リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

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 スポーツ運動生理学の発展により、トレーニングの効果は総負荷量やセット数、セット間の休憩時間などの変数によって決まることが明らかになっています。

 

 トレーニング = 総負荷量 × セット数 × セット間の休憩時間 × トレーニング頻度 etc

筋力トレーニングの科学まとめ

 

 特に総負荷量は、トレーニング効果の決定的な要素(Key factor)とされています。総負荷量は運動強度と運動回数(レップ数)をかけ合わせることで算出されます。

 

 総負荷量 = 運動強度 × 運動回数(レップ数)

 

 近年のスポーツ運動生理学では、低い運動強度であっても、疲労困憊になるまで運動回数を増やし、総負荷量を高めることができれば高強度と同じか、それ以上のトレーニング効果を得られることが示されています。

筋トレの効果を最大にする運動強度について知っておこう

筋トレの効果を最大にする運動強度の実践論

 

 しかし、疲労に打ち勝ち、自分を追い込むことは容易ではありません。誰しもそこまで強くないからです。 

 

 では、ある栄養素を摂ることで疲れにくくなるとしたらどうでしょうか?

 

 トレーニング時の疲労を軽減できれば、いつもよりも運動回数を多く行うことができます。運動回数の増加は、総負荷量の増大につながり、トレーニング効果を最大化することができるのです。

 

 その栄養素が「ベータ(β)アラニン」です。

 

 今回は、現代のスポーツ栄養学でトピックスとされているβアラニンについて知識を深めていきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ βアラニンは運動能力を高める

 

 2006年、初めてヒトを対象にしたβアラニンの効果が報告され、2015年には国際スポーツ栄養学会(ISSN)によるβアラニンの効果についてまとめられたレビューが報告されました。また、2017年4月にはBJSMよりメタアナリシスが発表され、ここ10年間に報告されたβアラニンの研究成果が体系化されています。

 

 そこで得られたコンセンサスが「βアラニンは明らかに運動能力を高める」というものでした。

 

 現在では、プロスポーツ選手の半数以上がβアラニンを摂取しているという報告(Kelly VG, 2017)や、アメリカでは兵士の運動能力を高めるための軍事研究までもが進められています(Hoffman JR, 2014)。

 

 ここまで注目されているβアラニンですが、まだ情報が少ないため、適応とされるスポーツの種目が間違っていたり、スポーツ選手だけでなく、トレーナーにおいても不適切な使用方法を推奨していることが問題点として指摘されています。



◆ βアラニンのメカニズムを正しく知っておこう

 

 βアラニンの効果をシンプルにいうと「単位時間あたりの運動による疲労を軽減し、パフォーマンスを高める」ということです。

 

 ネットメディアやブログでは、βアラニンがマラソンやサッカーなどの長時間の運動パフォーマンスを高めると言われていますが、これは間違えといって良いでしょう。また、100m走などの数秒の運動パフォーマンスの向上にも寄与しないことがBJSMの報告でも明らかになっています(Saunders B, 2017)。

 

 その理由は、βアラニンが「30秒〜10分程度の運動」のみに作用するからです。

 

 「力を入れろ」という脳からの指令が筋肉の膜に届くと、筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、筋肉の収縮が生じます。

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 30秒〜10分程度という短い運動時間で使用されるエネルギーは主に「解糖系」によって生成されます。解糖系によるエネルギー生成は、酸性の水素イオンを放出します。運動の継続とともに水素イオンが蓄積されると、筋肉を酸性(アシドーシス)にしてしまいます。筋肉が酸性になると、筋小胞体からのカルシウムイオンの放出が抑制され、筋肉が収縮できなくなります。この水素イオンによる酸性化が疲労の要因であると推測されています(Stellingwerff T, 2011)。

 

 これに対して、筋収縮時のカルシウムイオンの放出を促し、水素イオンの放出を妨げるペプチド(アミノ酸が結合したもの)があります。それが「カルノシン」です。βアラニンは、このカルノシンの濃度を高める作用をもっているのです。βアラニンを摂取するとカルノシンの濃度が高まり、カルシウムイオンの放出を促すとともに、水素イオンの放出を抑制することによって、筋肉の酸性化を遅らせることができるのです。つまり、トレーニングによる筋疲労を軽減できるのです。

 

 βアラニンは、このようなメカニズムから、30秒〜10分程度の運動パフォーマンスを高めることに適した栄養素とされているのです。



◆ βアラニンはレジスタンストレーニングのパフォーマンスを向上させる

 

 では、βアラニンを摂取することで、本当にレジスタンストレーニングのパフォーマンスが向上するのでしょうか?

 

 2008年、ニュージャージー州立大学のHoffmanらはβアラニンの摂取によるトレーニングへの影響を調査しました。被験者は、βアラニンを3週間にわたって摂取するグループとプラセボサプリメントを摂取するグループに分けられました。両グループともに同じトレーニングを行い、3週間後にベンチプレスとスクワットの運動回数、疲労度が測定されました。

 

 その結果、ベンチプレス、スクワットの3セットの運動回数はプラセボに比べてβアラニンを摂取したグループが多くなり、疲労度も低くなることが示されました(Hoffman JR, 2008)。

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Fig.1:Hoffman JR, 2008より筆者作成

 

 同様の検証はゲント大学のDeraveらによっても行われており、4週間のβアラニンの摂取により、筋肉内のカルノシン量の増加とともに、ニーエクステンション時の疲労の軽減が示されています(Derave W, 2007)。

 

 これらの報告から、βアラニンの摂取はレジスタンストレーニング時の疲労軽減をもたらし、運動回数を増加させる可能性が示唆されているのです。

 

 また、2009年にはオクラホマ大学のSmithらにより、βアラニンの摂取が筋肉量(除脂肪量)の増大に効果的であるという知見が報告されました(Smith AE, 2009)。

 

 被験者は6週間のβアラニンを摂取するグループとプラセボサプリメントを摂取するグループに分けられ、6週間のトレーニングの前、中間、後の筋肉量が計測されました。その結果、βアラニンのグループはプラセボのグループに比べて有意な筋肉量の増大を認めました。

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Fig.2:Smith AE, 2009より筆者作成

 

 同様の結果はアダムスステート大学のKernらも報告しており(Kern BD, 2011)、βアラニンの摂取が筋肥大に有効であることが示唆されています。

 

 ISSNのレビューでは、長期的(縦断的)な検証が欠けている点を指摘しつつも、これらの報告から、βアラニンの摂取はレジスタンストレーニング時の疲労を軽減し、運動回数の増加により筋肉量の増大に効果的であると述べています。運動回数の増加は総負荷量を高めるため、結果として有意な筋肥大が生じるのです。



◆ βアラニンの摂取方法と副作用を正しく知っておこう

 

 ISSNのレビューでは、βアラニンの効果的な摂取方法についてもまとめられています。

 

 βアラニンの適切な摂取量は1日あたり4-6gです。1回あたり2g以下で摂取し、1日2−3回の摂取で必要な摂取量を満たします。

 

 βアラニンの効果は即時的なものではありません。2週間以上、摂取を継続すると筋肉内のカルノシンが20-30%増加し、4週間続けると40-60%のカルノシンの増加が期待できます。そのため、ISSNでは4週間以上の摂取が効果的であるとしています。

 

 しかしながら、βアラニンには副作用があります。それは顔や首、手背に感じるという一時的な「ピリピリ感」です。このピリピリ感はβアラニンを摂取したすべての個人で感じることはありませんが、0.8g以上の摂取で感じる場合があるとのことです。特に摂取を始めた時期に感じることが多いですが、摂取の継続とともに緩解すること、そもそもβアラニンが体内生産されていることから、ISSNでは有害性はないとしています。



 このようにβアラニンは、トレーニング時の疲労の軽減による運動回数の増加、総負荷量の増大に効果的な栄養素として注目されているのです。副作用が気になるところですが、摂取をやめれば完全にワッシュアウト(排泄)されることも確認されているため、試してみる価値はあるでしょう。

 

 スポーツの界隈では早くからβアラニンが注目されていますが、多くの選手が摂取しているのはβアラニンがドーピング対象にならないことも寄与しているかもしれせん。

 

 また、βアラニンはトレーニングのみでなく、その抗酸化作用からアンチエイジングについても期待されていますが、この知見はまだ少ないので今後の研究に期待されるとことです。

 

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◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

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シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

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シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう 

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シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

 

References

Trexler ET, et al. International society of sports nutrition position stand: Beta-Alanine. J Int Soc Sports Nutr. 2015 Jul 15;12:30.

Saunders B, et al. β-alanine supplementation to improve exercise capacity and performance: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2017 Apr;51(8):658-669.

Kelly VG, et al. Prevalence, knowledge and attitudes relating to β-alanine use among professional footballers. J Sci Med Sport. 2017 Jan;20(1):12-16.

Hoffman JR, et al. β-alanine supplementation improves tactical performance but not cognitive function in combat soldiers. J Int Soc Sports Nutr. 2014 Apr 10;11(1):15.

Stellingwerff T, et al. Nutrition for power sports: middle-distance running, track cycling, rowing, canoeing/kayaking, and swimming. J Sports Sci. 2011;29 Suppl 1:S79-89.

Hoffman JR, et al. Short-duration beta-alanine supplementation increases training volume and reduces subjective feelings of fatigue in college football players. Nutr Res. 2008 Jan;28(1):31-5.

Derave W, et al. beta-Alanine supplementation augments muscle carnosine content and attenuates fatigue during repeated isokinetic contraction bouts in trained sprinters. J Appl Physiol (1985). 2007 Nov;103(5):1736-43.

Smith AE, et al. Effects of beta-alanine supplementation and high-intensity interval training on endurance performance and body composition in men; a double-blind trial. J Int Soc Sports Nutr. 2009 Feb 11;6:5.

Kern BD, et al. Effects of β-alanine supplementation on performance and body composition in collegiate wrestlers and football players. J Strength Cond Res. 2011 Jul;25(7):1804-15.