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ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】


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 「ダイエットが続きません…」

 

 ダイエットをしようと思っていても、ついつい食べ過ぎてしまったり、間食をしてしまうことがありますよね。しかし、それは「意志が弱い」ということなのでしょうか?

 

 現代の睡眠医学は、ダイエットが続かない理由は他にもあるといいます。

 

 それが「睡眠不足」です。

 

 最新の睡眠医学の報告では、睡眠不足が食欲の増進や体重の増加に寄与するという科学的根拠(エビデンス)が示されているのです。

 

 今回は、睡眠不足が体重を増加させるエビデンスと、そのメカニズムについての最新の研究報告をご紹介しましょう。

 

 

 

 

◆ 睡眠不足だと太る?太らない?

 

 これまでにも睡眠不足が食欲や1日のエネルギー摂取量、体重を増やすという研究結果が報告されていました。しかし、一方で増やさないという否定的な研究結果も報告されており、議論が続いていたのです。そして、この議論に最初の答えを示したのがアメリカ・アラバマ大学のCapersらが報告したメタアナリシスです。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 2015年、Capersらは、4つのランダム化比較試験(RCT)を含む18の研究報告をまとめて解析した結果、睡眠不足による体重の有意な増加は示されませんでした。つまり「睡眠不足でも太ることはない」ということが示唆されたのです(Capers PL, 2015)。

 

 しかし、Capersらのメタアナリシスは、もとにした研究報告の質が低く、研究結果のバラツキも多く(異質性が高い)、エビデンスレベルの高いダンダム化比較試験の報告が4つのみであることから、その結果には疑義の声が挙がっていました。

 

 これに対して、睡眠不足は1日のエネルギー摂取量を増加させるというエビデンスを示したのが大分大学のItaniらです。

 

 2017年、Itaniらは睡眠不足と1日の摂取エネルギー量について検証した7のランダム化比較試験を含む17の研究報告をまとめたメタアナリシスを行いました。

 

 通常の睡眠時間の1/3程度を睡眠不足として、介入期間は平均1週間、最大で2週間でした。睡眠不足は就寝の時間を遅らせることで調整しています。

 

 その結果、睡眠不足では、1日のエネルギー摂取量が「384kcal」増えることが示されたのです。

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Fig.1:Itani O, 2017より筆者作成

 

 また、1日のエネルギー消費量も解析してみましたが、睡眠不足と通常の睡眠時間との間に有意な差はありませんでした。

 

 これらの結果から、睡眠不足では、エネルギーの消費量が変わらないにも関わらず、エネルギーの摂取量が増えるため、エネルギー量がプラスとなり、長期的に体重の増加に寄与することが示唆されたのです(Itani O, 2017)。

 

 Itaniらのメタアナリシスの結果は、研究間のバラツキもなく(異質性が低い)、7つのランダム化比較試験を含んでいることから、質の高いものと解釈されます。

 

 しかしながら、睡眠不足は体重を増やさないというCapersらの結果と、睡眠不足は1日のエネルギー摂取量を増やすというItaniらの結果は矛盾しており、議論は平行線のままでした。

 

 そして、この議論に答えを示したのが中国・上海交通大学のZhuらによる最新のメタアナリシスです。



◆ 睡眠不足は体重を増やす科学的根拠

 

 僕たちが太ってしまうのは、食欲が旺盛になって、食事量が増えたり間食してしまい、1日のエネルギー摂取量が増加してしまうからです。

 

 では、睡眠不足は本当に食欲を増進させ、1日のエネルギー摂取量を増やし、体重を増加させるのでしょうか?

 

 この疑問にすべて答えたのが中国・上海交通大学のZhuらです。

 

 2019年、Zhuらは睡眠不足と食欲、エネルギー摂取量、体重などを検証した41のランダム化比較試験をまとめて解析したメタアナリシスを行いました。

 

 サンプルの年齢は20〜40歳台であり、睡眠不足は3.5〜5.5時間として、1〜14日間の期間で検証されました。これらの検証結果をもとに、睡眠不足による食欲(空腹感)、1日のエネルギー摂取量、体重、さらには脳活動への影響を解析しました。

 

 では、食欲への影響から見ていきましょう。

 

 睡眠不足による食欲(空腹感)への影響は、15の研究結果から解析され、通常の睡眠時間に比べて睡眠不足では、食欲が有意に高まることが示されました。

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Fig.2:Zhu B, 2019より筆者作成

 

 食欲は主にレプチンやグレリンといった食欲調整ホルモンによってコントロールされています。レプチンは、脂肪細胞によって分泌され、脳にある視床下部に働いて食欲を抑えています。一方、グレリンは胃から分泌され、同じく視床下部に働いて食欲を増進させます。食欲は主にこの2つのホルモンのバランスによって調整されています。

 

 そこでZhuらは、睡眠不足によるレプチンとグレリンの分泌量の変化を解析しました。睡眠不足によって食欲が高まるのであれば、それを調整するホルモンのバランスも変化すると考えたのです。

 

 しかし、その結果は予想を反し、睡眠不足による食欲調整ホルモンの分泌量は、通常の分泌量と有意な差はありませんでした。睡眠不足による食欲調整ホルモンへの影響は認められなかったのです。

 

 これに対して、睡眠不足による脳活動への影響では、5つの研究報告を解析した結果、睡眠不足は脳の報酬系である扁桃体視床下部の活性を強めることが示唆されました。

 

 「もっと食べたい」という欲求は、脳の報酬系の活性化が寄与していることが報告されています。報酬系が活性化すると視床下部にある摂食中枢を刺激し、食欲が増進することが示唆されています(Rihm JS, 2019)。

 

 睡眠不足は、この報酬系を活性化することによって「もっと食べたい」という欲求を高め、食欲を増進させた可能性があると推察されています。また、睡眠不足が認知に関わる脳活動を弱めることも示されており(Killgore WD, 2006)、睡眠不足が食欲を制御する意志力を低下させることも示唆されています。

 

 次に、1日のエネルギー摂取量への影響です。

 

 睡眠不足と1日のエネルギー摂取量への影響については、11の研究結果をもとに解析されました。その結果、睡眠不足は通常の睡眠時間に比べて、1日のエネルギー摂取量が「252.8kcal」増えることが示されました。

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Fig.3:Zhu B, 2019より筆者作成

 

 この摂取量の増加は、1食あたりの摂取量が変化していないことから、間食によるものだと推測されています。Zhuらは、睡眠不足は間食を誘発することによって1日のエネルギー摂取量を増加させる可能性があると述べています。またエネルギー消費量については、もととなる研究における調査方法がバラバラなため解析されませんでした。

 

 最後に、睡眠不足による体重への影響については、9の研究報告をもとにして解析されています。その結果は、睡眠不足では0.34kgと少ない量ですが有意に体重が増加することが示されました。

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Fig.4:Zhu B, 2019より筆者作成

 

 Zhuらは、2週間以内の調査期間における0.34kgの体重増加は、長期には肥満につながると指摘しています。

 

 これらの結果から、Zhuらは睡眠不足は、食欲を高め、間食による1日のエネルギー摂取量が増えることにより体重が増加すると考察しています。また、睡眠不足による食欲の増進には、これまでレプチンやグレリンといった食欲調整ホルモンが関係しているとされてきましたが、Zhuらは脳の報酬系が関与している可能性が高いとしています。

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 Zhuらのメタアナリシスは、睡眠不足によって体重が増加するエビデンスを示すとともに、そのメカニズムまでも明らかにする価値ある報告です。食欲に関する解析結果では異質性が高くなりましたが、その他の解析では、異質性も低く、もととなる研究報告の質も高いものとなっています。

 

 Zhuらの報告は、睡眠不足が食欲を増進させ、エネルギー摂取量を増やすことにって体重を増加させる現時点でのエビデンスを示しているのです。

 

 このエビデンスをもとにダイエットについて考えてみると、ダイエットが続かない理由は、意思の弱さではなく「寝不足」にあるのかもしれません。

 

 ダイエットが続かないときは、食事や運動よりも、まずは「よく寝る」ことから取り組んでみても良いでしょう。アメリカ国立睡眠財団(National Sleep Foundation)は成人の最適な睡眠時間として「7〜9時間」を推奨しています。

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How Much Sleep Do We Really Need?-National Sleep Foundation」より引用

 

 もちろん個人差はありますが、まずは「7時間」を目安にして、しっかり寝ることから始めてみましょう。ダイエットでも筋トレでも睡眠が基本になります。

 『睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス

シリーズ3:テレビをつけたまま寝ると太る最新エビデンス

シリーズ4:コーヒーにはダイエット効果がある?【最新エビデンス】

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シリーズ8:ソイ・プロテインなどの大豆食品によるダイエット効果の最新エビデンス

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シリーズ10:ダイエットをすると頭が良くなる最新エビデンス【科学的に正しい自己啓発法】

シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】

シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

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シリーズ15:タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!

シリーズ16:寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス

シリーズ17:ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

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シリーズ29:乳製品がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ30:タンパク質がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ31:週末に寝だめをしても睡眠不足による食欲の増加は防げない!

シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 

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◆ 参考文献

Capers PL, et al. A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials of the impact of sleep duration on adiposity and components of energy balance. Obes Rev. 2015 Sep;16(9):771-82.

Itani O, et al. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017 Apr;32:246-256.

Zhu B, et al. Effects of sleep restriction on metabolism-related parameters in healthy adults: A comprehensive review and meta-analysis of randomized controlled trials. Sleep Med Rev. 2019 Feb 10;45:18-30.

Rihm JS, et al. Sleep Deprivation Selectively Upregulates an Amygdala-Hypothalamic Circuit Involved in Food Reward. J Neurosci. 2019 Jan 30;39(5):888-899.

Killgore WD, et al. Impaired decision making following 49 h of sleep deprivation. J Sleep Res. 2006 Mar;15(1):7-13.