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Archives of physical medicine and rehabilitation, 2012
脳卒中後の歩行スピードに麻痺側下肢のどの筋肉が関係してるかを調査した報告。
歩行が自立している慢性脳卒中患者60名を対象に、麻痺側下肢筋の筋力(12群に分類)と個々の快適歩行速度を測定した。
筋肉の分類
・股関節 伸展筋、屈曲筋、外転筋、内転筋、外旋筋、内旋筋
・膝関節 伸展筋、屈曲筋
・足関節 背屈筋、底屈筋、内反筋、外反筋
その結果、歩行速度に関与する筋力は、股関節伸展筋・屈曲筋・内旋筋・内転筋、膝関節伸展筋・屈曲筋、足関節背屈筋・底屈筋・外反筋であった。さらに、その中でも最も寄与率が高かったのは、「足関節の背屈筋力」であり、背屈筋力は、歩行速度を高める重要な役割を有していることが示唆された。
という話。
日常生活で必要となる歩行スピードは、0.66m/secとされている(参照1)。横断歩道を急いでわたるには1m/secが必要とも言われている。そのため、脳卒中後のリハビリにおいて、歩行スピードの改善は重要な意味をもつ。
今回の報告では、背屈筋力の重要性の理由として、歩行時の遊脚期の足部クリアランスを確保できないことが、代償的に下肢を外旋させ遊脚する非効率的な歩行を形成させるためだと述べている。
確かに遊脚期の効率性低下も関与していると思うが、自分としては、立脚期に必要となる、いわゆる「rocker function」の活用に足関節背屈筋力が関係していると考える。背屈筋力の獲得が、rocker functionの最初の段階であるheel rockerを作り出すことで、運動エネルギーを効率的に位置エネルギーに変換させることが可能となる。その結果、その後の蹴り出しによる推進力が生み出され、歩行スピードの増加に寄与すると推察する。
もう一つの要点は、今回の報告は、歩行が自立した脳卒中患者が対象ということである。脳卒中後の歩行では膝の伸展筋が歩行に寄与することが以前より多く報告されている(参照2)。これらの報告は、亜急性期の歩行が自立していない患者が主に対象である。つまり、発症後早期の歩行改善には、膝の伸展筋力が重要であり、歩行自立後、さらに歩行スピードを高めたい場合は、足関節の背屈筋力を高めることが有用なのかもしれない。
いずれにしても、筋力トレーニングは、その筋力がどのように歩行機能に寄与するかを予測し行うことが必要である。今回の報告は、そのヒントを与えてくれている。
脳卒中リハビリシリーズ
脳卒中リハビリ①:バランス感覚には、足底感覚へのアプローチ!
脳卒中リハビリ②:自転車トレーニングでは、速度一定でお願いします。
脳卒中リハビリ③:脳卒中早期からFES自転車運動で体幹機能を高めよう!
脳卒中リハビリ④:FES自転車運動は姿勢制御に効果的
脳卒中リハビリ⑤:自転車トレーニングは、ただ漕いでるだけじゃダメ。
脳卒中リハビリ⑥:自転車で突っ張る筋肉をほぐせるかも。
脳卒中リハビリ⑦:歩行スピードを高めたいなら、足関節背屈筋力を高めよう。
脳卒中リハビリ⑧:歩行距離をのばすには、やっぱり足関節背屈筋力?
脳卒中リハビリ⑨:上手に歩くためには、エンジンとブレーキ、どっちが大事?
脳卒中リハビリ⑩:歩行立脚期の機能改善には、この装具で。
脳卒中リハビリ⑪:遊脚期の足関節背屈を増強させる新しいトレーニング
脳卒中リハビリ⑫:視覚的フィードバックで知らないうちに歩行が変わる?
脳卒中リハビリ⑬:フィードバック療法で麻痺側の足を使えるようにしよう。
脳卒中リハビリ⑭:非麻痺側下肢も見逃すな。
脳卒中リハビリ⑮:ただ自転車を漕ぐだけではダメな根拠
脳卒中リハビリ⑯:片麻痺にもインソールは有効。
脳卒中リハビリ⑰:中殿筋への機能的電気刺激療法は、歩行の対称性を改善させます
脳卒中リハビリ⑱:効果的な立ち上がり練習の方法
脳卒中リハビリ⑲:立ち上がり動作と荷重感覚
脳卒中リハビリ⑳:筋力トレーニングだけでは効果なし
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