「自分の後ろ姿は、自分じゃ見えないんだなぁ」相田みつを
私の好きな言葉である。
歩くときに「踵から地面に着く」、「膝を高く上げる」ことは自分の目で見て確認することができる。
しかし、体の後ろで足がどのように蹴り出しているかは自分じゃ見えない。
歩く際に、体の後方で足が地面を蹴り出す時期を「立脚後期」、英語で「terminal stance:TS」という。
立脚後期の足の動きが加齢とともに減少し、特に転倒しやすい高齢者に認められることが近年、明らかになっている(Kerrigan DC, 2001)。
この立脚後期の足の動きは、「股関節の伸展可動域」がkeyとされている(Jaclyn R, 2011)。
今回は、この自分では見えない歩行時の「股関節の伸展」の重要性について述べていきたい。
少し難しい話になるが、歩行は「運動エネルギー」を「位置エネルギー」に如何に上手に変換するかが、楽な歩き方のポイントになる。
運動エネルギーは地面を蹴り出すことで生まれる。
地面を蹴り出し、運動エネルギーにより勢い良く前方に足が振り出される。
踵から接地すると運動エネルギーにブレーキがかかり、上方へエネルギーの向きが変わる。つまり、位置エネルギーに変換され、重心が上方へ持ち上げられる。
このように、地面を蹴り出すことで生まれる運動エネルギーは、振り出された足を接地することでブレーキがかかり、重心を持ち上げるための位置エネルギーに変換されるのである。
つまり、「蹴り出し」と「ブレーキ」をしっかりと行えることが、運動エネルギーと位置エネルギーの変換効率を高める因子となる。
この「蹴り出し」による運動エネルギーの生成に、「股関節の伸展可動域」が必要となる。
股関節の伸展がしっかり行えない場合、蹴り出しが上手く行えず、生まれる運動エネルギーが少なくなる。
そうすると次のブレーキ時に上方へ変換されるエネルギー量が少なくなり、その量を補うために不必要な足の筋力が必要となる。これは、とても非効率的な歩き方となり、疲れやすい歩き方になる。
また、しっかりと蹴り出すことは、体をしっかり伸ばす力になる(慣性力)。
しっかり蹴り出すことができないことは、体への慣性力が働かないことになり、体を前傾させやすくするとともに、骨盤を前傾さるため、さらに股関節の伸展が生じづらくなる。
結果、疲れやすく、転びやすい歩き方になるのである。
転倒予防、アンチエイジングには「股関節の伸展」を意識したストレッチをお勧めします。
*上記のストレッチは健常高齢者に対応した方法です。
そして、
「歩行時の自分の後ろ姿は、自分じゃ見えないんだなぁ」
自分で見えなければ、担当の理学療法士にしっかりと見てもらいましょう。
股関節リハビリシリーズ
股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント
股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点
股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由
股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方
股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か
股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2)
股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント
股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント
股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法
股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度
股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法
股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展
股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ
股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法
股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント
股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)
股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨
股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)
股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ
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