demographic and lifestyle correlates in schoolchildren in 41 countries participating in the HBSC study. Int J Public Health. 2009 Sep;54

Popkin BM, et al. Global nutrition transition and the pandemic of obesity in developing countries. Nutr Rev. 2012 Jan;70(1):3-21.

LeCheminant GM, et al. A randomized controlled trial to study the effects of breakfast on energy intake, physical activity, and body fat in women who are nonhabitual breakfast eaters. Appetite. 2017 May 1;112:44-51.

Good Health Magazine Battle Creek Sanitarium January 1917 Edition Vol LII No.1

Rampersaud GC, et al. Breakfast habits, nutritional status, body weight, and academic performance in children and adolescents. J Am Diet Assoc. 2005 May;105(5):743-60; quiz 761-2.