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寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス


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 食欲には「生きるために必要な食欲」と、お腹いっぱいなのに甘いスイーツを見ると食べたくなる「嗜好性にもとづいた食欲」があります。

 

 ダイエットでは、このふたつの食欲を抑えて、エネルギー(カロリー)摂取量を減らさなければなりません。でも、三大欲求である食欲を抑えることは大変ですよね。

 

 では、食欲を減らす方法があるのでしょうか?

 

 そこで、現代の健康科学で注目されているのが「タンパク質」です。

 

 タンパク質の摂取量を増やすことにより、食欲調節ホルモンに影響を与えることで食欲を抑えられることが示唆されています。

ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!【最新エビデンス】

タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!

 

 しかしながら、タンパク質によって食欲を抑えるためには、ある前提条件が必要になります。

 

 それが「睡眠」です。

 

 タンパク質の摂取量を増やして食欲を抑えようとしても、そもそも睡眠不足では、その効果は意味をなさなくなります。なぜなら、睡眠不足は食欲を高めてしまうから。

 

 今回は、睡眠不足が食欲を高めてしまうという最新エビデンスをご紹介しましょう。



Table of contents

 

 

◆ 食欲をつかさどる食欲調節ホルモンを知っておこう!

 

 「お腹が空いた・・・」

 

 エネルギー(カロリー)制限ダイエットをしていると空腹感を感じやすくなります。空腹感は血液中のグルコースの量が減ったり、胃がゆるむことでグレリンというペプチドホルモンが放出されることによって、脳の視床下部にある摂食中枢の神経活動が高まることで生じます。

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 そこで、ご飯を食べると、血液中のグルコースの量が増え、胃が張ることでグレリンの放出が抑えられ、代わりに腸から消化管ホルモンの分泌が増えることで脳の視床下部にある満腹中枢が刺激されて満腹感が生じます。

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 僕たちの食欲は、これらの食欲調節ホルモンによってモニタリングされ、その情報をもとに脳の視床下部が調整しているのです。

 

 さらに食欲を抑える重要な食物調節ホルモンがあります。

 

 それが「レプチン」です。

 

 レプチンは脂肪細胞から分泌されるペプチドホルモンで、アディポサイトカインの代表的なものとされています。

 

 アディポサイトカインの「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味し、アディポサイトカインは脂肪細胞から分泌されるレプチンやTNF-α、レジスチンなどの生理活性物質の総称です。

 

 長期間、暴飲暴食をして脂肪細胞が大きくなる(=太る)とレプチンの分泌量が増えます。レプチンは視床下部の満腹中枢に作用して、食欲を抑えるように働きます。また交感神経を活性化させて脂肪を燃やし、エネルギーの消費を促します。つまり、これ以上、太らないように食欲やエネルギー消費を調整する役割を担っているのです。

 

 では、レプチンの分泌が減ってしまうとどうるのかというと、長期的に脂肪細胞が肥大化してきても食欲を抑えることができず、太ることに対するブレーキがかからなくなってしまいます。

 

 このように、グレリンや消化管ホルモンは1回1回の食欲に関与していますが、レプチンは長期的な体重や脂肪細胞の変化に応じて太ることを防ぐように作用しているのです。

 

 しかし、これらの食欲調節ホルモンに悪影響を与える生活習慣があります。

 

 それが「睡眠不足」です。



◆ 睡眠不足が食欲を高めてしまう最新エビデンス

 

 2004年、スタンフォード大学で行われた睡眠時間と食欲調節ホルモンとの関連を調査した研究では、睡眠時間が短いほどグレリンが増加し、レプチンが減少することが示され、睡眠時間が短いほど肥満度の指数が高くなる傾向が認められました(Taheri S, 2004)。

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Fig.1:Taheri S, 2004より筆者作成

 

 さらに2007年に報告されたラヴァル大学の研究においても、短い睡眠時間とレプチンレベルの低下、および肥満の増加との関連が報告されています(Chaput JP, 2007)。

 

 このような報告により、睡眠不足は食欲調節ホルモンに悪影響を与えることが示唆されてきました。

 

 しかし、2011年のシカゴ大学の報告では、レプチンのレベルと睡眠時間または睡眠の質との関連が認められず(Knutson K, 2011)、その他の研究報告でも関連を否定するものがありました。

 

 このように近年では、睡眠時間と食欲調節ホルモンとの関連についての議論が続いていたのです。

 

 そして、この議論にひとつの答えを示したのが2020年6月に報告された上海交通大学のLinらによるメタアナリシスです。

*メタアナリシスとは、これまでに報告された同じテーマの研究結果を集めて、全体としてどのような傾向をがあるのかを解析するエビデンスレベルのもっとも高い研究手法のことです。 

 

 Linらは、これまでに報告された21の研究結果(介入研究16、観察研究5)をもとに解析を行いました。

 

 被験者は2250名(男性1285名と女性965名)であり、年齢は20〜60代でした。睡眠時間の定義は5時間未満が「睡眠不足」、7時間未満が「短い睡眠時間」とされています。全体の被験者のなかで883名が短い睡眠時間であり、そのうち366人は睡眠不足でした。

 

 解析は短い睡眠時間と睡眠不足によるグレリンとレプチンへの影響について行われ、サブグループ解析として肥満度や年齢の影響が解析されました。

 

 その結果、標準的な睡眠時間に比べて、短い睡眠時間ではグレリンの分泌が増え、レプチンの分泌に変化は認めませんでした(SMD=0.14、SMD=0.01)。また、睡眠不足ではグレリン、レプチンともに分泌が増えることが示されました(SMD=0.18、SMD=0.24)。

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Fig.2:Lin J, 2020より筆者作成

 

 サブグループ解析では、被験者の肥満度、男女の性差においてレプチン、グレリンの結果に影響は認められませんでした。

 

 これらの結果から、7時間未満の短い睡眠時間はグレリンの分泌を増やし、5時間未満の睡眠不足はグレリン、レプチンの双方の分泌に影響を与えることが示され、これらの影響は肥満度、性別の影響を受けないことあ示唆されました(Lin J, 2020)。

 

 グレリンは空腹感を伝達するホルモンであり、レプチンは満腹感を高めるホルモンです。睡眠不足はグレリンの分泌を増やし、レプチンの分泌を減らすことにより、空腹感を感じやすく、満腹感を感じにくくさせることによって食欲を高める可能性が示唆されたのです。

 

  Linらのメタアナリシスは、睡眠不足が食欲調節ホルモンに悪影響を与えて食欲を高めるというエビデンスであり、これまで続いてた議論にひとつの答えを示したのです。

 

 しかし、話はこれで終わりません。

 

 ここで示されたのは、睡眠不足が「生きるために必要な食欲」を高めるというエビデンスです。

 

 食欲には、もうひとつの「嗜好性にもとづく食欲」があります。

 

 では、睡眠不足は嗜好性にもとづく食欲も高めてしまうのでしょうか?

 

 

◆ 睡眠不足は「別腹の食欲」も高めてしまう!

 

 お腹いっぱいなのに、美味しそうなケーキを見ると食べたくなりますよね。この別腹としての食欲を「嗜好性にもとづく食欲」といいます。

 

 嗜好性にもとづく食欲に対する睡眠不足の影響についてのメタアナリシスは報告されていませんが、興味深い研究結果が報告されています。

 

 嗜好性にもとづく食欲には、報酬系という脳の回路によって生じます。ケーキを食べたときに、自分が思っている以上に「美味しい」と感じた場合、脳の前頭前野からβエンドルフィンが分泌され、美味しいという快感情報が中脳の腹側被蓋野に送られます。すると腹側被蓋野からドーパミン側坐核に放出され、「美味しい」という快感(報酬)を得た行動(ケーキを食べる)が強化されるのです。

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 報酬系によって「ケーキを食べると美味しいという快感が得られる」ことが強化されると、お腹いっぱいになってもケーキを見ると「別腹だから食べたい!」と思ってしまうのです。これが嗜好性にもとづく食欲の正体です。

 

 そして、睡眠不足はこの報酬系の回路をさらに高めてしまう可能性があるのです。

 

 コロンビア大学による睡眠不足による脳の神経活動の変化を磁気共鳴機能画像法(fMRI)によって検証した研究では、睡眠不足になるとケーキやファーストフード などの嗜好性にもとづく食欲を促す食品の刺激に応答して、脳の報酬系領域の神経活動が活性化することが示唆されています(St-Onge MP, 2014)。

 

 また、ニューヨーク市立大学クイーンズ校による睡眠時間と食行動との関連を調査した研究では、睡眠不足は高炭水化物、高脂肪な食事やお菓子などによるエネルギー摂取量の増加と関連し、タンパク質や果物、野菜などの摂取量の減少と関連することが報告されています(Kant A, 2014)。

 

 逆に、習慣的に睡眠不足である肥満の被験者を対象に、睡眠時間を8.5時間まで延長したシカゴ大学の研究では、食欲が14%低下し、お菓子・塩辛い食べ物といった嗜好性にもとづく食欲を高める食品の摂食量が62%も減少したことが示されています(Tasali E, 2014)。

 

 このように、睡眠時間は嗜好性にもとづく食欲に影響を与えることが示唆されており、とくに睡眠不足は脳の報酬系の神経活動を高め、別腹の食欲を高める可能性が示されているのです。

 

 

 ダイエットするために食欲を抑えることはとても意志力を疲弊させます。そこで現代の健康科学では、タンパク質の摂取量を増やして、食事を減らすのではなく、食欲を減らしてダイエット効果を高めることが注目されています。

 

 しかしながら、その前提条件になるのが「十分な睡眠」なのです。

 

 睡眠不足はグレリンとレプチンといった食欲調節ホルモンの働きを阻害して、食欲を高めてしまいます。また、脳の報酬系の神経活動を高めて嗜好性にもとづく食欲を高めてしまいます。これではタンパク質を摂取しても十分な食欲低減の効果は得られないでしょう。

 

 食欲を抑えてダイエットを効果的に進めるためにも、しっかりとした睡眠をとることが大切になるのです。

 

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◆ 参考文献

Taheri S, et al. Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index. PLoS Med. 2004 Dec;1(3):e62.

Chaput JP, et al. Short sleep duration is associated with reduced leptin levels and increased adiposity: Results from the Quebec family study. Obesity (Silver Spring). 2007 Jan;15(1):253-61.

Knutson K, et al. No association between leptin levels and sleep duration or quality in obese adults. Obesity (Silver Spring). 2011 Dec;19(12):2433-5.

Lin J, et al. Associations of short sleep duration with appetite-regulating hormones and adipokines: A systematic review and meta-analysis.  Obes Rev. 2020 Jun 15.

St-Onge MP, et al. Sleep restriction increases the neuronal response to unhealthy food in normal-weight individuals. Int J Obes (Lond). 2014 Mar;38(3):411-6.

Kant A, et al. Association of self-reported sleep duration with eating behaviors of American adults: NHANES 2005-2010. Am J Clin Nutr. 2014 Sep;100(3):938-47.

Tasali E, et al. The effects of extended bedtimes on sleep duration and food desire in overweight young adults: a home-based intervention. Appetite. 2014 Sep;80:220-4.