リハビリmemo

理学療法士・トレーナーによる筋トレやダイエットについての最新の研究報告を紹介するブログ

歩くときの体の使い方を変えるヒント


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「体の使い方」

最近、リハビリにおいてよく聞かれるフレーズです。

股関節術後や脳卒中片麻痺では、歩くことが可能でも健常歩行の筋活動パターンに比べて、代償性の筋活動パターンが残る傾向が認められます。

この代償性の筋活動パターンは、働いて欲しい筋肉の収縮の阻害因子になったり、他の関節に余計な負荷を加え痛みを誘発する原因になります。

そのため、「体の使い方を変える=歩行を適応させる」ことをリハビリで求められます。患者さんは、セラピストから歩く際に「この筋を意識して」、「踵から接地するように意識しましょう」などの指導を受けることが多いと思います。さらに、意識してできるようになったけど、すぐに戻ってしまう経験も多いのではないでしょうか。

紹介する文献は、この歩行の適応と「意識的に取り組む」ことの関係性について検証した報告です。

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Thinking about walking: effects of conscious correction versus distraction on locomotor adaptation.

Journal of Neurophysiology, 2010

対象は、健常者33名。

被験者を以下の3つの歩行条件にグループ分けされ、歩行課題を施行。

①条件なしグループ(n=11):特別な指示なし

②歩行指導グループ(n=11):歩幅の指示や視覚的フィードバックを受ける

③注意散漫グループ(n=11):歩行と関係ない課題(計算や質問)を受ける

歩行課題は、Split belt treadmillというトレッドミルを用いた。このトレッドミルは左右のベルトの回転速度が異なり、一方は遅く、一方は早く回転するように設定することが可能な機器である。

このトレッドミル上で歩行すると、最初は歩幅が非対称性になるが、歩行を続けることで徐々に対称性に改善(適応)される。この対称性の改善速度を計測することで、歩行の適応能力を評価することができる。その後、左右同じ回転速度にすると、再度、歩幅が非対称なり、徐々に対称性に戻る。この対称性の改善速度により、前に学習された効果の持続性(後効果)を評価することができる。つまり、歩行の適応速度と、その後の適応の持続性を評価することが可能な実験方法である。

被験者は、まず歩行条件関係なく、左右同じ速度で5分間歩行する。

その後、歩行条件に応じて、左右異なるの速度で16分間歩行する(学習期間)

再度、歩行条件関係なく左右同じ速度で5分間歩行する(後効果期間)

歩行の学習・持続の評価は、左右の歩幅の対称性とし、適応期間、後効果期間において対称性改善時間を測定した。

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その結果、

適応期間では、歩行指導グループが最も早く対称性が改善し、注意散漫グループが最も対称性の改善が遅かった。

しかしながら、後効果期間では、注意散漫グループが最も遅く対称性が改善し、歩行指導グループが最も早く対称性の改善が認められた。

とのこと。

 

わかりにくいので、結果を要約します。

・指導を受けて意識的に歩いた場合は、適応速度は早いが、適応の持続は短い。つまり飲み込みは早いが、忘れるのも早い。

・逆に意識的でない場合は、適応速度は遅いが、適応の持続は長い。つまり飲み込みは遅いが、忘れにくい。

ということです。意外と思われるかもしれませんが、セラピストの方は思い当たる節があるのではないでしょうか。歩き方を指導し、その場では改善できても、次回のリハビリのときには戻ってしまっている経験が一度はあると思います。

患者さんにおいても意識すると出来るけど、他のことに意識が及ぶと前の歩き方に戻ってしまうことがありますよね。

歩行時の体の使い方を変えるというのは、野球やスキーなどのスポーツのように新しいスキルを身につける(skill learning)ではありません。持っている歩行能力を新たな歩行に適応させる(locomotor adaptation)ことです。skill learningは指導のようなフィードバックがあるほうが上達が早いですが、このskill learningは、歩行適応の持続に効果的でない可能性をこの報告は示唆しています。

この知見は、セラピストに、患者さんが意識的に取り組んでも改善が継続しない問題を解決するきっかけを与えてくれていると思います。その場合は、意識的でない動作でターゲットの動作・筋活動を誘発できる練習課題を考え、その課題を時間をかけて反復することが近道になるのかもしれません。

locomotor adaptationの神経メカニズムについては長くなるので次の機会にします。

 

「説明がわからない」「これが知りたい」などのご意見はTwitter  @takumasa39 まで。