筋トレで効果的に筋肉を大きくする(筋肥大させる)ためにはどうしたら良いのでしょうか?
この問に現代のスポーツ科学はこう答えています。
「週単位の総負荷量を高めよう」
総負荷量とは、トレーニングの強度(重量)と回数、それにセット数をかけ合わせた総量(Total volume)のことを言います。
総負荷量 = トレーニング強度(重量)× 回数 × セット数
これまで筋肥大の効果は、最大筋力(1回持ち上げられる最大の重量)の70%以上で行う高強度トレーニングがもっとも効果的だとされてきました。しかし、近年では筋肥大の効果は強度ではなく、回数やセット数をかけ合わせた「総負荷量」によって決まることが示唆されています。
『筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる』
これが筋肥大の効果は「バーベルの重さでは決まらない」といわれる理由です。
さらに、筋肥大の効果は1回のトレーニングによる総負荷量ではなく、週単位の総負荷量によって決まることも示唆されています。つまり、トレーニングを週に1回行っても、3回行っても、週単位の総負荷量が同じであれば、筋肥大の効果も同じになるのです。
『筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】』
これが筋肥大の効果を高めたいなら「週単位の総負荷量を高めよう」といわれる理由です。
しかし、近年では、週単位の総負荷量を過度に増やすと筋肥大の効果を損ねる可能性が示唆されるようになりました。そして2019年の最新のレビューでは、週単位のセット数の上限が示されています。
今回は、筋肥大の効果を減少させる可能性がある週単位のセット数について、最新の研究報告をご紹介しましょう。
◆ 筋肥大の効果を最大化する週単位のセット数
トレーニングの総負荷量は、トレーニング強度と回数、セット数の3つをかけ合わせたものですが、この中でもっとも総負荷量に影響を与えるのが「セット数」です。
例えば、10kgのバーベルでアームカールを20回、1セット行うと、総負荷量は10×20×1で200kgになります。これが2セットだと400kg(10×20×2)、さらに3セットだと600kg(10×20×3)になります。このようにセット数を増やすことは、総負荷量の増大につながるのです。
では、筋肥大に効果的な週単位のセット数は何セットなのでしょうか?
この問に科学的根拠(エビデンス)を示したのがアメリカ・ニューヨーク市立大学のSchoenfeldらです。
2017年、Schoenfeldらは週単位のセット数と筋肥大の効果について検証した15の研究報告をもとに解析したメタアナリシスを報告しました。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
週単位のセット数を5セット未満、5〜9セット、10セット、9セット未満、9セットの5つに分けて解析した結果、すべてのセット数で筋肥大の効果が認められ、またセット数が増えるごとに、筋肥大の効果が高まることが示されました。これは週単位のセット数を増やせば増やすほど筋肥大の効果が高まることを示唆しています。
Fig.1:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成
さらに5つの週のセット数を比べた結果、10セットがもっとも効果が高く、ついで9セットが高いことが示されました。
Fig.2:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成
この結果から、Schoenfeldらは、筋肥大の効果を最大化する週単位のセット数は「9〜10セット」を目安にすることを推奨しています(Schoenfeld BJ, 2017)。
しかしながら、Schoenfeldらのメタアナリシスでは、週に10セット以上のセット数(15セットや20セット)による効果については述べられていません。筋肥大の効果にセット数による用量依存的効果(セット数が多ければ多いほど効果がある)があるのであれば、10セット以上行えばさらなる効果が得られるのでしょうか?
この疑問について、近年の報告をまとめた最新のレビューは、ひとつの答えを導き出しています。
◆ 週の過度なセット数は筋肥大の効果を減少させる?
2007年、トレーニングによる筋肥大の効果を高めるための強度(重量)や回数、セット数についてまとめたレビューが報告され、世界で初めてトレーニングの負荷量と筋肥大の効果には「逆U字型」の関係があることが示唆されました。
トレーニングの総負荷量(総回数)が増えるほど、筋肥大の効果は右上がりに増加しますが、あるポイントを超えると、右肩下がりに減少する傾向が認められたのです。
Fig.3:Wernbom M, 2007より筆者作成
このような結果から、トレーニングの総負荷量を過剰に増やすことは、筋肥大の効果を逆に減少させる可能性が示唆されたのです(Wernbom M, 2007)。
そして、近年では、これを支持する研究結果が報告されるようになりました。
2016年の週単位のセット数による筋肥大の効果を検証した研究報告では、トレーニング経験のある男性を対象にして、週15セット行うグループと週30セット行うグループに分け、6週間のトレーニングによる筋肥大の効果を検証しました。
その結果、全身の筋肉量では週15セットのグループが週30セットのグループよりも有意に増加を示し、とくに脚よりも体幹、腕の筋肉量の増加に有意差が認めれらました。
この結果から、週15セットを超えるトレーニング量は筋肥大の効果を高めないことが示唆されました(Amirthalingam T, 2016)。
さらに、2019年に報告された週単位のセット数による筋肥大の効果を検証した研究報告においても同様の結果が示されています。
トレーニング経験のある女性を対象にして、1週間に5セット、10セット、15セット、20セットを行うグループに分け、24週間のトレーニングの実施による筋肥大の効果が検証されました。
その結果、上腕二頭筋、上腕三頭筋、大胸筋、大腿四頭筋、および大殿筋のすべてのグループで筋肥大の効果が認められました。しかしながら、すべての部位で5セットと10セットのグループは、15セットと20セットのグループよりも筋肥大の効果が高かいことが示されました。それどころか、15セットや20セットのグループでは筋肥大の効果の減少が認められたのです(Barbalho M, 2019)。
Fig.4:Barbalho M, 2019より筆者作成
これは、週単位のセット数を増やしすぎると筋肥大の効果が減少するという「逆U字型」の関係を支持する結果になります。週に15セットを超えるセット数では、筋肥大の効果が減少する可能性があるのです。
では、なぜ週単位のセット数を増やし、過度に総負荷量が高まると筋肥大の効果は低減してしまうのでしょうか?
◆ 週単位のセット数の上限を知っておこう
この問に名古屋工業大学のOgasawaraらは、動物実験をもとに解明を試みました。
筋肥大は筋肉のもととなる筋タンパク質の合成量が分解量を上回ることによって生じます。筋タンパク質の合成のカギになるのが「哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)」です。筋肉の収縮による刺激がmTORを活性化すると、下流にある「p70S6キナーゼ」の活性化が促され、筋タンパク質の合成が促進されます。このような過程を経て、筋タンパク質の合成量が分解量を上回ることによって筋肥大が生じるのです。
Ogasawaraらは過度な総負荷量はp70S6キナーゼの活性化に影響を与えると推測して動物実験を行いました。ラットに過度な総負荷量のトレーニングを行わせ、その前後でp70S6キナーゼと筋タンパク質の合成量を計測しました。その結果、総負荷量があるポイントまで増大すると筋タンパク質の合成量の増加はプラトー(それ以上増加しない)に達しましたが、p70S6キナーゼは増加を続けました。
この結果から、負荷量を過度に増やすと筋タンパク質の合成量がプラトーになることは示唆されましたが、p70S6キナーゼの関与は否定されたのです。
現時点では、週単位のセット数を増やし、過度に総負荷量を高めると、筋タンパク質の合成量がプラトーになることから筋肥大の効果が見込めないと推察されていますが、それ以上のさらなるメカニズムの解明は今後の課題となっています。
そして、これらの研究結果をもとに、2019年、カナダ・マクマスター大学のRobertらは、トレーニングによる筋肥大に効果についてまとめた最新のレビューにおいて、効果的な週単位のセット数についてこう結論づけています(Robert WM, 2019)。
「週単位のセット数は、10セットを目安に、15セット未満に留めること」
Robertらは、筋肥大の効果は「週10セット」で最大化され、それ以上はプラトーとなるだけでなく、「週15セット」を超える総負荷量は、筋肥大の効果を減少させる可能性があると述べています。
個人的には、効果的なセット数とされる「週10セット」や、上限とされる「週15セット」は現実的ではないと捉えています。1回3セット以上のトレーニングを週3回行うことは、疲労の側面からも、時間的な側面からも難しいでしょう。Schoenfeldらのメタアナリシスでは、週5セット以上でも筋肥大の効果を認めることから、疲労や時間を考慮しながらセット数を調整しても良いと思われます。
しかしながら、メカニズムやエビデンスも不十分ではありますが、総負荷量と筋肥大の効果には「逆U字型」の関係があるという知見は、無理をしてオーバートレーニングをしてしまうときの良い気づきになります。トレーニングで追い込むことも大切ですが、過度な負荷は悪影響があることに注意していきましょう。
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シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由
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シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう
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シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう
シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス
シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版)
シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
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◆ 参考文献
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Wernbom M, et al. The influence of frequency, intensity, volume and mode of strength training on whole muscle cross-sectional area in humans. Sports Med. 2007;37(3):225-64.
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