リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「研究と臨床をつなげるための記録」

筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

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 世界有数のリサーチ会社であるMarkets and Marketsは、2017年3月、プロテインサプリメントの市場が今後、年6%の成長をつづけ、2022年には6兆円規模の巨大市場になるという予想を発表しました。

 

 日本を含む先進国では「健康」が大ブームであり、スポーツ人口の10〜20%がプロテインサプリメントを摂取していることが報告されています(Goston JL, 2010)。プロテインサプリメントの市場は今後も拡大の一途をたどると予想されているのです。

 

 しかし、これに警鈴を鳴らす研究者がいます。

 

 「単離(栄養素から切り離された)されたタンパク質のサプリメントを摂取するよりも、食品そのものからタンパク質を摂取したほうがトレーニング効果は高まる」

 

 トロント大学のvan Vlietらは、この仮説をタマゴ(鶏卵)を用いて証明したのです。

 

 今回は、トレーニング後に卵白だけでなく卵黄も食べるべき根拠についてvan Vlietらの報告をご紹介しましょう。

 

Table of contents



◆ 卵黄は筋タンパク質の合成を促進する


 タマゴからタンパク質を摂取しようとする場合、一般的に卵白が好まれています。これは卵黄が高カロリーであるとともに、含まれているコレステロールや脂質が疎ましく思われているためでしょう。

 

 しかし、卵黄には豊富な栄養素があります。それに比べて、卵白にはタンパク質以外の栄養素はなく、いわゆる単離されたタンパク質です。

 

 では、単離されたタンパク質である卵白と栄養が豊富な卵黄では、どちらがトレーニング効果を高めるのでしょうか?

 

 この問を検証したのがトロント大学のvan Vlietらです。

 

 2017年10月、van Vlietらは、同じタンパク質量の全卵(卵黄+卵白)と卵白の摂取がトレーニング効果に与える影響について報告しました。

 

 トレーニング経験のある被験者は、レッグプレスとレッグエクステンションをそれぞれ10RM行い、全卵(タンパク質18g、脂肪17g)または卵白(タンパク質18g、脂肪0g)を摂取しました。摂取後、5時間が経過するまでの筋タンパク質の合成率が計測されました。

 

 その結果、筋タンパク質の合成率は卵白を摂取したグループに比べて、全卵を摂取したグループが有意に高かったのです。

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Fig.1::van Vliet S, 2017より筆者作成

 

 この結果から、卵白のみよりも卵黄を含む全卵を摂取したほうが筋タンパク質の合成量が高いことが示唆されました。

 

 しかし、なぜ同じタンパク質量を摂取しているにも関わらず、筋タンパク質の合成率にこれほどまでの差がついたのでしょうか?

 

 van Vlietらは、ここに卵黄を食べるべき理由があるといいます。

 

 必須アミノ酸のひとつにロイシンがあります。ロイシンは筋タンパク質の合成を促進するmTORを活性化させる作用をもっています。また、アミノ酸は細胞の膜を通過する際に輸送体が必要になります。その橋渡し役をするのがアミノ酸輸送体というタンパク質の集合体です。ロイシンやアミノ酸輸送体の増加は筋タンパク質の合成を促進する因子になります。


 van Vlietらは、卵黄と卵白にはロイシンやアミノ酸輸送体量の異なりがあるのではないかと仮定しましたが、検証された結果はロイシン、アミノ酸輸送体量ともに有意な差は認められないというものでした。

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Fig.2:van Vliet S, 2017より筆者作成

 

 この意外な結果から、van Vlietらは卵黄に含まれる「他の栄養素」が筋タンパク質の合成に影響を与えたのではないかと推測したのです。

 


◆ 卵黄の栄養素が筋タンパク質の合成を促進させる

 

 卵(主に卵黄)は栄養素が豊富な食品であり、食物繊維とビタミンC以外のすべての栄養素が含まれています。

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 そして、これらの栄養素がタンパク質とともに筋タンパク質の合成作用を後押ししている可能性が示唆されています。

 

 例えば、ビタミンAの代謝物質であるレチノイン酸は細胞の分化に関与し、筋細胞の分化を促進することが明らかになっています(Halevy O, 1993)。

 

 また脂質の成分であるホスファチジン酸は、筋タンパク質の合成を促進するmTORを活性化させることが示されており、トレーニング後の筋肥大に寄与します(Joy JM, 2014)。

 

 さらに脂質を構成する脂肪酸のω3脂肪酸においても筋タンパク質の合成を促進する作用が示唆されています(Smith GI, 2011)。

 

 van Vlietらは、卵黄に含まれているこれらの栄養素が筋タンパク質の合成率を引き上げた要因だろうと推察しています。このことからvan Vlietらは、単離されたタンパク質のサプリメントだけでなく、他の栄養素も含む食品タンパク質の摂取の重要性を説いているのです。

 

 それでも卵黄を食べることには抵抗感が残ります。それは卵黄に含まれるコレステロールや脂肪が心臓病の原因になるという噂があったからです。

 

 しかしながら、現代の栄養学はこの噂を一蹴しています。

 

 近年の研究報告では、卵黄の摂取によって心臓病の発症リスクが増加しないことが確認されています(Kanter MM, 2012)。また、今年9月に報告された最新のレビューにおいても、卵黄の摂取が心臓病や糖尿病のリスク因子にならないことが改めて示されています(Geiker NRW, 2017)。

 

 

 卵黄は心臓病や糖尿病のリスク因子でなく、筋タンパク質の合成をサポートする有能な食品であることが示されています。トレーニング後にタマゴを食べるときは、卵白だけでなく、卵黄も一緒に食べることによってトレーニング効果が最大化されるのです。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

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シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

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シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

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シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

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シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

References

Goston JL, et al. Intake of nutritional supplements among people exercising in gyms and influencing factors. Nutrition. 2010 Jun;26(6):604-11.

van Vliet S, et al. Consumption of whole eggs promotes greater stimulation of postexercise muscle protein synthesis than consumption of isonitrogenous amounts of egg whites in young men. Am J Clin Nutr. 2017 Oct 4. pii: ajcn159855.

Geiker NRW, et al. Egg consumption, cardiovascular diseases and type 2 diabetes. Eur J Clin Nutr. 2017 Sep 27.

Kanter MM, et al. Exploring the factors that affect blood cholesterol and heart disease risk: is dietary cholesterol as bad for you as history leads us to believe? Adv Nutr. 2012 Sep 1;3(5):711-7.

Halevy O, et al. Retinoic acid induces adult muscle cell differentiation mediated by the retinoic acid receptor-alpha. J Cell Physiol. 1993 Mar;154(3):566-72.

Joy JM, et al. Phosphatidic acid enhances mTOR signaling and resistance exercise induced hypertrophy. Nutr Metab (Lond). 2014 Jun 16;11:29.

Smith GI, et al. Omega-3 polyunsaturated fatty acids augment the muscle protein anabolic response to hyperinsulinaemia-hyperaminoacidaemia in healthy young and middle-aged men and women. Clin Sci (Lond). 2011 Sep;121(6):267-78.