変形性股関節症の発症には、遺伝的要因が関与していることが明らかにされている。
末期股関節症の遺伝度は27%(オッズ比1.86)と報告されている(Chitnavis J, 1997)。
これらの股関節症に特異的な原因遺伝子の同定には至っておらず、また、アジア人と欧米人とでは共通のリスクとならないとされている(Lane NE, 2006)。
今回の報告は、日本人における股関節症発症との原因遺伝子について検証したものである。
reference)
Human molecular genetics, 2005
対象は、変形性股関節症患者428名(男性24・女性404)、健常者1008名(男性517・女性491)。
研究目的は、Calmodulin1gene(CALM1)の遺伝子多型と股関節症との関連を検討することである。
介入の詳細は難解ため原著参照。
その結果、
・股関節症では、関連遺伝子型が健常者に比べて多い(オッズ比2.40-2.51)。
・この差は、性差はなく、臼蓋形成不全の有無も差がなく、いずれも高い。しかし、臼蓋形成不全のない股関節症(1次性)がより有意に大きかった。
・これらの関係は膝関節症では認められなかった。
・CALM1は変形軟骨で正常軟骨よりも多く発現している。
・CALM1とアスポリン(基質蛋白)のD14alleleをともに有する患者では、股関節症のオッズ比が13.16と相乗的に股関節症のリスクが高くなる。
結果から、CALM1が軟骨形成に影響を及ぼし、股関節症の発症リスクになることを示唆された。この知見は股関節症の新しい治療ターゲットとなる可能性がある。
とのこと。
本研究は、日本人の股関節症の特定遺伝子を明らかにしたものである。著者は2010年にもCALM2が股関節症の遺伝的決定因子であることを明らかにしている(参照)。このような遺伝子研究が進めば、股関節症の遺伝子治療の確立が期待できる。
しかしながら、日本人に多い臼蓋形成不全を基盤とした2次性股関節症の遺伝要因は明らかにされていない。
股関節症の患者さんにとって、遺伝性というのは大きな負担である。更なる研究の進展を期待するとともに、新たな知見については本ブログでも紹介していきたい。
股関節リハビリシリーズ
股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント
股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点
股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由
股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方
股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か
股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2)
股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント
股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント
股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法
股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度
股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法
股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展
股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ
股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法
股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント
股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)
股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨
股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)
股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ
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