ドローンはラジコンヘリに比べて何がすごいかというとセンサー技術なんです。スマホが広まるにつれて、センサー技術も高まり、なおかつ安価になったことがドローンの開発に寄与したそうです。 なので、空中で安定して姿勢を保持できるので、空撮に最適なんですよね。
それでは、今回は、歩行適応のセンサーについて考察してきましょう。
歩き方を変えるということは、すでに獲得している歩行を新たな環境に適応させることであり、歩行適応と呼ばれている。歩行適応は、獲得している歩行と新たな歩行との誤差(エラー)を修正することで学習されるtrial and error based learningにもとづいている。
それでは、歩行適応はどのようにエラーを感知し、修正しているのであろうか?
■歩行適応のセンサーは踵(かかと)
ヒトは、凍った路面を歩く際、路面の滑りやすさを感知し、滑らないように歩き方を変える。このとき、ヒトはどのようにして路面の滑りやすさを感知し、対応するのだろうか?
Perkinsらは、「滑る」ことを物理学的に定義すると、足を接地させたときに生じた摩擦力が床面の滑りやすさ(最大摩擦係数)を越えた場合に滑るとしている(Parkins PJ, 1983)。つまり、滑ることは以下の不等式で表すことができる。
接地時の摩擦力>床面の最大摩擦係数
よって、滑って転ばないためには、床面の最大摩擦係数よりも接地させたときの摩擦力を少なくすることが必要である(摩擦力<最大摩擦係数)。それでは、この摩擦力を生じさせているのはどこかというと、「踵」であり、歩行周期の踵接地期(Heel contact: HC)であり、ランチョ・ロス・アミーゴ方式で言えば初期接地(Initial contact: IC)になる。私たちは、踵を接地した際に踵で滑りやすさを知覚し、床面の最大摩擦係数を超えないように摩擦力を抑えているのである。
それでは、このHC時の摩擦力をどのように制御しているのだろうか?
Chamberらは、成人と高齢者を対象として、滑りやすい床を歩かせたときの筋活動パターンについて調査している。その結果、滑りやすい床を歩く場合、踵接地時に前脛骨筋と内側腓腹筋が共同収縮(co-contraction)を起こしていることを明らかにした。また、高齢者は、成人に比べて、この共同収縮が弱く、短い傾向にあり、この差異が転倒に寄与していると考察している(Chamber AJ, 2007)。
また、Nakazawaらは、突然、床面の一部が1cm沈むWalk way(歩道)上を歩かせ、突然、床が沈んだ際の足関節周囲筋の筋活動を調査した。その結果、踵接地時に足関節の底背屈筋が共同収縮することを明らかにした(Nakazawa K, 2004)。
これらの結果から、ヒトは、踵を接地した際に路面が滑りやすいのか、または沈むような路面なのかを知覚し、姿勢の安定性を保つために足関節の共同収縮による剛性を獲得すると示唆される。
歩行における踵接地は最初に床面とコンタクトする時期であり、そこで知覚された情報をもとに足関節の共同収縮などにより歩容を変えて対応するのである。つまり、歩行適応におけるエラー抽出は踵接地時に行われ、そのエラーを修正するように歩行が適応されていくと推測される。
そして、近年、OgawaらはSplit belt treadmill(SBT)を用いて、この仮説について検証している(Ogawa T, 2014)。
■SBT研究による検証
SBTによる歩行分析の研究は多くあるが、筋活動や床半力を調査した運動力学的研究は多くない。Ogawaらは、筋電図と床半力計を用いて、歩行適応を運動力学的側面から解析した。
SBTは2つの回転ベルトを有し、左右のベルトの速度を変えることで非対称的な歩行を適応させることができる(下の動画がわかりやすい)。
『Motion analysis of asymmetric walking patterns - Dr. Amy Bastian』
実験は、成人を被験者として、SBT上を歩行する際は前方を注視させ床を見ないように統制した。これは歩行適応に視覚的フィードバックが寄与することを防ぐためである。
最初は6分間、左右のベルトを同じ速度で回転させ、通常歩行させる(base line)。次に10分間、左右のベルトを異なる速度で回転させる(learning phase)。ここで左右非対称な歩行が適応される。最後に6分間、左右のベルトを同じ速度にして通常歩行を行う(washout)。これらの歩行適応過程において、筋電図と床半力の変化を測定した。
その結果、learning phaseの歩行適応初期では、遅いベルト側において前方方向への床半力が大きく増加した。また、筋活動は前傾骨筋の増加が示された。歩行適応が進むとこれらのアウトカムは減少を示した。
✻Ogawa T, 2014を著者にて改変
前方方向への床半力は歩行の制動力を意味する。歩行適応の初期では、床面の回転速度に対応するために制動力を大きくし、その制動力のコントロールに前脛骨筋の筋活動の増加が寄与していることが示唆された。さらに歩行適応が進むと制動力、前脛骨筋の筋活動も減少する。これは歩行適応の予測的反応が制動力ならびに前脛骨筋の筋活動の減少に反映されていることを示している。さらにこれらの現象は踵接地時に生じているのが注目すべき点である。
つまり、歩行適応は踵接地時の足関節周囲筋の筋活動に伴う制動力のコントロールにより成されているのである。
これは、ヒトは滑りやすい床面など環境変化時において、踵接地時に足関節の共同収縮により対応していることを肯定した結果である。さらに、歩行適応におけるtrial and error based learningが踵接地時の知覚にもとづいて行われ、学習による予測的反応は足関節制御に伴う制動力に反映されることを明らかにしている。
転倒恐怖感を有する高齢者は、歩行中の足関節の共同収縮が増加しているという報告がある(Nagai K, 2011)。これは、転倒の予測的反応として捉えることができ、予測的反応は足関節制御に反映されるという結果を示した良い例である。
■歩行における踵接地の役割
踵接地の役割というと、一般的にはPerryの提唱しているロッカーファンクションのヒールロッカー機能になるだろう。これは、踵接地時の衝撃吸収とともに、下腿の前傾を誘発することで回転モーメントを生じさる。このような機能は、踵接地時に生じる足関節の底屈モーメントに対する前脛骨筋の遠心性収縮によって行われる。このヒールロッカー機能により運動エネルギーを位置エネルギーに変換し、倒立振り子モデルのように重力を上手く使用し、エネルギー効率の高い歩行を実現させている。
そして、この踵接地の役割に今回、歩行適応の重要な役割を追加したい。踵接地はヒールロッカー機能とともに、床面の状態を知覚する役割をもつ。このセンサーにより、新たな歩行環境に即時に反応し、知覚した環境と歩行状態の誤差を修正することにより、予測的に歩行を適応することが可能なのである。
我々は、370万年前から踵で大地を踏みしめ、様々な環境に適応し、世界を渡り歩いてきたのである。
歩行のしくみとリハビリテーション
歩行のしくみ①:CPGについて考えよう
歩行のしくみ②:歩行適応について考える
歩行のしくみ③:歩行適応の神経メカニズム
歩行のしくみ④:歩行を早く適応させる2つの方法
歩行のしくみ⑤:歩行を早く適応させる2つの方法・その2
歩行のしくみ⑥:歩行の起源
歩行のしくみ⑦:歩き方をデザインする基準
歩行のしくみ⑧:歩行適応における踵接地の役割
歩行のしくみ⑨:加齢により歩行の適応能力は変化する?①
歩行のしくみ⑩:加齢により歩行の適応能力は変化する?②
歩行のしくみ⑪:歩行速度で余命を予測しよう
歩行のしくみ⑫:歩行速度で転倒リスクを予測しよう
歩行のしくみ⑬:脳卒中後の歩行速度とQOL
歩行のしくみ⑭:生体力学が教える速く歩くためのポイント
歩行のしくみ⑮:生体力学が教える速く歩くためのポイント②
歩行のしくみ⑯:脳卒中の発症部位と歩行速度
歩行のしくみ⑰:ヒトの皮質網様体路と歩行制御
Reference
Perkins PJ, et al. (1983) Slip resistance testing of shoes new development. Ergonomics 26: 73-82.
Chambers AJ, et al. (2007) Slip-related muscle activation patterns in the stance leg during walking. Gait & Posture 25: 565–572.
Nakazawa K, et al. (2004) On the reflex co-activation of ankle flexor and extensor muscles induced by a sudden drop of support surface during walking in humans. J Appl Physiol 94: 604–611.
Ogawa T, et al. (2014) Predictive control of ankle stiffness at heel contact is a key element of locomotor adaptation during split-belt treadmill walking in humans. J Neurophysiol 111: 722–732.
Nagai, K, et al. (2012) Effects of the fear of falling on muscular coactivation during walking. Aging: Clinical and Experimental Research 24: 157-161.
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