ダイエットにおいて、睡眠不足は大敵です。
なぜなら、睡眠不足になると太るから。
現代の睡眠科学は、睡眠不足になると自己コントロールするための意志力が低下し、夜間の人工照明がサーカディアンリズムを崩し、レプチンの減少により食欲が増加することで太ってしまうという科学的根拠(エビデンス)を示しています。
『寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス』
睡眠不足は、我慢する意志力を失わせるとともに、食欲を高めることによってエネルギー摂取量を増やし、体重を増加させるのです。
日本人の睡眠時間は年々、減少しており、令和元年の健康実態調査(厚生労働省)では、睡眠時間が7時間未満である寝不足の割合が6割を超えています。
Fig.1:令和元年 健康実態調査(厚生労働省)より筆者作成
これに対して、平日の睡眠不足を取り戻すために行われているのが「週末の寝だめ」です。平日の睡眠不足という負債を、週末に多く眠ることによって返済しようというのです。
しかしながら、週末の寝だめによる認知機能への影響を調査した研究では、睡眠不足による認知機能の低下に対して、寝だめが即時的な認知機能の回復に寄与しますが、繰り返し寝だめをすると認知機能が徐々に低下してしまうことが報告されています(St Hilaire MA, 2017)。
また、繰り返される睡眠不足と寝だめは、血圧やコルチゾールなどのストレスマーカーに累積的な悪影響を与えることも報告されています(Yang H, 2017、Simpson NS, 2016)。
睡眠不足による認知機能の低下やストレスマーカーの上昇に寝だめは意味をなさないことが示唆されているのです。
では、週末の寝だめは、睡眠不足による食欲や体重の増加を防ぐことができるのでしょうか?
今回は、週末の寝だめが食欲や体重に与える影響について最新の研究報告をご紹介しましょう。
Table of contents
◆ 寝だめをするとさらに太りやすくなる?
「寝だめすれば、睡眠不足による体重の増加を止められるのか?」
この疑問に答えたのがコロラド大学ボルダー校のDepnerらです。
Depnerらは、36名(平均年齢25.5歳)の被験者を3つの異なる睡眠パターンのグループにランダムに割り付け、9日間(平日5日間、週末2日間、平日2日間)を過ごしました。
グループの1つ目は毎日たっぷりと9時間の睡眠をとる「コントロールグループ」、2つ目は睡眠時間を5時間に制限する「睡眠不足グループ」、3つ目は最初の5日間の睡眠時間を5時間に制限し、その週末には好きなだか寝だめをして良く、その後、再び、睡眠時間を5時間に制限して2日間を過ごす「寝だめグループ」に分けられています。
実験前後での夕食後のエネルギー消費量や体重、インスリンの感受性が計測されまいた。
その結果、平日の5日間で睡眠不足グループと寝だめグループは、夕食後のエネルギー摂取量と体重が増加しました。週末になると寝だめグループの睡眠時間は、睡眠不足グループよりも1.1時間増え、夕食後のエネルギー摂取量が減少しました。しかしながら、また平日になると、再び寝だめグループは睡眠不足となり、夕食後のエネルギー摂取量と体重が増加しました。
Fig.2:Depner CM, 2019より筆者作成
また、インスリン感受性は、睡眠不足グループと寝だめグループともに全身のインスリン感受性が低下し、寝だめグループでは筋肉のインスリン感受性の低下も認めました。
Fig.3:Depner CM, 2019より筆者作成
週末の寝だめによるエネルギー摂取量の減少は男性よりも女性のほうが減少しました。
これらの結果から、睡眠不足はエネルギー摂取量を増やし、体重を増加させることが改めて示されました。そして、週末の寝だめは、それまでの睡眠不足によるエネルギー摂取量の増加を抑える効果が示されましたが、週明けの平日に再び睡眠不足になると、エネルギー摂取量は増加し、その効果は意味をなさないことがわかりました。さらに、寝だめをすると逆にインスリンの感受性が低下することが示されました。
Depnerらの研究結果は、週末に寝だめをしてもエネルギー摂取量や体重への悪影響を解消することはできず、むしろ、インスリンの感受性を低下させ「より太りやすくなる」ことを示唆しています。週末の寝だめは、平日の睡眠不足による体重増加を防ぐ手段にはならないのです。
しかし、ここで疑問の声が上りました。
Depnerらの研究報告は、週末2日間の寝だめによる効果を検証したものでした。これに対して、3日間や5日間といった連日の寝だめをすれば、翌週の睡眠不足による食欲増加への影響を防げるのではないか?という疑問が生じたのです。
◆ いくら寝だめでをしても睡眠不足による食欲増加を防げない!
連日の寝だめは、その後の睡眠不足による食欲増加を防げるのか?という疑問を検証したのがラトガーズ大学のSpaethらです。
Spaethらは、35名(平均年齢33歳)の被験者を4つのグループにランダムに割り付けました。1つは睡眠時間が10時間の「コントロールグループ」であり、その他の3つは5日間の睡眠時間の制限(5時間睡眠)後に寝だめを1日だけ行う「寝だめ1日グループ」、寝だめを3日行う「寝だめ3日グループ」、寝だめを5日行う「寝だめ5日グループ」としました。この3つの寝だめグループは、寝だめをしたあと、再度、5日間の睡眠時間の制限を行いました。
これらの期間における夜間のエネルギー摂取量、摂取した栄養組成が計測されました。
その結果、3つの寝だめグループは、寝だめ期間にかかわらずに前後の5日間の睡眠不足で1日のエネルギー摂取量の増加(+527 kcal)が示され、また飽和脂肪(+7 g)の摂取の増加とともに、タンパク質(-1.2%kcal)の摂取の減少が認めらました。コントロールグループにこのような変化は認められませんでした。
Fig.4:Spaeth AM, 2020より筆者作成
また、寝だめの期間を1日から3日、5日に増やしても再び睡眠不足になるとエネルギー摂取量が増加することが示されました。
Fig.5:Spaeth AM, 2020より筆者作成
これらの結果から、寝だめの期間は、その後の睡眠不足によるエネルギー摂取量の増加を防げないこと、睡眠不足になると太る脂質である飽和脂肪の摂取量が増え、やせる栄養素であるタンパク質の摂取量が減ることが示唆されました。
『ダイエットするなら「健康に良い、やせる脂質」を食べよう!』
『タンパク質がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!』
Spaethらは、いくら寝だめをしても、その後の睡眠不足による食欲を抑えることはできないと結論づけています。
週末の寝だめは、睡眠不足による食欲を抑える効果はなく、逆にインスリン感受性を低下させることで体重を増えやすくします。さらに、いくら寝だめをしても、翌日から睡眠不足になると食欲が高まり、エネルギー摂取量がすぐに増加してしまい、寝だめの意味はなさないのです。
ここからわかることは、ダイエットにおいては「平日の睡眠時間」がとても重要になるということです。
週末の寝だめに期待するのではなく、平日にしっかりと寝ることが睡眠不足による過剰な食欲を抑え、エネルギー摂取量の増加を防ぐことになります。平日には、なるべく7時間は眠れるように生活のスケジュールをマネジメントするようにしましょう。平日の睡眠時間がダイエットを成功するための重要な土台になるのです。
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◆ 参考文献
Chattu VK, et al. The Global Problem of Insufficient Sleep and Its Serious Public Health Implications. Healthcare (Basel). 2018 Dec 20;7(1):1.
St Hilaire MA, et al. Modeling Neurocognitive Decline and Recovery During Repeated Cycles of Extended Sleep and Chronic Sleep Deficiency. Sleep. 2017 Jan 1;40(1):zsw009.
Yang H, et al. Repetitive exposure to shortened sleep leads to blunted sleep-associated blood pressure dipping. J Hypertens. 2017 Jun;35(6):1187-1194.
Simpson NS, et al. Repeating patterns of sleep restriction and recovery: Do we get used to it? Brain Behav Immun. 2016 Nov;58:142-151.
Depner CM, et al. Ad libitum Weekend Recovery Sleep Fails to Prevent Metabolic Dysregulation during a Repeating Pattern of Insufficient Sleep and Weekend Recovery Sleep. Curr Biol. 2019 Mar 18;29(6):957-967.e4.
Spaeth AM, et al. Caloric and Macronutrient Intake and Meal Timing Responses to Repeated Sleep Restriction Exposures Separated by Varying Intervening Recovery Nights in Healthy Adults. Nutrients. 2020 Sep 3;12(9):2694.