「手術か保存療法か」
この選択に悩む患者さんは多いと思われる。
しかしながら、手術を勧める報告は多いが、保存療法の報告は本当に少ない。
これでは、保存療法の適応が不透明であり、保存療法による効果(即時的、継続的)は、患者さんもセラピストも予測できてないのが現状なのではないだろうか。
今回の報告は、前期股関節症患者の1年間の保存療法の効果について、臨床指標を用いて検証したものである。
reference)
American Academy of Physical Medicine and Rehabilitation, 2012
対象は、50歳以下の前期股関節症患者58名(軽度の先天性股関節脱臼・大腿骨寛骨臼インピンジメントを含む)。
保存療法は、Lewis and Sahrmannらのプロトコルに準じて施行。
効果の測定項目は、痛み・運動機能・生活の質(table 3参照)について保存療法開始時、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後にアンケート調査された。
全ての被験者が保存療法を受けたが、3ヶ月後に外科的判断にて継続困難とされた6名が離脱し、52名が最後までこの調査(保存療法)に参加した。
その結果、
被験者の44%に運動機能、痛みの改善が認められ、保存療法終了時も手術を選ばなかった。しかし、被験者の56%は手術することを選んだ。
下の図は、この手術選択の有無において、身体、痛み、生活の質などの特徴を比較したものである。
この中で、唯一、有意差が認められた項目は、"Baecke total score"である。
これは、スポーツやレジャーなどの活動度を表す指標であり、活動度の高い被験者は、手術を選択する傾向にあることが示された。
とのこと。
とても興味深い報告である。
まず、保存虜法の効果は約半数の患者さんに認められたということ。
そして、手術を選択された患者さんの特性は、先天性股関節脱臼(DDH)や大腿寛骨臼インピンジメント(FAI)などの疾患や疼痛の程度ではなく、「活動レベル」に依存することが示唆されている。
つまり、スポーツやレジャーなどの趣味活動により活動レベルが高い場合、保存療法の結果に満足することができず、手術を選択される傾向にあるということなのだろう。
手術か保存療法か、迷う場合は、ご自身のライフスタイルが決め手になるかもしれない。
また、この知見は、セラピストによる生活指導の重要性を示してる。保存療法では、患者さんへの細やかな生活指導が効果的なポイントになると思われる。
しかしながら、この報告に限らず、保存療法の報告は本当に少ない。また、報告自体も被験者数が少なく、研究モデルのエビデンスレベルが高くないなど、まだまだ保存療法の効果が認知されるレベルには到っていないの現状である。
保存療法に関わる日本のPTの方々には頑張って頂きたい。
股関節リハビリシリーズ
股関節リハビリ①:歩行時の振り出しで上手に腸腰筋をつかうためのヒント
股関節リハビリ②:力学的負荷から見た股関節運動の注意点
股関節リハビリ③:歩行時の股関節伸展角度が出にくい理由
股関節リハビリ④:股関節症術後に見られる階段昇降の足の使い方
股関節リハビリ⑤:手術か保存療法か
股関節リハビリ⑥:手術か保存療法か(その2)
股関節リハビリ⑦:人工股関節術後に残りやすい歩き方のポイント
股関節リハビリ⑧:人工股関節術後に残りやすい立ち上がり動作のポイント
股関節リハビリ⑨:自分で簡単に変形性股関節症の程度を確認できる方法
股関節リハビリ⑩:歩容から見る変形性股関節症の重症度
股関節リハビリ⑪:変形性股関節症の簡単な脊椎疾患との鑑別法
股関節リハビリ⑫:変形性股関節症の遺伝子研究の進展
股関節リハビリ⑬:最新手術「筋肉温存型人工股関節置換術」まとめ
股関節リハビリ⑭:歩きに適した外転筋トレーニングの方法
股関節リハビリ⑮:見落としがちな歩き方のポイント
股関節リハビリ⑯:見落としがちな歩き方のポイント(その2)
股関節リハビリ⑰:変形性股関節症の保存療法と関節軟骨
股関節リハビリ⑱:変形性股関節症とランニング(まとめ)
股関節リハビリ⑲:人工股関節置換術とスポーツ
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