リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

長生きの秘訣は筋トレにある

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 加齢とともに、私たちの筋肉は減少し、脂肪は増加していきます。

 

 40歳から80歳までに筋肉は男性で10.8%、女性で6.4%減少し、それに対して内臓脂肪は男性で42.9%、女性で65.3%も増えることが報告されています(Yamada M, 2014)。

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Fig.1:Yamada M, 2014より筆者作成

 

 加齢にともなう筋肉の減少と脂肪の増加、これは何を意味するのでしょうか?

 

 それは「死」です。

 

 子孫を残し、役目を終えた私たちは、遺伝子のプログラムによって、加齢とともに筋肉を減少させ、脂肪を増加させながら生命の終焉を迎えるのです。しかし現代の医学は、これに抗うかのように長生きするための最適戦略を見つけつつあります。

 

 今回は、長生きするための最適戦略について、今年8月に報告された知見をご紹介しましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋肉が少なく、脂肪が多いともっとも死亡率が高くなる

 

 2015年、雑誌Lancetで14万人を対象にした握力と死亡率との調査結果が報告されました。握力は全身の筋肉量を反映する指標になります。調査の結果、握力が5kg低下するごとに死亡率が14%増加することが示されました(Leong DP, 2015)。

 

 また、2016年には雑誌Lancetで約400万人を対象としたBMI(体格指数)と死亡率の大規模調査の結果が報告されました。14年間の追跡調査の結果、肥満度の上昇とともに死亡率の増加を認め、過度の肥満では、死亡率が171%増加することがわかりました(Global BMI Mortality Collaboration. 2016)。

 

 これらの結果から、加齢による筋肉の減少と脂肪の増加は、明らかに死の可能性を高めるのです。

 

 そして筋肉の減少と脂肪の増加が合わさると、残念なことに死亡率はさらに増大します。

 

 加齢にともなう筋肉の減少はサルコペニアと言い、これに脂肪の増加が加わると「サルコペニア肥満」と呼ばれます。

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 ロンドン大学のAtkinsらは、サルコペニア肥満と死亡率の関係性を調査した結果、死亡率は筋肉の減少で41%、脂肪の増加で21%増加するのに対して、サルコペニア肥満では72%増加することを報告しています(Atkins JL, 2014)。

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Fig.2:Atkins JL, 2014より筆者作成

 

 また、台湾・国立健康研究所のChuangらは、アジア人を対象としたサルコペニア肥満と死亡率について10年間の追跡調査を行いました。その結果、単独の筋肉の減少、脂肪の増加と比べてサルコペニア肥満は3.2〜6.8倍の死亡率の増加を認めました(Chuang SY, 2016)。

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Fig.3:Chuang SY, 2016より筆者作成

 

 これらの結果、筋肉が少なく、脂肪の多いサルコペニア肥満がもっとも死亡率が高く(赤)、反対に筋肉が多く、脂肪が少ないもの(青)がもっとも死亡率が低くなることが示唆されているのです。

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 このような背景から、死亡率を下げる戦略として、脂肪の量を減少させるダイエットと筋肉の量を増加させる筋トレが推奨されてきました。

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 しかし、言うは易く行うは難しというように、ダイエットと筋トレを並行して行うことは高齢者だけでなく、私たちにとっても辛いことです。

 

 このような中、2017年8月に報告された研究結果が新たな最適戦略をもたらしてくれたのです。



◆ 長生きの最適戦略が筋トレである理由

 

 イギリス・UKバイオバンクは50万人の成人を対象に健康状態、家族歴、生活状況などのデータを収集している世界最大のデータベースセンターです。2017年8月、ケンブリッジ大学のKimらは、UKバイオバンクのデータを用いて、サルコペニア肥満と死亡率との調査結果を報告しました。

 

 その目的は、下記のマトリクスの「?」の部分の死亡率の程度を明らかにすることでした。

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 Kimらは、調査条件に合う約40万人を対象に、握力とBMI(体格指数)による死亡率への影響を調査しました。その結果、筋肉の低下、脂肪の増加はともに死亡率を高める因子であるとともに、サルコペニア肥満はもっとも死亡率を増加(男性:81%、女性69%)させることが示されました。

 

 そして興味深い事実が明らかになったのです。

 

 筋肉が多く、脂肪の多い被験者は、筋肉が少なく、脂肪も少ない被験者よりも死亡率が低かったのです。

 

 つまり、もっとも死亡率の高い組み合わせは「筋肉が少なく、脂肪の多い」状態であるサルコペニア肥満です。次に高いのが「筋肉も少なく、脂肪も少ない」状態で、これに比べて「筋肉も多く、脂肪も多い」状態は死亡率が低くなることが明らかになったのです。

 

 この結果により、マトリクスの「?」を埋めることができます。

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 この結果からわかることは、脂肪が多くても、筋肉を増やすことができれば死亡率を低下させることができるということです。そして脂肪を減らしても筋肉が増えなければ死亡率は高いままであるということです。

 

 このことから、Kimらは、サルコペニア肥満を改善させるポイントは「筋肉を増やすこと」だと結論づけています。

 

 サルコペニア肥満の改善には、ダイエットと筋トレが推奨されてきました。これに対して、Kimらは、両方を行うのではなく、まず、筋トレをして死亡率の低い「筋肉が多く、脂肪も多い」状態を目指すべきだと述べています。ダイエットをして脂肪を減らしても、筋肉が増えていない状態では死亡率の大きな改善が見込めないからです。筋肉を増やした後、ダイエットに取り組めば良いとしています。

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 ヒトは誰でも歳をとります。加齢により筋肉は衰え、脂肪は蓄えられ、死に向かっていくのです。この遺伝子のプログラムに逆らうことはできないでしょう

 

 しかし、現代の医学はこれに抗うように最適戦略を示してくれています。

 

 長生きするためには、まずは筋トレをするべきである。

 

 幸い、筋トレにより効果的に筋肉を増やすための多くの知見が報告されています。私たちは生きるために筋トレをしなければならないのです。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう

シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう

シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論 

シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論

シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう 

シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう

シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう

シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう

シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう

シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ

シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう

シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?

シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版) 

シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある

シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)

シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス

シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論

シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?

シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう

シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)

シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス

シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方

シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに

シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう

シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで

シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより

シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

 

References

Yamada M, et al. Age-dependent changes in skeletal muscle mass and visceral fat area in Japanese adults from 40 to 79 years-of-age. Geriatr Gerontol Int. 2014 Feb;14 Suppl 1:8-14.

Global BMI Mortality Collaboration. Body-mass index and all-cause mortality: individual-participant-data meta-analysis of 239 prospective studies in four continents. Lancet. 2016 Aug 20;388(10046):776-86.

Leong DP, et al. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet. 2015 Jul 18;386(9990):266-73.

Atkins JL, et al. Sarcopenic obesity and risk of cardiovascular disease and mortality: a population-based cohort study of older men. J Am Geriatr Soc. 2014 Feb;62(2):253-60.

Chuang SY, et al. Abdominal Obesity and Low Skeletal Muscle Mass Jointly Predict Total Mortality and Cardiovascular Mortality in an Elderly Asian Population. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Aug;71(8):1049-55.

Kim Y, et al. Independent and joint associations of grip strength and adiposity with all-cause and cardiovascular disease mortality in 403,199 adults: the UK Biobank study. Am J Clin Nutr. 2017 Aug 9. pii: ajcn156851.