マリオはきのこを食べるとパワーアップします。ポパイはほうれん草を食べるとパワーアップします。これと同じように、筋トレの効果やパフォーマンスをアップさせるサプリメントがあります。このようなサプリメントを「エルゴジェニック・エイド」といいます。
筋トレのエルゴジェニック・エイドには、クレアチンやカフェイン、HMBなどがあり、近年では、これらの科学的根拠(エビデンス)が報告されるようになりました。例えばHMBは、これまでトレーニングの効果やパフォーマンスを高めるとされてきましたが、最新の報告では、その効果がトレーニング未経験者や初心者に限定されることが示されています。
2018年には、トレーニングに関する30種類ほどのエルゴジェニック・エイドのエビデンスをまとめたレビューが国際スポーツ栄養学会(ISSN)から報告されました(Kerksick CM, 2018)。そこには、これまでに効果があるとされていたサプリメントが、実は効果が乏しいカテゴリーに分類されたりと、驚くべき内容が記されていました。
『筋トレするなら知っておきたいサプリメントの最新エビデンスまとめ』
Fig.1:Kerksick CM, 2018より筆者作成
そして、このレビューで「限定的な効果がある」というエビデンスBのカテゴリーに分類されたのが「シトルリン」です。
シトルリンは、トレーニングのパフォーマンスを高めるエルゴジェニック・エイドとされていますが、高いエビデンスレベルを示すメタアナリシスなどによる解析は行われていませんでした。そのため、その効果は限定的であるというエビデンスBにとどまっていたのです。そして2019年、世界で初めてシトルリンの効果について解析したメタアナリシスが報告されたのです。
*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。
今回は、シトルリンが筋トレのパフォーマンスに与える影響についての最新エビデンスをご紹介します。最新の知見をキャッチアップしておきましょう。
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◆ シトルリンは血流量を増加させる
シトルリンの主な効果として挙げられているのが「一酸化窒素(NO)の生成」とそれにともなう「血流量の増加」です。
僕たちの血管はいつも収縮と拡張を繰り返しています。緊張したりすると血管は収縮します。眠くなると血管は拡張します。この血管の拡張に作用しているのが「一酸化窒素」です。
血管の壁は3層構造になっており、内側に内皮細胞があります。内皮細胞は血管を拡げる役割を担っています。一酸化窒素は、内皮細胞を活性化させ、血管を拡張するスイッチの役割を担っています。
シトルリンは同じくエルゴジェニック・エイドのひとつであるアルギニンの前駆体です。アルギニンが一酸化窒素の生成すると同時にシトルリンが生成されます。生成されたシトルリンは再度、アルギニンとなって一酸化窒素の生成に役立てられます。このようなサイクルを「一酸化窒素サイクル」といい、このサイクルによって、血管の拡張が繰り返し行われているのです。
このように書くと、シトルリンよりもアルギニンを摂取したほうが一酸化窒素の生成されるのでは?と考えられますが、シトルリンはアルギニンよりも一酸化窒素の生成効果が高いことが示唆されています(Schwedhelm E, 2008)。
これは消化吸収の違いから説明できます。アルギニンをサプリメントとして摂取すると、腸や肝臓でアルギナーゼ酵素の活性により利用可能率が低下します。これに対して、シトルリンは酵素の影響を受けないため、高い利用可能率を保ったまま吸収されます。このような消化吸収の違いから、シトルリンはアルギニンよりも一酸化窒素の生成効果が高くなるのです。
さらに近年では、シトルリン摂取によるミトコンドリア呼吸、筋小胞体におけるカルシウム処理、グルコース取り込みを促進する効果が報告されています(Bailey SJ, 2011)。
このようなシトルリンの作用がトレーニング時の疲労物質の排除などを促進し、トレーニングのパフォーマンスを高めるとされているのです。
◆ シトルリンは筋トレのパフォーマンスを向上させるのか?
世界ではじめて筋トレに対するシトルリンの効果を検証したのが、スペイン・コルドバ大学のPérez-Guisadoらです。2011年、Pérez-Guisadoらは、シトルリンマレートを摂取することにより、ベンチプレスの回数が有意に増加したことを報告しました(Pérez-Guisado J, 2011)。
この報告を皮切りに、10年間でいくつかのシトルリンの効果についての研究報告が行われてきました。しかしながら、その結果は効果の有無が混在したものだったのです。
2015年、ミシシッピ州立大学のWaxらは、トレーニング経験者を対象に、下半身のトレーニング(レッグプレス、レッグエクステンション)に対するシトルリンマレートによる効果を検証しました。その結果、プラセボに比べてレッグプレス、レッグエクステンションともに運動回数が有意に増加することを報告しています(Wax B, 2015)。
Fig.2:Wax B, 2015より筆者作成
その後も、シトルリンがトレーニングのパフォーマンスを高めるという結果は、アーカンソー大学のGlennらの研究報告からも支持されました(Glenn JM, 2017)。
これに対して、2018年、シェフィールド・ハラム大学のChappellらは、活動的な被験者を対象に、レッグエクステンションに対するシトルリンマレートの効果を検証しました。被験者は、シトルリンマレートを摂取した後、レッグエクステンションをGVT(ジャーマン・ボリューム・トレーニング)のプロトコル(1RM70%の強度で10回10セット)に準じて行いました。
その結果、シトルリンマレートを摂取したグループとプラセボを摂取したグループにレッグエクステンションの運動回数の有意な差は認められませんでした。
Fig.3:Chappell AJ, 2018より筆者作成
このように、シトルリンの摂取によるトレーニング・パフォーマンスの向上効果にはポジティブな結果が多く報告されていますが、ネガティブな報告も存在しているのです。このような背景から、国際スポーツ栄養学会は、シトルリンをトレーニングのパフォーマンスを向上させる限定的な効果を示すエビデンスBに分類しました。
そして2019年、世界ではじめてトレーニングに対するシトルリンの効果のエビデンスを検証したメタアナリシスが報告されたのです。
◆ 世界初のメタアナリシス
2019年、ノースカロライナ大学のTrexlerらは、これまでにトレーニングに対するシトルリンの効果を検証した12の研究報告をもとに解析をおこないました。
198名の若年者(20〜30歳)の男女を被験者として、平均8g(6〜12g)のシトルリンマレートをトレーニングの60分前に摂取しています。その後のトレーニングのパフォーマンスへの効果を検証した結果、高強度のパフォーマンスを増加させる効果(SMD=0.20)が認められました。
Fig.4:Trexler ET, 2019より筆者作成
サブグループ解析では、シトルリンマレートによる性別、年齢などの影響が調査されましたが、対象の研究数が少ないことから精度の高い結果を得ることができませんでした。
これらの結果から、Trexlerらは、シトルリンマレートの摂取は高強度のトレーニングパフォーマンスを高める効果が得られることを示唆しています。しかしながら、効果的なシトルリンサプリメントの形態や用量、性別、年齢などの解析は今後の課題になると述べています。
Trexlerらのメタアナリシスは、異質性(研究間のバラツキ)が低く、ポジティブな研究結果だけでなく、ネガティブな研究結果も解析対象にしていることからバイアス(データの偏り)も管理されています。しかしながら、得られたシトルリンの効果量は低く(SMD=0.20)、サブグループ解析も不十分なため、今後のさらなる検証が必要でしょう。
また、多くの研究では、シトルリンにリンゴ酸を混合させたシトルリンマレートという形態で摂取しています。リンゴ酸はトレーニングのエネルギーとなるアデノシン三リン酸(ATP)を再合成するクレアチンリン酸の生成を促進します(Bendahan D, 2002)。そのため、リンゴ酸を摂取したことによるATPの再合成作用がトレーニングのパフォーマンス向上に寄与した可能性も排除できません。
現時点では「シトルリンをシトルリンマレートの形態で摂取した場合に、小さい効果ですが高強度トレーニングのパフォーマンスを高める可能性がある」という科学的根拠が示されたことになります。
高強度トレーニングを行っているのであれば、一度、シトルリン(シトルリンマレート)の効果を試してみても良いかもしれませんね。
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シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
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シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
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シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
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◆ 参考論文
Kerksick CM, et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. J Int Soc Sports Nutr. 2018 Aug 1;15(1):38.
Bailey SJ, et al. The nitrate-nitrite-nitric oxide pathway: its role in human exercise physiology. Eur J Sport Sci. 2011;12(4):309–20.
Pérez-Guisado J, et al. Citrulline malate enhances athletic anaerobic performance and relieves muscle soreness. J Strength Cond Res. 2010 May;24(5):1215-22.
Wax B, et al. Effects of supplemental citrulline malate ingestion during repeated bouts of lower-body exercise in advanced weightlifters. J Strength Cond Res. 2015 Mar;29(3):786-92.
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Chappell AJ, et al. Citrulline malate supplementation does not improve German Volume Training performance or reduce muscle soreness in moderately trained males and females. J Int Soc Sports Nutr. 2018 Aug 10;15(1):42.
Trexler ET, et al. Acute Effects of Citrulline Supplementation on High-Intensity Strength and Power Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2019 Mar 20.
Bendahan D, et al. Citrulline/malate promotes aerobic energy production in human exercising muscle. Br J Sports Med. 2002 Aug;36(4):282-9.