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もっとも脂肪を減らす「有酸素運動の方法論」を知っておこう!


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 ダイエットで運動を取り入れることは、食欲を抑え、エネルギー消費量を高めることでリバウンドを防ぐとともに、生活習慣病の原因である内臓脂肪の減少にも有効であることが報告されています。

ダイエットでリバウンドを防ぐなら「運動」をするべき科学的根拠

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 ダイエットのための運動といえばジョギングやサイクリング、スイミングなどの有酸素運動がイメージされますが、では、もっとも脂肪を減らすための運動強度、運動時間、運動様式をどのように考えたら良いのでしょか?

 

 今回は、もっとも脂肪を減らす有酸素運動の方法論について近年の研究報告をご紹介しましょう。



Table of contents

 



◆ ヒトは長く走るように進化してきた

 

 42.195kmのフルマラソンを走れる動物はいるでしょうか?

 

 それは「ヒト」以外にいません。

 

 なぜ、ヒトは長い距離を走ることができるのかというと、進化の過程で走ることに身体を最適化させてきたからです。

 

 数百万年前の旧石器時代は食糧事情が厳しい狩猟採集の時代でした。二足歩行を獲得したヒトは、その代償として移動スピードを失いました。さらに肉食動物に比べて、力も弱く、爪や牙などの身体的な武器もありませんでした。そこである戦略が用いられるようになりました。

 

 それが「おにごっこ戦略」です。

 

 これはとにかく長い時間、獲物を追いかけまわし、獲物が疲れ切ったところで狩りをするという戦略です。ヒト以外の哺乳類は瞬発性に富んだ白筋が多く、また発汗機能が乏しいため、長い距離を走ると体内に熱がこもり、どうしても休息が必要になります。

 

 これに対して、ヒトは長い足、長いアキレス腱や大きな大殿筋、熱を十分に放出できる発汗機能など長い距離を走れるように身体を進化させていきました(Bramble DM, 2004)。

 

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 おいかけっこ戦略によって得られる獲物の肉は貴重なタンパク質源であり、長く走ることに優れたものが選択的に生き延びることができました。このようにしてヒトは「長く走る」ように進化してきたのです。

 

 そして、長く走るためのエネルギー源になったのが「体脂肪」です。

 

 運動をするにはエネルギーが必要です。運動とは筋肉を動かす(収縮する)ことで、エネルギーはアデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)という物質がアデノシン二リン酸(ADP:adenosine diphosphate)に分解されることで補われます。

 

 ATPは筋組織にも貯蔵されていますが、非常に量が少なく数秒で使い切ってしまうため、ほかからATPを再合成する仕組み(代謝系)が必要になります。筋肉のエネルギー代謝には大きく分けて酸素を使わない無酸素性代謝であるクレアチンリン酸系や解糖系、酸素を使う有酸素性代謝である有酸素系の3つの仕組みがあります。

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 この3つの仕組みは、運動の強度や時間によって使い分けられています。

 

 無酸素性代謝であるクレアチンリン酸系や解糖系は、運動開始から数秒または数分の高強度な運動で用いられます。このような運動では酸素は使わずに、おもに筋肉内に貯蓄していたATPを利用(クレアチンリン酸系)したり、筋肉内に貯蓄していたグリコーゲンを分解してATPを再合成します(解糖系)。筋トレのスクワットやベンチプレス、100m走などの短距離走などのような短時間で高強度の運動に適したエネルギー代謝になります。

 

 これに対して有酸素性代謝は運動を開始してから数十分から数時間の長い運動時に用いられます。有酸素代謝は、酸素を利用しておもに脂質や糖質を酸化することで ATPをつくり出します。ジョギングやスイミング、サイクリングなどが代表的な有酸素運動になります。

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 このようなエネルギー代謝の仕組みから、長い距離を走るためのエネルギー代謝には有酸素代謝が適しており、この仕組みはヒトに利点を与えました。なぜなら、ヒトは他の霊長類よりも体脂肪率が高いことから、脂質を酸化してエネルギーを作り出すことに長けているからです。

 

 旧石器時代のおいかけっこ戦略は、長い距離を走るように身体を進化させ、他の動物よりもエネルギー源となる体脂肪が多いヒトにおいては最適な戦略だったのです。

 

 しかし、現代では、もう獲物を追うことはありません。そのかわり、有酸素運動は脂肪を減らしてダイエット効果を高めることを目的として行われるようになりました。獲物を追いかけるための有酸素運動から、ダイエットをするための有酸素運動に変わっていったのです。そして、現代の運動生理学は、もっとも脂肪を減らすための有酸素運動の方法論を明らかにしつつあります。

 

 まずは、もっとも脂肪を減らす「運動強度」について見ていきましょう。

 

◆ もっとも脂肪を減らす有酸素運動の「運動強度」

 

 ジョギングやサイクリングでは、追い込めば追い込むほど脂肪が分解されるのかというと、そうではありません。有酸素運動のエネルギー源は、おもに脂質と糖質が使用されますが、その割合は運動強度によって異なるからです。

 

 では、脂質が優位に酸化される運動強度はどのくらいなかというと、マーストリヒト大学のvan Loonらはこう述べています。

 

 「運動中も『会話ができる』ぐらい」

 

 van Loonらは、被験者に30分間、自転車を漕がせながら徐々に運動強度を高くし(安静時→40%→55%→75%)、その際の筋肉内グリコーゲン、血液中のグルコース、血液中の脂肪酸中性脂肪(トリアシルグリセロールなど)の酸化度合いを計測しました。

 

 その結果、脂肪の酸化に関与する血液中の脂肪酸および中性脂肪の利用は運動強度の40%〜55%でもっとも高く、75%では減少することが示されました。

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Fig.1:van Loon LJ, 2001より筆者作成

 

 この結果は、これまでに報告された研究結果(Romijn JA, 1993)を支持するものであり、もっとも脂肪を利用する割合の高い運動強度は「40-60%程度の中等度」であることが示唆されています。

 

 では、中等度の運動強度を行うためには、何を目安にしたら良いのでしょうか?

 

 そのひとつが「運動中の会話」です。

 

 運動強度を徐々に高めていくと低〜中強度であれば運動中に会話をすることができます。しかし、高強度になると、呼吸が荒くなり、酸素需要が追いつかずにエネルギー代謝の仕組みが糖を使う解糖系に移行していきます。そのため、高強度では会話ができなくなります。ここから中等度の運動強度の目安は「会話ができる程度」とされているのです。

 

 客観的な目安が欲しい場合は「心拍数」を計測しましょう。

 

 中等度の運動とは、最大予測心拍数の50〜70%程度の心拍数で実施できるものとされています。最大予測心拍数は「208-0.5〜0.7×年齢」で算出できます。

 

 あなたが40歳であり、60%の中強度で有酸素運動を行う場合、最大予測心拍数は184(208-0.6×40)となり、中強度の運動の目安となる心拍数は1分間に「110回(184×0.6)」となります。

 

 ジョギングやサイクリングなどの有酸素運動は、最大予測心拍数の70%以下であり、会話ができる程度の中強度の運動強度で行うことがもっとも脂肪を減らすのに適した運動強度になるのです。

 

 では、もっとも脂肪を減らすためには、どのくらいの運動時間を行えば良いのでしょうか?



◆ もっとも脂肪を減らす有酸素運動の「運動時間」

 

 中強度の有酸素運動をどのくらいの時間行うと脂肪が減りやすくなるのか?という問に、現代の運動生理学はこう答えています。

 

 「30分以上は頑張ろう」

 

 中等度の運動を行うと、短時間の運動ではエネルギー源の割合が糖質が脂質よりも優位ですが、30分以上行うとその割合が反転し、脂質が糖質を上回ることが示唆されています。そのため、脂肪を優位に分解するためには、中等度の有酸素運動を30分以上行うことが必要であるとされています(Powers SK, 2014)。

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Fig.2:Powers SK, 2014より筆者作成

 

 また、4時間の運動時間における脂肪の酸化速度を調査したテキサス大学の研究結果では、脂肪の酸化は30分までに急速に高まり、その後も運動時間の増加ととも促進されることが示唆されています。

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Fig.3:Klein S, 1994より筆者作成

 

 これは、主にアドレナリンの分泌量の増加が要因とされており、運動時間の増加とともにアドレナリンの分泌量が増加し、リパーゼが活性化することよって脂肪(トリアシルグリセロール)から脂肪酸が血液中へ放出され、エネルギー源として消費されます。

 

 これらの知見から、有酸素運動で効果的に脂肪を酸化させるためには「30分以上」は運動することが推奨されているのです。



◆ もっとも脂肪を減らすのはジョギング or サイクリング?

 

 では、中強度の運動強度で30分以上の有酸素運動をするとき、ジョギングとサイクリングのどちらがより脂肪を酸化させるのでしょうか?

 

 この問を最初に検証したのがバーミンガム大学のAchtenらです。

 

 Achtenらは、サイクリング経験者を対象として、徐々に運動強度が増加する運動テストをサイクリングとジョギングにおいて実施し、その際の脂肪の酸化速度を計測しました。その結果、どの運動強度においてもジョギングはサイクリングよりも脂肪の酸化が高いことが示唆されました。

 

 しかし、Achtenらの研究はサイクリング経験者を対象にしたものであり、運動経験の差が研究結果に反映された可能性が指摘されていました。

 

 そこでサイクリングもジョギングも経験している被験者を対象に調査をしたのがケープ・タウン大学のCapostagnoらです。

 

 Capostagnoらは、サイクリングもジョギングも経験している被験者を対象に、それぞれの運動テストを行い、脂肪の酸化速度を調査しました。

 

 その結果、運動強度の60%である中強度では、ジョギングはサイクリングよりも脂肪の酸化が高いことが示されました。

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Fig.4:Capostagno B, 2010より筆者作成

 

 これらの結果から、同じ運動強度であれば、ジョギングはサイクリングよりも脂肪を分解させやすいことが示唆されたのです。

 

 なぜ、ジョギングはランニングよりも脂肪を分解させやすいのかというと、その理由が2つあります(Capostagno B, 2010)。

 

 ひとつは、ジョギングは全身的な運動であるのに対して、サイクリングは局所的な運動であることです。

 

 サイクリングは主に脚を使った運動様式のため、ジョギングよりも脚への相対的な運動強度が高くなります。運動強度の増加は、エネルギー源を脂質から糖質に移行させます。そのため、ジョギングよりもサイクリングでは脂肪の酸化が少なくなると推察されています。

 

 もうひとつは、筋線維タイプの違いです。

 

 ジョギングでは多くの割合でタイプⅠ線維の遅筋が収縮しますが、サイクリングではタイプⅡ線維の速筋の収縮割合が多くなります(Tsintzas K, 2003)。タイプⅡ線維のエネルギー代謝の仕組みは有酸素系ではなく、解糖系が主になります。そのため、サイクリングでは脂肪の酸化が低くなることが示唆されています。

 

 これらの研究結果およびメカニズムから、もっとも脂肪を減らす有酸素運動はジョギングであるとされているのです。

 

 

 旧石器時代の狩猟活動では、獲物を長い時間を追い回して、相手を疲れさせてから仕留める「おにごっこ戦略」が採用されていました。

 

 おにごっこ戦略を成功させるには、長い時間、ゆっくり走り続けなければなりません。しかし、食糧事情が厳しい旧石器時代では、空腹でも狩猟活動をしなければなりません。そこで、食べれるときに食べて蓄えた脂肪をエネルギーに変換することによって、空腹の中でもおにごっこ戦略を行うことができたのです。

 

 そして、現代の運動生理学は、ダイエットのために脂肪を効率的に減らす有酸素運動の方法論を明らかにしつつあります。

 

 それは「長い時間(30分以上)、ゆっくり(中等度の運動強度)、走る(サイクリングよりもジョギング)」という、おにごっこ戦略とおなじ運動様式だったのです。

 

 

 

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◆ 参考文献

Bramble DM, et al. Endurance running and the evolution of Homo. Nature. 2004 Nov 18;432(7015):345-52.

van Loon LJ, et al. The effects of increasing exercise intensity on muscle fuel utilisation in humans. J Physiol. 2001 Oct 1;536(Pt 1):295-304. 

Romijn JA, et al. Regulation of endogenous fat and carbohydrate metabolism in relation to exercise intensity and duration. Am J Physiol. 1993 Sep;265(3 Pt 1):E380-91.

Powers SK, et al. Exercise Physiology: Theory and Application to Fitness and Performance. McGraw-Hill Humanities Social 2014.

Klein S, et al. Fat metabolism during low-intensity exercise in endurance-trained and untrained men. Am J Physiol. 1994 Dec;267(6 Pt 1):E934-40.

Horowitz JF, et al. Lipid metabolism during endurance exercise. Am J Clin Nutr. 2000 Aug;72(2 Suppl):558S-63S.

Achten J, et al. Relation between plasma lactate concentration and fat oxidation rates over a wide range of exercise intensities. Int J Sports Med. 2004 Jan;25(1):32-7.

Capostagno B, et al. Higher fat oxidation in running than cycling at the same exercise intensities. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2010 Feb;20(1):44-55.

Tsintzas K, et al. Effect of exercise mode on blood glucose disposal during physiological hyperinsulinaemia in humans. Eur J Appl Physiol. 2003 Apr;89(2):217-20.