リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

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 「効果的な筋トレの負荷量は、最大負荷の70%以上の高負荷が望ましい」

 

 2009年、アメリカスポーツ医学会は公式声明でこのように唱えました(American College of Sports Medicine. 2009)。

 

 しかし、この頃から、運動生理学やスポーツ栄養学の分野では、大きなパラダイム・シフトが起こっていました。筋肉のもととなる筋タンパク質の計測が可能となり、トレーニング効果を筋タンパク質の合成速度で判断できるようになったのです。

 

 このパラダイム・シフトが生み出したこたえは意外なものでした。

 

 「低負荷でも高負荷と同等か、それ以上のトレーニング効果が得られる」

 

 2009年、イギリス・ノッティンダム大学のKumarらによって、低負荷でも、運動回数を高めることで効果的なトレーニングが行えるという研究結果が報告されました(Kumar V, 2009)。

 

 さらに、翌年の2010年には、マクマスター大学のBurdらが最大負荷の30%の低負荷であっても運動回数を増すことで70%の高負荷よりもトレーニング効果が高くなる可能性を報告しています(Burd NA, 2010)。

 

 これらの報告は、低負荷でも運動回数を疲労困憊まで行うことによって、高負荷と同じようなトレーニング効果が得られるという、これまでの類型を破る知見として注目されました。

筋トレの効果を最大にする運動強度を知っておこう

筋トレの効果を最大にする運動強度の実践論

 

 そして、筋トレにおける「低負荷 vs 高負荷」論争の幕が開かれたのです。

 

Table of contents

 

 

◆ はじめてのメタアナリシスの結果は?

 

 高負荷を推奨する研究者たちの論拠は「サイズの原理」に依拠しています。

 

 筋力を発揮する際、サイズの小さい遅筋線維から動員され、最大筋力に近づくにしたがって、サイズの大きい速筋線維が動員されます。

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図:サイズの原理

 

 このようなサイズの原理によれば、サイズの大きい筋線維を動員するためには、高い負荷が必要であり、筋力トレーニングには高負荷が最適であるとされているのです。

 

 しかし、マクマスター大学のBurdらは、これに疑義を投げかけました。

 

 Burdらは、高負荷でなく、低負荷でも疲労困憊にまで運動回数を行えは、サイズの原理と同じように速筋線維の動員が生じることを明らかにしたのです(Burd NA, 2012)。

 

 30%の低負荷でも疲労困憊まで運動回数を高めることで速筋線維の動員が可能であることが示されています。

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Fig.1:Burd NA, 2012より筆者作成

 

 このような論争にひとつの答えを示したのが、2016年に報告されたメタアナリシスです。

 

 2016年、ニューヨーク市立大学のSchoenfeldらは、それまでに報告された9つの研究から最適なトレーニングの負荷量についてのメタアナリシスを初めて報告しました。

 

 その結果、トレーニング初心者は、低負荷でも最大筋力、筋肥大ともに効果的であることが示されました。また、トレーニング経験者においては、高負荷トレーニングが最大筋力、筋肥大の増大に効果的であることが推測されましたが、その優位性については研究数が少ないことから断定できませんでした。

 

 Schoenfeldらのメタアナリシスにより、低負荷でも効果的に最大筋力、筋肥大を増強させることが示されており、特にトレーニング初心者に最適であることがわかりました。しかし、トレーニング経験者に対する高負荷トレーニングの優位性については、さらなる知見の収集が必要だったのです。

 

 そして2017年8月、二回目のシステマティックレビューとメタアナリシスが報告されました。



◆ 二回目のメタアナリシスの結果は?

 

 2017年、オーストラリア・ビクトリア大学に移ったSchoenfeldらは二回目のメタアナリシスを報告しました。

 

 今回は、前回のメタアナリシスで課題となった統計力の低さを補うために、倍増の21件の研究報告をもとに分析を行いました。

 

 まずは、結果から推奨される負荷量の一覧を見てみましょう。

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Fig.2:Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成

 

 この結果から、トレーニングの最適な負荷量には、最大筋力や筋肥大など目的とする項目によって「特異性」があるという興味深い知見が示されました。

 

 最大筋力を高める効果的なトレーニングは、高負荷がもっとも最適であることが示されています。トレーニング初心者では低負荷でも高負荷でも最大筋力は増大します。また、筋肥大は、トレーニング経験を問わず高負荷、低負荷ともに効果的であることがわかりました。

 

 さらに、筋の収縮様式においては、筋肉の長さが変わらない等尺性筋力(アイソメトリック)では高負荷、低負荷ともに同じ効果が示されました。また、筋肉の収縮速度が一定である等速性筋力(アイソキネティック)では、トレーニング経験者は高負荷で増強し、トレーニング初心者では高負荷、低負荷に差はありませんでした。

 

 これらの結果をまとめると、トレーニング経験者が最大筋力を高めたい場合は、高負荷トレーニング一択となりますが、筋肥大が目的であれば、低負荷でも効果が期待できます。筋の収縮様式においては等尺性、等速性のどちらも高負荷トレーニングで効果が期待できますが、等尺性筋力においては低負荷でも良さそうです。

 

 トレーニング初心者は、最大筋力、筋肥大、筋の収縮様式に関わらず、どの項目でも低負荷トレーニングによって効果があります。最初は低負荷から初めて、徐々に高負荷に移行するのが適切でしょう。

 

 Schoenfeldらは、前回の課題であった統計力を高めた今回の結果から、概ね、トレーニングにおける運動負荷のガイドラインを示せたとのではないかと述べています(Schoenfeld BJ, 2017)。

 

 

 さて、これで筋トレにおける低負荷 vs 高負荷の論争に終止符が打たれるのでしょうか?

 

 今後も筋トレの負荷量についての知見が報告されしだい、本ブログでもキャッチアップしていきます。

 

 最後に、論文をご提供いただいたDr Brad J Schoenfeldに感謝を申し上げます。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

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シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

 

References

American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009 Mar;41(3):687-708.

Kumar V, et al. Age-related differences in the dose-response relationship of muscle protein synthesis to resistance exercise in young and old men. J Physiol. 2009 Jan 15;587(1):211-7.

Burd NA, et al. Resistance exercise volume affects myofibrillar protein synthesis and anabolic signalling molecule phosphorylation in young men. J Physiol. 2010 Aug 15;588(Pt 16):3119-30.

Burd NA, et al. Bigger weights may not beget bigger muscles: evidence from acute muscle protein synthetic responses after resistance exercise. Appl Physiol Nutr Metab. 2012 Jun;37(3):551-4.

Schoenfeld BJ, et al. Muscular adaptations in low- versus high-load resistance training: A meta-analysis. Eur J Sport Sci. 2016;16(1):1-10.

Schoenfeld BJ, et al. Strength and hypertrophy adaptations between low- versus high-load resistance training: A systematic review and meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Aug 22.