市販されているプロテイン・サプリメントは数多くあり、そのもととなるタンパク質の種類には、乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆タンパク質のソイなどがあります。そのため「どのタンパク質がもっともトレーニングの効果を高めるのか?」という声をよく聞きます。
この問いについて、54ものタンパク質の品質の研究報告をレビューし、答えを導き出したのがテキサス医科大学のRaidyらです。
Raidyらは最初に「タンパク質の種類はそんなに関係ない」と言います。
このことは、筋肉のもととなる筋タンパク質の合成作用が時間で換算された「合成量」で考えるからです。
タンパク質の摂取パターンは人によりそれぞれです。研究によりもっとも効率的なタンパク質の摂取パターンは3時間おきとされています。この場合はファストタンパク質と言われるホエイが最適になります。しかし5-6時間おきにタンパク質を摂取するパターンではスロータンパク質であるカゼインを選択したほうが筋タンパク質の合成量は高くなるのです。
『筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう』
Raidyらは次に、タンパク質の種類よりも大事なことがあると言います。それが「ロイシンの量」です。
今回は、なぜロイシンの量が重要なのか、その科学的根拠について考察していきましょう。
Table of contents
◆ 筋タンパク質の合成作用のkey factorはロイシンである
筋肉を肥大させるためには、筋タンパク質の合成作用を高めなければなりません。筋タンパク質の合成作用は、血液中のアミノ酸の濃度により促進されます。しかし、体内で作ることができる非必須アミノ酸では合成作用は促進されません。体内で作ることができない必須アミノ酸(EAA)によって促進されます。さらに必須アミノ酸は9種類ありますが、その中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA)であるロイシンの働きが近年、注目されています。
『筋トレの効果を最大にする栄養摂取のメカニズムを理解しよう』
ロイシンが筋タンパク質の合成作用を促進させるメカニズムはとても複雑で完全に解明されているとはいえません。ロイシンは筋肉細胞内でSestrin2と結合し、GATOR2の働きを抑制することによって、分子複合体であるmTORC1シグナル経路を活性化させ、mRNAの翻訳調節を介し…これ以上はさすがに読むのが嫌になると思いますので、詳細は教科書をご参照ください。。。
ロイシンの重要性が決定的になったのは、2016年の雑誌ScienceでロイシンセンサーであるSestrin2の存在の確認が報告されたことです。これによって、ロイシンが筋タンパク質の合成作用を促進させるkey factorであることが強く示唆されているのです(Wolfson RL, 2016)。
では、実際にロイシンは、筋タンパク質にどのような影響を与えるのでしょうか?
◆ ロイシンの量が筋タンパク質の合成作用を左右する
ロイシンが注目される中、ロイシンの量による筋タンパク質の合成作用への影響を調査したのが、マクマスター大学のChurchward-Venneらです。
2014年、Churchward-Venneらは、40名の被験者を対象に、レジスタンストレーニング後のタンパク質の摂取を4つの条件に分け、摂取後4.5時間の筋タンパク質の合成量を比較しました。
4つの条件とは、ホエイタンパク質とロイシンの摂取量に応じて分けられています。
・多いホエイ25g(WH)
・少ないホエイ6.25g(WL)
・少ないホエイ6.25g+少ないロイシン0.75g(HL+LL)
・少ないホエイ6.25g+多いロイシン5g(WL+LH)
*WH:Why High、WL:Why Low、LL:Luecine Low、LH:Leucine High
その結果、多いホエイの摂取に比べて少ないホエイでは、やはり筋タンパク質の合成作用は低い値を示しました。
Fig.1:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成
また、少ないホエイに少ないロイシンを加えても多いホエイを上回ることはできませんでした。
Fig.2:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成
しかし、少ないホエイでも多くのロイシンを摂取することで、多いホエイと同様の筋タンパク質の合成量が示されました。
Fig.3:Churchward-Venne TA, 2014より筆者作成
この結果からChurchward-Venneらは、少ないホエイタンパク質に少量のロイシンを加えても合成量を高めることはできないが、ロイシンの量が十分であれば、豊富なホエイタンパク質と同等に筋タンパク質の合成量を高められることを明らかにしました(Churchward-Venne TA, 2014)。
ホエイ25gの1/4である6.25gでもロイシンによって同じ筋タンパク質の合成量が得られるという結果はとてもインパクトがありました。このことは、筋タンパク質の合成作用がタンパク質の摂取量の増減に関わらず、ロイシンの量が決め手であることを示唆しています。また、タンパク質の品質の研究では珍しく、ランダム比較試験(RCT)による結果であることからも注目されています。
プロテイン・サプリメントのもととなるタンパク質の種類にはホエイをはじめカゼイン、ソイなどがあります。それぞれのタンパク質は吸収速度などの特徴をもっています。そのため、タンパク質の種類ではなく、摂取パターンによって最適なタンパク質を選ぶことをRaidyらは推奨しています。
そして、このようなロイシンの効果の背景から、それぞれのタンパク質による筋タンパク質の合成作用を最大化するためには、そこに含まれている「ロイシンの量」が重要であるとRaidyらは述べているのです(Reidy PT, 2016)。
では、どの程度のロイシンの量を摂取すれば良いのでしょうか。ロイシンの摂取量は年齢や活動性により影響されます。次回はロイシンの摂取量について確認していきましょう。
筋トレの重要なエビデンスをまとめた新刊です!
◆ 読んでおきたい記事
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
シリーズ⑬:筋トレの効果を最大にするロイシンについて知っておこう
シリーズ⑭:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取方法まとめ
シリーズ⑮:筋トレの効果を最大にするベータアラニンについて知っておこう
シリーズ⑯:いつまでも若々しい筋肉を維持するためには筋トレだけじゃ不十分?
シリーズ⑰:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実
シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)
シリーズ⑳:長生きの秘訣は筋トレにある
シリーズ㉑:筋トレの最適な負荷量を知っておこう(2017年8月版)
シリーズ㉒:筋トレが不安を解消するエビデンス
シリーズ㉓:筋肉量を維持しながらダイエットする方法論
シリーズ㉔:プロテインの摂取はトレーニング前と後のどちらが効果的?
シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由
シリーズ㉖:筋トレの効果を最大にするウォームアップの方法を知っておこう
シリーズ㉗:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間を知っておこう(2017年9月版)
シリーズ㉘:BCAAが筋肉痛を回復させるエビデンス
シリーズ㉙:筋トレの効果を最大にするタマゴの正しい食べ方
シリーズ㉚:筋トレが睡眠の質を高める〜世界初のエビデンスが明らかに
シリーズ㉛:筋肉の大きさから筋トレをデザインしよう
シリーズ㉜:HMBが筋トレの効果を高める理由~国際スポーツ栄養学会のガイドラインから最新のエビデンスまで
シリーズ㉝:筋トレの効果を高める最新の3つの考え方〜Schoenfeld氏のインタビューより
シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに
シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう
シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実
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シリーズ㊳:筋トレとアルコールの残酷な真実(続編)
シリーズ㊴:筋トレの効果を最大にする「関節を動かす範囲」について知っておこう
シリーズ㊵:筋トレが続かない理由〜ハーバード大学が明らかにした答えとは?
シリーズ㊶:筋トレと遺伝の本当の真実〜筋トレの効果は遺伝で決まる?
シリーズ㊷:エビデンスにもとづく筋肥大を最大化するための筋トレ・ガイドライン
シリーズ㊸:筋トレしてすぐの筋肥大は浮腫(むくみ)であるという残念な真実
シリーズ㊹:時間がないときにやるべき筋トレメニューとは〜その科学的根拠があきらかに
シリーズ㊺:筋トレの効果を最大にする新しいトレーニングプログラムの考え方を知っておこう
シリーズ㊻:筋トレは心臓も強くする〜最新のエビデンスが明らか筋トレ後のアルコール摂取が筋力の回復を妨げる?〜最新の研究結果を知っておこう
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シリーズ63:ホエイ・プロテインと筋トレ、ダイエット、健康についての最新のエビデンスまとめ
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シリーズ78:筋トレによる筋肉痛にもっとも効果的なアフターケアの最新エビデンス
シリーズ79:筋肥大のメカニズムから筋トレをデザインしよう
シリーズ80:筋トレの効果を最大にする週の頻度(週に何回?)の最新エビデンス
シリーズ81:筋トレ後のクールダウンに効果なし?〜最新のレビュー結果を知っておこう
シリーズ82:筋トレの総負荷量と疲労の関係からトレーニングをデザインしよう
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シリーズ103:筋トレは朝やるべきか、夕方やるべきか?〜最新エビデンスを知っておこう
シリーズ104:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!【最新エビデンス】
◆ 参考論文
Wolfson RL, et al. Sestrin2 is a leucine sensor for the mTORC1 pathway. Science. 2016 Jan 1;351(6268):43-8.
Churchward-Venne TA, et al. Leucine supplementation of a low-protein mixed macronutrient beverage enhances myofibrillar protein synthesis in young men: a double-blind, randomized trial. Am J Clin Nutr. 2014 Feb;99(2):276-86.
Reidy PT, et al. Role of Ingested Amino Acids and Protein in the Promotion of Resistance Exercise-Induced Muscle Protein Anabolism. J Nutr. 2016 Feb;146(2):155-83.