リハビリmemo

大学病院勤務・大学院所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法


スポンサーリンク

 

 「高強度トレーニングのあとは病気になりやすい」

 

 現代の運動免疫学は、過去40年にわたり、運動による免疫機能への影響について検証をつづけ、独自に発展してきました。そこで示されているのが「オープン・ウィンドウ」という現象です。

 

 オープン・ウインドウとは、激しい運動のあとに一時的に免疫機能が運動前のレベルよりも低下する現象のことをいいます。そのため、高強度や高負荷トレーニングのような激しい運動のあとは病気になりやすいと言われているのです。

 

 しかし、これまでにオープン・ウインドウのメカニズムの解明やエビデンスの検証は不十分なままであり、その概念だけがひとり歩きしていました。そして近年、ようやく運動免疫学の発展によって、その概要が明らかにされつつあるのです。

 

 今回は、トレーニング後の免疫機能の低下とその対処法についての最新の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents

 



◆ 筋トレのあとに免疫機能が低下するエビデンス

 

 赤血球が酸素を運んでいると、突如、そこに細菌が現れました。赤血球が細菌に襲われそうになったとき、助けにきたのが白血球の好中球です。好中球はすぐに細菌を駆除しましたが、逃げてしまった細菌がいました。その逃げた細菌は、毒性がとても強い肺炎球菌だったのです。そこで肺炎球菌を駆除するために招集されたのが、攻撃力の強いリンパ球のキラーT細胞です…。

 

 これはアニメ「はたらく細胞(第1話)」のいち場面です。

 

 免疫とは「疫(病気)」を「免れる」という意味であり、自然免疫と獲得免疫のふたつの機能をもちいて、病原菌から身体を守ってくれています。

 

 自然免疫とは、生まれたときからもっている免疫機能で、細菌が身体に侵入したときに、すばやく駆除にあたる防波堤の役割を担っています。細菌に赤血球が襲われそうになったとき、すぐ好中球がかけつけて駆除した、という機能が自然免疫になります。

 

 これに対して獲得免疫とは、成長とともに獲得していく免疫機能で、侵入してしまった細菌を排除する役割を担っています。侵入した細菌がじつは肺炎球菌で、その排除にリンパ球のキラーT細胞が招集され駆除にあたる、という機能が獲得免疫になります。

 

 そして、激しいトレーニングのあとのオープン・ウィンドウでは、主に獲得免疫のはたらきが抑制されることが示唆されているのです。

 

 2016年、高強度トレーニングによる免疫機能への影響を検証したメタアナリシスが世界ではじめて報告されました。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 カンザス大学のSiedlikらは、これまでに報告された筋トレとサイクリングなどの有酸素運動による免疫機能への影響を検証した24の研究結果(トレーニング経験者345名)をもとに解析を行いました。

 

 その結果、疲労困憊まで追い込むような高強度(高負荷)トレーニングを1時間以上、行うとキラーT細胞を含むリンパ球のはたらきが抑制される中等度の効果(0.55)が認められました。

f:id:takumasa39:20181011151700p:plain

Fig.1:Siedlik JA, 2016より筆者作成

 

 さらに、トレーニング強度や継続時間などのサブグループ解析を行った結果、中等度よりも高強度において免疫機能の抑制効果が高まる傾向にあり、1時間以内のトレーニングに比べて、1時間以上の長時間のトレーニングにおいても免疫機能の抑制効果が高まる傾向が示されました。

f:id:takumasa39:20181011152105p:plain

Fig.2:Siedlik JA, 2016より筆者作成

 

 これらの結果から、強度だけでなく長時間にわたるトレーニングの総負荷量が大きい場合に、その後のリンパ球による免疫機能が抑制される可能性が示唆されています。

 

 これが高強度トレーニングによって免疫機能が低下する現在のところのエビデンスになります。

 

 このようなトレーニングによる免疫機能の低下は、トレーニング後30分ほどから始まり、4〜6時間以内にもとの免疫レベルに戻るとされています(Walsh NP, 2011)。

 

 オープン・ウインドウのメカニズムとして挙げられているのが、コルチゾールによる影響です。コルチゾールは副腎から放出されるストレスホルモンの一種であり、高強度トレーニングにより増加します。細菌が侵入するとリンパ球はリンパ節から血管に入って、細菌のところまで移動します。これを「リンパ球の再分布」といいますが、増加したコルチゾールはこのリンパ球の再分布を邪魔することが報告されています。

 

 その他にもリンパ球のアポトーシス(細胞死)などの関与が示唆されていますが、決定的なメカニズムの解明には至っていません。現在のところは高強度トレーニングにともなうコルチゾールの増加により免疫機能が低下し、潜在的なウイルスの活性化と、免疫機能の低下による易感染によって感染性の病気になりやすくなるとされています(Peake JM, 2017)。

f:id:takumasa39:20181011153156p:plain

 

 それでは、高強度トレーニングによる免疫機能の低下を予防する対処法はあるのでしょうか?



◆ 免疫機能の低下を予防する栄養戦略とは?

 

 2017年、クイーンズランド工科大学のPeakeらは、トレーニング後の免疫機能の低下に対する対処法についてのレビューを報告し、こう結論づけています。

 

 「炭水化物とタンパク質の摂取が免疫機能の低下を予防する」

 

 炭水化物の摂取は、トレーニング中または後の血液中のグルコース濃度を高めることができます。グルコース濃度の上昇は、コルチゾールなどのストレスホルモンの放出を抑える効果があり、これにより免疫機能の低下を予防できることが示唆されています。

 

 アパラチア州立大学のNiemanらは高強度トレーニング中の炭水化物の摂取が、トレーニング直後および3時間までのリンパ球の機能低下を抑制することを報告しています。また、ラフバラー大学のLancasterらは、トレーニング中に30〜50gの炭水化物を摂取した場合、トレーニング後のリンパ球の機能低下が抑制されたと報告しています。

 

 またPeakeらは、高用量のタンパク質の摂取によっても免疫機能の低下を予防できる可能性があると論じています。

 

 スターリング大学のWitardらは、高強度トレーニング後に1日に体重1kgあたり3.0gの高用量のタンパク質の摂取が免疫機能の低下を防ぎ、1.5gのタンパク質の摂取では免疫機能の低下が防げないことを報告しています。さらに、タンパク質摂取によるmTORの活性化がリンパ球の輸送の促進に寄与することも示唆されており、タンパク質の摂取が免疫機能の低下を予防する可能性が報告されています。

 

 これらの研究結果から、Peakeらはトレーニング中の炭水化物の摂取や、トレーニング後の高用量のタンパク質の摂取が免疫機能の低下の予防に有効であると述べているのです。しかし、その最適な摂取量や摂取タイミングは明らかではなく、今後の検証が必要としています。



 このような研究結果をもとに、現代の運動免疫学は、疲労困憊まで追い込むような高強度・高負荷トレーニングのあとには短期的に免疫機能が低下するオープン・ウインドウの存在を提唱しているのです。

 

 そして、その対処法として炭水化物やタンパク質の摂取を推奨しています。

 

 しかしながら、紹介したメタアナリシスの異質性(研究結果のバラツキ度合い)が高く、筋トレだけではなく他のトレーニングの研究結果も含まれているため、新たな研究結果が報告された段階で、改めてメタアナリシスを行う必要があるでしょう。また、炭水化物やタンパク質の有効な摂取方法の検証も必要です。

 

 今後も運動免疫学の研究動向に注目して、新たな研究報告がありましたら本ブログでご紹介したいと思います。

 

 高強度や高負荷量のトレーニングをしたあとに体調を崩しがちなときは、トレーニング中に炭水化物や糖質を補給して、トレーニングのあとはしっかりとタンパク質を摂取してみるのも良いかもしれませんね。

 

 

www.awin1.com

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え

シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)

シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう

シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?

シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?

シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン

シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実

シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに

シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう

シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに

シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう

シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう

シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう

シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう

シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?

シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう

シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう

シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由

シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題

シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう

シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう

シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)

シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?

シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ

シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう

シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?

シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう

シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス

シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう

シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)

シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう

シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?

シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス

シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる

シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)

シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版) 

シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス

シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう

シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス

シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう

シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう

シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス

シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法

 

 

◆ 参考論文

Siedlik JA, et al. Acute bouts of exercise induce a suppressive effect on lymphocyte proliferation in human subjects: A meta-analysis. Brain Behav Immun. 2016 Aug;56:343-51.

Peake JM, et al. Recovery of the immune system after exercise. J Appl Physiol (1985). 2017 May 1;122(5):1077-1087.

Walsh NP, et al. Position statement. Part one: Immune function and exercise. Exerc Immunol Rev. 2011;17:6-63.

Nieman DC, et al. Carbohydrate supplementation affects blood granulocyte and monocyte trafficking but not function after 2.5 h or running. Am J Clin Nutr. 1997 Jul;66(1):153-9.

Lancaster GI, et al. Effect of prolonged exercise and carbohydrate ingestion on type 1 and type 2 T lymphocyte distribution and intracellular cytokine production in humans. J Appl Physiol (1985). 2005 Feb;98(2):565-71.

Witard OC, et al. High dietary protein restores overreaching induced impairments in leukocyte trafficking and reduces the incidence of upper respiratory tract infection in elite cyclists. Brain Behav Immun. 2014 Jul;39:211-9.

 

www.awin1.com