もし、歩行練習に効果的な物理療法があるのなら?
経頭蓋直流電気刺激療法(tDCS)がこの10年の間に注目を浴びている。
tDCSは、1m〜2mAの微力な直流電気を大脳皮質の一次運動野に与えることにより、神経の興奮性をコントロールすることが可能である(Nitsche MA, 2000;下図参照)。
多くは大脳皮質を刺激し、脳卒中の機能改善に応用されているが、近年では、tDCSを小脳に応用して、小脳の神経活動を変調させる可能性が示されている(Galea J, 2009)。
小脳は、歩行適応において重要な役割を担っている部位である(過去ブログ)。
今回の報告は、小脳へのtDCSが歩行適応にどのような影響を与えるか検証したものである。
reference)
Modulating locomotor adaptation with cerebellar stimulation.
Journal of Neurophysiology, 2012
対象は、健常者40名。
歩行の適応課題には、Split belt treadmillを使用した。
Split belt treadmillは左右のベルトの回転速度を調節でき、被験者は最初、左右の回転速度に適応できず、歩幅が乱れるが(非対称性)、時間の経過とともに無意識に対称性に変化する(適応する)。これにより、適応のしやすさを評価できる。また、適応後、左右の回転速度を同じにすると再度、歩幅が乱れる。これを適応の後効果と言い、時間の経過とともに通常の歩幅に戻る。これにより、適応の継続性を評価できる。
被験者は、tDCSの陽極刺激、陰極刺激、偽刺激の3条件で、刺激部位を速く回転するベルト側と同側の小脳半球と遅く回転するベルト側と同側の小脳半球に分けて同定した。
tDCSは歩行適応中に実施された(下図参照)。
アウトカムは、歩行適応期(adaptation)、後効果期(post-adaptation)での歩幅の左右対称性、時間的パラメーター(立脚期時間、二重支持時間)、空間的パラメーター(歩幅、重複歩距離)とした。
その結果、
①速く回転するベルド側の小脳半球に対するtDCSでは、歩行適応期での陽極刺激は、陰極刺激、偽刺激に比べて、左右非対称性の改善(適応のしやすさ)が促進された。しかし、後効果(適応の継続性)には有意差はなかった(下図参照)。
②遅く回転するベルト側の小脳半球に対するtDCSでは、歩行適応期、後効果に有意差は認められなかった(下図参照)。
また、①の歩行適応期では、時間的・空間的パラメーターとも促進された。
とのこと。
Splid belt treadmillの研究はモデルがわかりにくいので、結果を簡単にまとめる。
リハビリで「対称性に歩くことを練習する」と仮定する。
・tDCSの陽極刺激を問題のある足と同側の小脳半球に実施しながら練習すると、普通に練習するよりも学習が速くなる(適応しやすくなる)。
・しかし、次回のリハビリで対称性の歩き方を忘れにくくなるかというと、そこまでの継続性の効果(適応の継続性)は認められなかった。
ということ。
適応の継続性に効果が認められないことについて、著者は刺激時間の短さ、大脳皮質との相互関係の問題を挙げている。今後の更なる研究に期待したい。
tDCSが脳卒中や股関節術後の歩き方の学習に効果があると認められれば、頭を電気刺激しながら、歩行練習をするリハビリ風景が近い未来に見られるかもしれない?
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