今回は小脳疾患の障害像と損傷部位の関係について勉強しましょう。
それでは、高い棚にある本を取ろうとする場面を思い浮かべてみて下さい。
ここで本をとる際の身体の運動を順を追って見てみましょう。
①リーチ動作に先行して下肢や背筋の筋が収縮する(予測的姿勢制御)
②本に向かって上肢をリーチする
③本を落とさないように把持する
このように本をとる動作は、主に3つの運動機能に分けることができます。これらの運動機能を大きな枠組みで捉えると以下のようになります。
①予測的姿勢制御→平衡機能
②上肢のリーチ→四肢の粗大運動
③本の把持→末梢の巧緻運動
そして、この3つの運動機能の役割をそれぞれ小脳の部位が担っているのです。
小脳は主に前庭系、脊髄、大脳皮質とつながる3つの領域に分けることができます。また、それぞれの領域はカッコ内の小脳の部位に相当します。
①前庭小脳系(小脳片葉)
②脊髄小脳系(小脳虫部・傍部)
③大脳小脳系(小脳半球)
この3つの領域の機能的役割を理解するのに先ほどの3つの運動機能がそのまま当てはまるのです。
つまり…
①予測的姿勢制御→平衡機能→前庭小脳系(小脳片葉)
②上肢のリーチ→四肢の粗大運動→脊髄小脳系(小脳虫部・傍部)
③本の把持→末梢の巧緻運動→大脳小脳系(小脳半球)
これで小脳の3つの領域の機能的役割が概ね理解できると思います。もう少し詳細に述べると、前庭小脳系は前庭器からの入力を受け、目の運動やバランス、平衡機能に関与します。脊髄小脳系は体性感覚や視覚、聴覚からの入力を受け、四肢の近位筋の協調性をコントロールします。大脳小脳系は大脳皮質からの入力を受け、四肢の末梢筋の協調性をコントロールします。
そのため、前庭小脳系がある小脳片葉の損傷では、眼振や平衡機能障害が生じ、座位や立位保持が困難になります。いわゆる前庭性失調ですね。脊髄小脳系がある虫部、虫部傍部の損傷では、体幹失調や四肢近位筋の失調が生じます。そのため、測定障害や反復運動障害、運動時振戦、失調性歩行が認められます。大脳小脳系がある小脳半球の損傷では、手指の巧緻運動障害や構音障害を認めます。
このように小脳の3つの領域とその機能的役割を知っていると画像からも障害像がイメージできますし、障害像からも小脳の損傷部位を推察することができるんですね。
例えば、先ほどの本を取るシーンで考えてみましょう。
①本に手を伸ばそうとしても姿勢を保持できずに倒れてしまう(前庭小脳系の問題)
②本に手を伸ばそうとリーチしてもブレてしまう(脊髄小脳系の問題)
③本にリーチできても上手く把持できない(大脳小脳系の問題)
という感じになります。ぜひとも臨床で活用してみてください。
姿勢制御のしくみとリハビリテーション
シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう
シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう
シリーズ③:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①
シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②
シリーズ⑤:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①
シリーズ⑥:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②
脳のしくみとリハビリテーション
シリーズ①:小脳の障害像と損傷部位の関係を理解しよう
シリーズ②:ロンベルグ試験から立位姿勢制御のしくみを理解しよう
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シリーズ④:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ①
シリーズ⑤:ヒトの皮質網様体路と姿勢制御 ②
シリーズ⑥:ヒトの皮質網様体路と歩行制御
シリーズ⑦:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ①
シリーズ⑧:ヒトの大脳皮質と姿勢制御 ②
本エントリは、Neuroscience: Fundamentals for Rehabilitation, 4eを参照して作成しています。Nueroscienceは洋書ですが、豊富なイラストと平易な英語で記載されており、日本語の教科書にはないリハビリテーションの視点で書かれた神経学の教科書になります。この本を通読すれば、中枢神経系の英語論文も読めるようになるでしょう。基礎を固めるのには最適な教科書です。
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