ヒトは、筋肉や関節を損傷した場合や運動麻痺が生じた場合、無意識に体の使い方を変えることで補うシステム(代償運動)が働きます。
この代償的な体の使い方には、下記の2通りに分かれます。
①動作を変えずに他の筋を過剰に働かせることで代償するパターン
②動作自体を変化させるパターン
また、動作を変えずに筋活動を変化させるパターンを優先的に用いることが報告されています(Twitterに記載)。
今回の報告は、歩行時に歩容を変えない場合に見られる、代償的な筋活動パターンについて検証した基礎研究の報告です。
reference)
Evaluation of the influence of muscle deactivation on other muscles and joints during gait motion.
Journal of Biomechanics, 2004
Delpらが開発した筋骨格モデルを使用し、ある筋を不活動にさせた場合の代償的な筋活動を測定。筋骨格モデルについての詳細は、数学的アルゴリズムなどを用いており説明が難儀なため、原著を参照願います。
結果のみ提示。
横列に不活動の筋名が並んでおり、歩行時の不活動に対する他の筋の代償的活動を数値的に示している。
特徴的なもののみピックアップ(任意)。
*不活動筋:代償筋(代償度の高いものから記載)
・大殿筋: ハムストリングス、広筋(単関節筋)、中殿筋
・中殿筋:小殿筋、大殿筋、大腿筋膜張筋
・小殿筋:中殿筋
・ハムスト:大殿筋
・大腿直筋:腸腰筋、広筋
・広筋:大腿直筋、大殿筋
・ヒラメ筋:腓腹筋、広筋
とのこと。
とても興味深い報告です。個人的には、大殿筋と膝伸展筋、腸腰筋と腓腹筋、腸腰筋と膝伸展筋の関係は、歩行バイオメカニクスと重なるところが多いと思われます。
麻痺や筋力低下している筋に対して、歩行における代償的な過活動筋に予測を立てれることは、触診などの情報と統合することで、臨床推論に大きく寄与するものと思われます。
例えば、股関節疾患で大殿筋の機能不全が存在している患者さんが長距離を歩いた場合、大腿四頭筋に痛みがでる可能性が予測され、問診、触診のターゲットに選択できます。
また、この報告は、中枢神経疾患(脳梗塞など)にも応用でき、セラピストの歩行介入において有用な報告ではないでしょうか。
「説明がわからない」「これが知りたい」などのご意見はTwitter @takumasa39 まで。