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ダイエットの成功には「筋肉量」が鍵になる科学的根拠【最新エビデンス】


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 なぜ、多くの人がダイエットのあとにリバウンドしてしまうのでしょうか?

 

 この難題に栄養学や運動生理学、脳科学などの現代の科学が挑んでおり、ひとつの解として挙げられているのが「恒常性」です。

 

 ダイエットにより脂肪が減ると、減った脂肪を取り戻そうとする恒常性が働き、脳の視床下部を通じて食欲を増大させ、エネルギー消費量を減少させることによってリバウンドが生じます。

ダイエットを成功させたいなら「リバウンドのメカニズム」を知ってこう!

 

 そして近年、リバウンドのもうひとつの要因が明らかにされつつあります。

 

 それが「筋肉量の減少」です。

 

 ダイエットをして体重が減少すると、減るのは脂肪だけではなく、筋肉も減ってしまいます。この筋肉量の減少がリバウンドを生じさせる要因になることが示唆されているのです。

 

 今回は、ダイエットによる筋肉の減少がリバウンドの要因であるという近年の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents

 

 

◆ ダイエットをすると筋肉が減っていく

 

 ダイエットをすると体重の減少とともに身体はどのように変わていくのでしょうか?

 

 この問いにメルク・アンド・カンパニーのHeymsfieldらは「ダイエットには2つの減量フェーズがある」と述べています。

 

 ダイエットを始めてからの4-6週間までが初期にあたるフェーズ1であり、この時期は脂肪量よりも除脂肪量が減りやすくなります。その後の後期にあたるフェース2では、除脂肪量よりも脂肪量が減りやすくなります。

ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

 

 ここでは、ダイエット初期のフェーズ1に生じる身体の変化を見ていきましょう。

 

 フェーズ1では体重減少の要因が脂肪量よりも除脂肪量にあるとされています。除脂肪量とは、身体から脂肪量を除いた内臓や筋肉、水分の総量のことをいいます。

 

 エネルギー制限ダイエットを行うと、エネルギーの摂取量よりも消費量が上回ることによってエネルギー収支はマイナスになります。このマイナスのエネルギーを補うために、おもにグリコーゲンやタンパク質が消費され、水分が減少していきます。

 

 その中でもとくにタンパク質の消費が大きくなります。1日のエネルギー摂取量を900kcalに制限すると、ダイエットを始めた直後から1日あたり約5〜6gの窒素を失い、これは35〜40gのタンパク質が失われることを示唆しています(Heymsfield SB, 1989)。

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Fig.1:Heymsfield SB, 1989より筆者作成

 

 また、グリコーゲンには水が結合しているため、グリコーゲンの消費に応じて水分も同時に失われていきます。しかし、これらは食事や水分の摂取により回復できるため、ダイエットによる除脂肪量の減少はおもに筋肉量の減少が反映しているとされています。

 

 タンパク質の損失は筋肉量の減少に寄与します。筋肉量はもととなる筋タンパク質の合成量と分解量がつり合っていることで維持されていますが、体内のタンパク質の損失は筋タンパク質の合成作用を低下させることにより、筋肉量を減少させます。

 

 また、エネルギー摂取量を減らすために炭水化物(糖質)の摂取を制限すると、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成を促進させるIGF-1(インスリン様成長因子1)の分泌が減ります。これにより脂肪だけでなく、筋肉も減ってしまうことが示唆されています。

ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

 

 このようにダイエット初期のフェーズ1では体内のタンパク質が減るとともに筋肉量も減っていくのです。そして、この筋肉量の減少がダイエットの後のリバウンドに寄与することが研究によってわかってきたのです、



ミネソタ半飢餓実験が示す筋肉量の重要性

 

 1944年、ダイエットの科学的知見に大きな影響を与えた「ミネソタ半飢餓実験」が行われ、1950年には実験結果をまとめた「人間の飢餓の生物学」が刊行されました。

 

 これは、被験者に半飢餓(通常のエネルギー摂取量の約40%)の食事を24週間にわたって摂取させ、体重や体組成(脂肪量や筋肉量)への影響を検証した研究です。

 

 その結果、被験者はダイエット前よりも脂肪量が約70%減少しただけでなく、除脂肪量(≒筋肉量)も約18〜20%減少しました。エネルギー摂取量の減少は脂肪量とともに筋肉量も減少させたのです。

 

 そして、ミネソタ半飢餓実験のデータを詳細に再分析したのがジュネーブ大学のDullooらです。

 

 Dullooらは、実験後の体重の回復(リバウンド)に対する脂肪量や筋肉量の影響について分析しました。

 

 24週間にわたってエネルギー制限を行った被験者たちは、その後の12週間で徐々にエネルギー摂取量を増やしていくと、脂肪量は約25%まで増加しましたが、筋肉量は約12〜15%の増加にとどまりました。

 

 そして、その後8週間で食事を自由に摂取させると、脂肪量は実験前よりも170%まで増加しました。まさにリバウンドが生じたのです。しかし、ある時点で脂肪量のリバウンドが落ち着きます。その時点が、筋肉量が100%(実験前と同じ筋肉量)に回復したときだったのです。

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Fig.2:Dulloo AG, 1997より筆者作成

 

 ここから、ある仮説が立てられました。

 

 リバウンドの要因は脂肪量の減少だけでなく、「筋肉量の減少」も寄与しているのではないだろうか?

 

 この仮説をもとに、2000年に入ると筋肉量とエネルギー摂取量に関する観察研究が行われるようになります。

 

 

◆ 筋肉量の減少がリバウンドの要因となる科学的根拠

 

 2012年、リーズ大学のBlundellらは、筋肉量が異なる被験者を集めて、1日の食事によるエネルギー摂取量、食事で選択する食品のサイズなどを12週間にわたって調査しました。その結果、筋肉量が少ない被験者は、1日のエネルギー消費量が多くなるとともに選択する食品のサイズも大きくなることが示唆されました(Blundell JE, 2012)。

 

 また2016年、シェフィールド・ハラム大学のHopkinsらは、被験者に対して、2週間の食事調査を行い、1日のエネルギー摂取量、筋肉量、安静時代謝率が計測されました。その結果、筋肉量と安静時代謝率が毎日のエネルギー摂取量を予測する因子であることが示されました(Hopkins M, 2016)。

 

 これらの観察研究から、筋肉量が1日のエネルギー摂取量を高める要因になる可能性が示唆されたのです。

 

 では、実験的にダイエットによって筋肉量を減らした場合、体重のリバウンドに影響を与えるのでしょうか?

 

 この問に対して、2016年、マーストリヒト大学のVinkらはランダム化比較試験(RCT)を行いました。

 

 57名の被験者は、12週間の低カロリー食(LCD:1250kcal /日)のグループまたは5週間の超低カロリー食(VLCD:500 kcal/日)のグループにランダムに分けられました。両グループともに食事制限後、4週間の体重安定期間と9ヶ月間のフォローアップが行われ、体重や体組成が計測されました。

 

 その結果、食事制限によって両グループともに体重が減少し、フォローアップ後の体重の回復にも有意な差はありませんでした。

 

 これに対して、筋肉量の減少割合はLCDグループよりもVLCDグループで高くなり、フォローアップ中の体重の回復と関連が認められました。

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Fig.3:Vink RG, 2016より筆者作成

 

 この結果から、エネルギー制限の量が多いほど、筋肉量が減少するとともに、筋肉量の減少がその後の体重の回復に寄与することが示唆されたのです。

 

 また、2020年には、リーズ大学のTuricchiらがランダム化比較試験(RCT)を行いました。

 

 Turicchiらは、209名の被験者(18〜65歳)に対して8週間の低カロリー食(LCD)を受けさせ、8%以上の体重減少を認め、この期間における脂肪量、筋肉量が計測されました。被験者はその後、自由食を摂取し、26週間にわたって追跡されました。この期間における体重の変化、食欲の変化が調査されました。

 

 その結果、8週間の低カロリー食によって全被験者の体重減少は平均11.2kgであり、そのうち筋肉量の減少率は30.4%でした。とくに男性は女性よりも多くの体重が減少し、筋肉量の減少率も大きくなりました。

 

 26週間の追跡期間では、全被験者の体重は平均1.57kg回復し、男性は女性よりも多く回復しました(男性2.94kg、女性0.77kg)。そして、筋肉量の減少率は、全被験者の体重の回復と正の関連の傾向を示し、とくに男性では強い関連が認められました。

 

 また、筋肉量の減少率は空腹感の増加、満腹感の低下と関連があり、とくに男性では、空腹感の増加とともに食べたいという欲求の増加、満腹感の低下と強い関連を示しました。

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Fig.4:Turicchi J, 2020より筆者作成

 

 なぜ、女性よりも男性が筋肉量の影響を受けやすいのか?という問いに、Turicchiらは「男性のほうがベースとなる筋肉量が多いため」と述べています。筋肉量が多い男性は、女性よりも食事制限による筋肉量の減少率が高いことから、より食欲の増大や体重の増加への寄与が大きくなると推察しています。

 

 そして、これらの結果をまとめて解析した系統的レビューおよびメタ回帰分析の結果においても、ダイエット後の体重回復には、脂肪量の減少とともに、筋肉量の減少が相乗的に寄与していることが示唆されました(Turicchi J, 2019)。

 

 これらの結果から、エネルギー制限ダイエットによる筋肉量の減少は、脂肪量の減少とともにダイエット後の食欲を高め、エネルギー摂取量を増加させることによって体重の回復(リバウンド)に寄与することがエビデンスとして示されているのです。

 

 では、なぜ筋肉量が減少すると食欲が高まり、エネルギー摂取量が増えるのかというと、そのメカニズムは明らかになっていません。現時点では、失ったタンパク質を取り戻すそうとする恒常性が働くと推測されています。これは「プロテインスタット」と呼ばれる成長期の子供が成長に合わせて必要となるタンパク質を補充するために食欲を増大させるメカニズムと類似していると考えられています(Dulloo AG, 2015)。


 

 これらの知見が意味していることは、ダイエット後のリバウンドを防ぐためには、筋肉量を減らさないことの重要性です。つまり、ダイエットの成功には「筋肉量の減少を防ぐ」ことが鍵になるのです。

 

 では、ダイエットによる筋肉量の減少を防ぐためにはどうしたら良いのかというと、そのひとつが「高タンパク質の摂取」です。

筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

 

 そして、もうひとつが「筋トレ」です。

 

 次回は、ダイエットするなら行うべき筋トレについて近年の研究報告をご紹介しましょう。

 

 

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◆ ダイエットの科学シリーズ

シリーズ1:「朝食を食べないと太る」というのは都市伝説?〜最新エビデンスを知っておこう

シリーズ2:ダイエットが続かないのは「寝不足」が原因?【最新エビデンス】

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シリーズ6:ダイエットするなら「太るメカニズム」を理解しよう!〜脂質編〜

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シリーズ9:太ると頭が悪くなる?最新エビデンスを知っておこう!

シリーズ10:ダイエットをすると頭が良くなる最新エビデンス【科学的に正しい自己啓発法】

シリーズ11:ダイエットすると筋肉量や筋力が減ってしまう科学的根拠を知っておこう!

シリーズ12:筋肉を減らさない科学的に正しいダイエット方法を知っておこう!【食事編】

シリーズ13:筋肉を減らさずにダイエットするならタンパク質の摂取量を増やそう!

シリーズ14:ダイエットで食欲を抑えたいならタンパク質を摂取しよう!

シリーズ15:タンパク質が食欲を減らすメカニズムを知っておこう!

シリーズ16:寝不足がダイエットの邪魔をする!〜睡眠不足が食欲を高める最新エビデンス

シリーズ17:ダイエットは超加工食品を避けることからはじめよう!

シリーズ18:ダイエットするなら「太る炭水化物」と「やせる炭水化物」を見極めよう!

シリーズ19:ダイエットするなら「白米よりも玄米」を食べよう!

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シリーズ28:タンパク質はダイエットによる骨の減少を抑えてくれる!

シリーズ29:乳製品がダイエット効果を高める最新エビデンスを知っておこう!

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シリーズ31:週末に寝だめをしても睡眠不足による食欲の増加は防げない!

シリーズ32:ダイエットするなら運動よりも食事制限から始めるべき科学的根拠

シリーズ33:ダイエットを成功させたいなら「リバウンドのメカニズム」を知ってこう!

シリーズ34:ダイエットでリバウンドを防ぐなら「運動」をするべき科学的根拠

シリーズ35:ぽっこりお腹を減らしたいならダイエットで「運動」をするべき科学的根拠

シリーズ36:もっとも脂肪を減らす「有酸素運動の方法論」を知っておこう!

シリーズ37:やせたいところを筋トレしても「部分やせはしない」という残酷な真実

シリーズ38:ダイエットの成功には「筋肉量」が鍵になる科学的根拠

 

 

◆ 参考文献

Heymsfield SB, et al. Rate of weight loss during underfeeding: relation to level of physical activity. Metabolism. 1989 Mar;38(3):215-23.

Dulloo AG, et al. Poststarvation hyperphagia and body fat overshooting in humans: a role for feedback signals from lean and fat tissues. Am J Clin Nutr. 1997;65(3):717‐723

Blundell JE, et al. Body composition and appetite: fat-free mass (but not fat mass or BMI) is positively associated with self-determined meal size and daily energy intake in humans. Br J Nutr. 2012 Feb;107(3):445-9.

Hopkins M, et al. Modelling the associations between fat-free mass, resting metabolic rate and energy intake in the context of total energy balance. Int J Obes (Lond). 2016 Feb;40(2):312-8. 

Vink RG, et al. The effect of rate of weight loss on long-term weight regain in adults with overweight and obesity. Obesity (Silver Spring). 2016 Feb;24(2):321-7.

Turicchi J, et al. Associations between the proportion of fat-free mass loss during weight loss, changes in appetite, and subsequent weight change: results from a randomized 2-stage dietary intervention trial. Am J Clin Nutr. 2020 Mar 1;111(3):536-544.

Turicchi J, et al. Associations between the rate, amount, and composition of weight loss as predictors of spontaneous weight regain in adults achieving clinically significant weight loss: A systematic review and meta-regression. Obes Rev. 2019 Jul;20(7):935-946.

Dulloo AG, et al. How dieting makes the lean fatter: from a perspective of body composition autoregulation through adipostats and proteinstats awaiting discovery. Obes Rev. 2015 Feb;16 Suppl 1:25-35.