2017年7月の雑誌BJSM(British Journal of Sports Medicine)に「トレーニング後のタンパク質の摂取量」についての最新のレビューとメタ解析の結果が報告されたのでキャッチアップしておきましょう。
今回のレビューで示されたメッセージは「トレーニング後24時間あたりの最適なタンパク質の摂取量を知っておこう」です。
Table of contents
◆ 1食あたりの最適なタンパク質の摂取量
1回の食事やプロテインの摂取による最適なタンパク質の摂取量はどのくらいなのでしょうか?
この問いに答えたのがトロント大学のMooreらです。2015年、Mooreらは若年者(平均年齢22歳)と高齢者(平均年齢71歳)を対象に、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用とタンパク質の摂取量との関係性を調査しました。
得られたデータを体重により換算した結果、1食あたりの最適なタンパク質摂取量は「若年者0.24g/kg、高齢者0.40g/kg」であることがわかったのです。
Mooreらの研究結果は、最適なタンパク質の摂取量についての多くの示唆を与えてくれます。
まずひとつは、年齢によってタンパク質の摂取量は異なることです。今回は20代と70代による検証でしたが、年齢が増えるとともに必要となるタンパク質の摂取量も増えるのです。これは加齢にともなう筋タンパク質の合成抵抗性(anabolic resistance)が増加するためです。
つぎに、体重によって必要なタンパク質の摂取量が異なることです。20代の70kgの若年者の最適な1食あたりのタンパク質摂取量は16.8g(0.24×70)ですが、90kgでは21.6gとなります。
さいごに、タンパク質の摂取量には限界(limit)があることです。Mooreらの報告は、若年者の0.24g/kg、高齢者の0.40g/kgを超えてたタンパク質を摂取しても、筋タンパク質の合成作用は増えないことを示唆しています。つまり、この値以上のタンパク質の摂取量では筋タンパク質の合成作用はプラトーになるということです。
Fig.1:Moore DR, 2015より筆者作成
また、近年ではタンパク質の摂取量はトレーニング内容によっても影響を受けることもわかっています。Mooreらの報告は単一のトレーニング(レッグプレスのみ)の最適な摂取量であり、複数のトレーニングを組み合わせた全身性トレーニングの場合は、タンパク質の摂取量を+10gほど増やすことが効果的であるとされています(Macnaughton LS, 2016)。
これらの報告を背景に、現代のスポーツ栄養学では、1食あたりの最適なタンパク質の摂取量は「年齢、体重、トレーニング内容によって判断するべきである」と述べているのです。
『筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量について知っておこう』
◆ トレーニング後24時間あたりの最適なタンパク質の摂取量
トレーニングによる筋タンパク質の合成感度の増加は24時間ほど継続します。近年では、トレーニング効果を最大化するには、この24時間で如何に最適なタンパク質の摂取量を摂取するかが重要であるとされています。では、トレーニング後24時間の最適なタンパク質の摂取量とはどのくらいなのでしょうか?
2017年6月、国際スポーツ栄養学会(ISSN)より「タンパク質の摂取とエクササイズ」というレビューが報告されました。
ISSNのレビューは2016年までのすべての報告をまとめたレビューです。そこで示されたトレーニング後24時間あたりの最適なタンパク質の摂取量は1.4-2.0g/kgというやや幅のある摂取量でした。
『筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(ISSN2017より)』
そして2017年7月、マクマスター大学のMortonらにより「トレーニング後24時間あたりのタンパク質の摂取量」についての最新のレビューが報告されたのです。
レビューでは、6週間以上のトレーニングとタンパク質の摂取を行っているランダム比較試験(RCT)という厳格な条件のもと、49の研究報告、1,863名の被験者を対象として分析が行われました。
レビューの結果、トレーニング後の24時間のタンパク質摂取は、最大筋力(1RM)、筋肉量(除脂肪量)、筋肥大(筋肉の横断面積)を明らかに増大させることがわかりました。これは、トレーニング後の24時間でタンパク質を摂取することがトレーニング効果を高めるために有用であることを示しています。
そして、24時間の最適なタンパク質の摂取量が「1.6g/kg」であることを明らかにしたのです。さらに、この値以上の摂取量では、効果的な筋肉量、筋肥大を起こさないことも示しています。
Mortonらは、トレーニング後24時間に最大1.6g/kgのタンパク質の摂取を目指すべきであり、それ以上の摂取は必要ないと結論づけています。しかしながら、加齢による推奨量などは今後のさらなる検証が必要であるとしています。
Mortonらの報告により24時間の最適なタンパク質の摂取量が明らかになりました。前述した1食あたりの最適なタンパク質の摂取量を勘案して、簡単なシュミレーションをしてみましょう。
40歳で体重70kgのトレーニーによるトレーニング後の最適なタンパク質の摂取量について考えてみます。
トレーニング後24時間で推奨されるタンパク質の摂取量は112g(1.6×70)となります。1食あたりのタンパク質の摂取量は16.8g(0.24×70)となりますが、年齢が40歳であるため少し多めの18gとします(加齢による筋タンパク質の合成抵抗性があるため)。そして全身性トレーニングを行っているので+10g増やし、1食あたりの摂取量を28gとしました。これを3食の食事とプロテインで摂取し、就寝前に30gのプロテインを摂取すると、トレーニング後24時間のタンパク質の摂取量は合計で114gとなります。
トレーニング効果を最大にするためには、トレーニングによって筋タンパク質が合成しやすい24時間で如何に最適なタンパク質を摂取するかが大切になります。今回のMortonらの報告により、トレーニング後24時間の最適なタンパク質の摂取量が示されました。この値を参考に、トレーニング後のタンパク質の摂取量をリ・デザインしてみるのも良いかもしれません。
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◆ 読んでおきたい記事
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう
シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ
シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう
シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン
シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実
シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに
シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう
シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らか筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう
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シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
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シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
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シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス
シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法
シリーズ85:筋トレのパフォーマンスを最大にするカフェインの最新エビデンス
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シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】
◆ 参考文献
Moore DR, et al. Protein ingestion to stimulate myofibrillar protein synthesis requires greater relative protein intakes in healthy older versus younger men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Jan;70(1):57-62.
Macnaughton LS, et al. The response of muscle protein synthesis following whole-body resistance exercise is greater following 40 g than 20 g of ingested whey protein. Physiol Rep. 2016 Aug;4(15). pii: e12893.
Morton RW, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2017 Jul 11. pii: bjsports-2017-097608.