小脳や大脳皮質が歩き方の適応に関与することは、脳損傷モデルで明らかになっている(以前のブログ)。
特に、小脳は歩行適応の大きな役割を担っていることが動物研究でも示されている(Medina, 2008)。
今回の報告は、神経生理学的介入により、歩行適応に対する小脳の関わりを検証したものである。
reference)
Human locomotor adaptive learning is proportional to depression of cerebellar excitability.
Cerebral Cortex, 2011
対象は、健常者9名。
Sprit belt treadmillを用いて、左右の回転速度が異なる3パターンの歩行課題を実施。
①左右の異なる回転速度(A)
②左右同じ回転速度だが、時折、左右の回転速度がランダムに変化(B)
③左右同じ回転速度(C)
課題の前後で、TMS(経頭蓋磁気刺激)を2つ用いて、小脳と運動野を刺激するpaired pulse TMSという方法で刺激を行い、前脛骨筋から運動誘発電位を抽出した。
その結果、
①のみで歩行適応が認められ、①の運動誘発電位のみ振幅の増大が認められた。
また、歩行適応の結果と誘発電位の振幅増加に強い相関関係が認められた(r=0.84)。
これは、小脳の興奮性の減少が歩行適応に関与していることを示すものである。
とのこと。
小脳のプルキンエ細胞による長期抑制が、歩き方を変える、そして維持することに寄与していることを神経生理学的に示した報告。
歩行適応に小脳が寄与することは、脳損傷の研究で示されていたが、神経生理学的に示したのはこの論文が初めて。さらに、小脳ー視床ー皮質の回路が損傷すると歩行適応能力も障害される可能性にも言及しており、この部位の脳卒中後の歩行適応という視点で考えると興味深い。
歩行を変えるメカニズムを理解することは、臨床での歩行指導に大きく役に立つものだろう。
今後も、歩行適応のメカニズムについて紹介しながら、自分も学んでいこうと思う。
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