「筋肉を減らさずに、脂肪だけを減らすことはできるのでしょうか?」
健康や外見的な魅力を高めるためにダイエットをしますが、そこには大きな落とし穴があります。
それは、脂肪だけでなく「筋肉も減ってしまう」ということです。
『ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!』
筋肉の重要性が近年、ますます高まっています。筋肉が多いほど病気による死亡率が低下し、手術後の死亡率も筋肉の量によって影響を受けるとされています(Antoniou GA, 2019)。
『筋トレは病気による死亡率を減らしてくれる【世界初のエビデンス】』
また、筋肉が多いことは身体的な魅力を高めてくれます。とくに女性は男性の上半身の筋肉量を外見的な魅力の指標にすることが示唆されています。
しかしながら、40歳を超えると、筋肉はどんどん減少してしまいます。とくに高齢化社会である日本人においては、筋肉量を維持したり増やすことは健康や外見的な若々しさにおいてもさらに重要になるでしょう。
ここからわかることは、真に健康的で、身体的な魅力を高めるためにダイエットをするのであれば、「筋肉を減らさずに痩せること」がポイントになってくるのです。これは現代の健康科学でもトピックスになっており、最新の科学的根拠(エビデンス)が報告されはじめています。
前回は、エネルギー(カロリー)制限ダイエットをする際に、乳製品の摂取量を増やすと筋肉量を維持できるというエビデンスをご紹介しました。
『筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】』
そして、最新のエビデンスでは、乳製品にかかわらず、タンパク質の摂取量を増やすと筋肉を減らさずにダイエット効果を高めることが示唆されています。今回は、その最新のエビデンスをご紹介しましょう。
Table of contents
- ◆ タンパク質の摂取を増やすと筋肉が減らないエビデンス
- ◆ ダイエットで筋肉を減らさないための「タンパク質の摂取量」を知っておこう!
- ◆ ダイエットの科学シリーズ
- ◆ 筋トレの科学シリーズ
- ◆ 参考文献
◆ タンパク質の摂取を増やすと筋肉が減らないエビデンス
エビデンスにはレベルがあります。では、もっとも高いレベルのエビデンスを示す研究手法は何かというと、それは「メタアナリシス」になります。
メタアナリシスとは、これまでに報告された同じテーマの研究結果を集めて、全体としてどのような傾向をがあるのかを解析する研究手法です。多くの研究結果をまとめて解析するので、ひとつひとつの研究報告よりもエビデンスレベルが高く、数ある研究手法のなかでもっともエビデンスレベルの高い研究手法とされているのです。
では、エネルギー制限ダイエットにおけるタンパク質の摂取量の影響を解析した最新のメタアナリシスの結果を見ていきましょう。
2012年、南オーストラリア大学のWycherleyらは、等カロリーのエネルギー制限ダイエットにおいて高タンパク質食と標準タンパク質食による影響を比較したメタアナリシスを行いました。
解析の対象となったのは24のランダム化比較試験(18歳以上の男女1063名)です。エネルギー制限食の摂取カロリーは1575±270kcal、ダイエット期間は12.1±9.3週間(範囲:4〜52週間)でした。タンパク質の摂取量は、高タンパク質食グループが1日、体重1kgあたり1.25g、標準タンパク質食グループが0.72gでした。
平均的な栄養素組成は下記のようになっています。
Fig,1:Wycherley TP, 2012より筆者作成
その結果、高タンパク質食は、標準タンパク質食と比べて、体重の減少(-0.79 kg)、脂肪量の減少( -0.87kg)、トリグリセリドの減少(-0.23 mmol/L)が認められました。さらに除脂肪量の増加(+0.43 kg)、安静時エネルギー代謝(REE)の増加(+142kcal/d)が認められました。
Fig.2:Wycherley TP, 2012より筆者作成
この結果から、Wycherleyらは、エネルギー制限ダイエットではタンパク質の摂取量を増やすことが体重や脂肪量を減少させるだけでなく、脂肪のもとであるトリグリセリドも減少させ、さらに安静時エネルギー代謝も増やすことからダイエット効果を高めると示唆しています。
『ダイエットしたいなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜』
そして、タンパク質の摂取量を増やすことは、除脂肪量である筋肉量の減少を予防することも明らかになったとしてます。
つまり、エネルギー制限ダイエットの際にタンパク質の摂取量を増やすことは、筋肉を減らさずにダイエット効果をさらに高めることができる、というエビデンスが示されたのです。
では、筋肉を減らさずにダイエット効果を高める最適な「タンパク質の摂取量」はどのくらいなのでしょうか?
◆ ダイエットで筋肉を減らさないための「タンパク質の摂取量」を知っておこう!
Wycherleyらのメタアナリシスはランダム化比較試験をもとにしたものであり、エビデンスのレベルももっとも高い結果なのですが、唯一、指摘されたことがあります。
それが「標準タンパク質の摂取量」です。
Wycherleyらのメタアナリシスでは、標準タンパク質の摂取量が1日、体重1kgあたり「0.72g」でした。しかし、米国医学研究所が提唱している推奨栄養所要量(RDA)は「0.8g」であり、この値は病気にならない健康を維持するための最小の摂取量とされています。
そのため、Wycherleyらのメタアナリシスで比較対象となった標準タンパク質の摂取量「0.72g」はRDAを下回る摂取量であり、高タンパク質食と比較すると、その効果が大きくなってしまう可能性が指摘されたのです。
そこで2020年、エネルギー制限ダイエットにおいて、RDAのタンパク質摂取量(標準タンパク質食)と高タンパク質食による影響についてのメタアナリシスを行ったのがパデュー大学のHudsonらです。
Hudsonらは、18のランダム化比較試験(対象年齢26〜75歳)をもとに、RDAと同等の標準タンパク質の摂取量(0.8g/kg/d)と高タンパク質の摂取量(1.3g/kg/d)によるエネルギー制限ダイエット後の除脂肪量(≒筋肉量)の変化について解析しました。
その結果、エネルギー制限ダイエット中の高タンパク質の摂取は、筋肉量を増やす効果が示されました。また、エネルギー制限をしていない場合には、筋肉量の変化は認められませんでした。
Fig.3:Hudson J, 2020より筆者作成
これらの結果から、Hudsonらはエネルギー制限ダイエットを行う場合は、RDAのような標準的なタンパク質の摂取量「0.8g/kg/d」よりも高いタンパク質を摂取することが筋肉を減らさずにダイエット効果たかめることに寄与すると結論づけています。
また、筋肉を減らさないためのタンパク質の摂取量を「1.3g/kg/d」としており、これは体重80kgの場合、1日あたりのタンパク質の摂取量を「104g」、1食あたり「35g程度」の摂取量に相当します。
このように、最新のメタアナリシスの結果から、現代の健康科学はエネルギー制限ダイエットにおいて「タンパク質の摂取量を増やすこと」が筋肉を減らさずにダイエットするための主要因になると示唆しているのです。
前回の記事をもとにするのであれば、タンパク質の摂取量を増やすために牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品を2〜4品、ホエイやカゼインといった乳清プロテイン・サプリメントであれば50g程度を追加して摂取することが推奨されています。
『筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】』
健康的に、そして身体的魅力を高めるためにダイエットするのであれば、糖質や炭水化物を制限するエネルギー制限ダイエットにプラスして、十分なタンパク質の摂取量を意識して摂取してみる価値はありそうですね。その際のタンパク質の摂取量は、1日、体重1kgあたり「1.3g」を参考にしてみましょう。
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シリーズ10:ダイエットをすると頭が良くなる最新エビデンス【科学的に正しい自己啓発法】
シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!
シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】
シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!
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シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
シリーズ㊲:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜現代の科学が示すひとつの答え
シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン
シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実
シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに
シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう
シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らかに
シリーズ㊼:プロテインは骨をもろくする?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ㊽:コーヒーが筋トレのパフォーマンスを高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊾:睡眠不足は筋トレの効果を低下させる~その科学的根拠を知っておこう
シリーズ㊿:イメージトレーニングが筋トレの効果を高める〜その科学的根拠を知っておこう
シリーズ51:筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう
シリーズ52:筋トレ後のタンパク質の摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ53:筋トレが高血圧を改善させる〜その科学的根拠を知っていこう
シリーズ54:ケガなどで筋トレできないときほどタンパク質を摂取するべきか?
シリーズ55:筋トレは脳卒中の発症リスクを高めるのか?〜筋トレによるリスクを知っておこう
シリーズ56:筋トレを続ける技術〜意志力をマネジメントしよう
シリーズ57:筋トレ後にプロテインを飲んですぐに仰向けに寝てはいけない理由
シリーズ58:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか問題
シリーズ59:筋トレの効果を最大にする食品やプロテインの選ぶポイントを知っておこう
シリーズ60:ベンチプレスをするなら大胸筋損傷について知っておこう
シリーズ61:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう(2018年4月版)
シリーズ62:筋トレ後のタンパク質摂取に炭水化物(糖質)は必要ない?
シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
シリーズ64:筋トレの効果を最大にする「牛乳」の選び方を知っておこう
シリーズ65:そもそもプロテインの摂取は筋トレの効果を高めるのか?
シリーズ66:筋力を簡単にアップさせる方法~筋力と神経の関係を知っておこう
シリーズ67:筋力増強と筋肥大の効果を最大にするトレーニング強度の最新エビデンス
シリーズ68:筋トレは疲労困憊まで追い込むべきか?〜最新のエビデンスを知っていこう
シリーズ69:筋トレで疲労困憊まで追い込んではいけない理由(筋力増強編)
シリーズ70:筋トレで筋肥大の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ71:筋トレで筋力増強の効果を最大にする「運動のスピード」を知っておこう
シリーズ72:ネガティブトレーニングは筋肥大に効果的なのか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ73:筋トレを続ける技術〜お金をもらえれば筋トレは継続できる?
シリーズ74:プロテインは腎臓にダメージを与える?〜ハーバード大学の見解と最新エビデンス
シリーズ75:筋トレによる筋肥大の効果は強度、回数、セット数を合わせた総負荷量によって決まる
シリーズ76:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ(2018年8月版)
シリーズ77:筋トレとHMBの最新エビデンス(2018年8月版)
シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
シリーズ83:筋トレのパフォーマンスを最大にするクレアチンの最新エビデンス
シリーズ84:筋トレのあとは風邪をひきやすくなる?〜最新エビデンスと対処法
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シリーズ90:筋トレをするとモテる本当の理由
シリーズ91:高タンパク質は腎臓にダメージを与えない〜最新エビデンスが明らかに
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シリーズ94:スクワットのフォームの基本を知っておこう【スクワットの科学】
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シリーズ118:筋トレで筋力をアップさせるための最小のトレーニング量を知っておこう!【最新エビデンス】
シリーズ119:筋トレとHMBの最新エビデンス【2020年版】
シリーズ120:科学的に正しい自己啓発法を知っておこう!【筋トレ編】
シリーズ121:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!
シリーズ122:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】
シリーズ123:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!【最新エビデンス】
◆ 参考文献
Antoniou GA, et al. Effect of Low Skeletal Muscle Mass on Post-operative Survival of Patients With Abdominal Aortic Aneurysm: A Prognostic Factor Review and Meta-Analysis of Time-to-Event Data. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2019 Aug;58(2):190-198.
Wycherley TP, et al. Effects of energy-restricted high-protein, low-fat compared with standard-protein, low-fat diets: a meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 2012 Dec;96(6):1281-98.
Hudson J, et al. Protein Intake Greater than the RDA Differentially Influences Whole-Body Lean Mass Responses to Purposeful Catabolic and Anabolic Stressors: A Systematic Review and Meta-analysis. Adv Nutr. 2020 May 1;11(3):548-558.